非国民通信

ノーモア・コイズミ

ウクライナの独立を願う

2025-03-17 21:30:59 | 政治・国際

 トランプ政権に変わって隠し立てにされることは少なくなりましたが、昔から日本はアメリカより多くの干渉を受けてきました。日米合同委員会や日米経済調和対話といったアメリカの要望を一方的に聞く仕組みも確立されていますし、そうでなくともアメリカがどこかの国を敵と認定すれば日本もこれに倣う、アメリカが制裁措置を決めれば日本も同調する、もちろん韓国と対立したり遠洋での捕鯨に固執したりと例外はありますが、総じて日本はアメリカの意向に沿って国の方向を決めてきたわけです。

 もし仮に、我々は独立国であり他国の干渉を受ける謂れはない、として独自の全方位外交へと方針を転換したらどうなるでしょうか? 治外法権を認めず米軍兵士を日本の法律で裁いたらどうなるでしょうか? さらには日本から外国の軍隊を退去させたらどうなるでしょうか? アメリカとの関係は悪化することが必至ですが、逆に中国やロシアといった隣国からは歓迎されることでしょう。日本が独立国であることを望んでいるのはどこの国か、逆に望んでいないのはどこの国か、そこは意識されるべきと思います。

・・・・・

 通貨安競争や投機マネーの流入出によって左右されるところはありますけれど、為替レートは国の経済力によって調整されるものです。ところが多国間で通貨を統一してしまうと域内での調整が利かなくなり、強い国はより強く、弱い国はより弱くなる方向に力が働きます。典型的なのが一時期のドイツとギリシャの関係で、本来なら自国通貨が高くなって輸出が不利になるはずのドイツが制度の恩恵を受け黒字を積み重ねる一方、本来なら自国通貨が安くなって輸出が有利になるはずのギリシャは赤字を積み重ねました。

 ここで独立した国であれば積極財政によって国の経済を立て直すことも出来るのですが、EU加盟国の場合は国と言っても実際には帝国内の自治体の一つに近い、自国の財政方針を自国で決めることが出来ず、EU帝国の差配に従うことが求められてしまいます。結果ギリシャは国外投資家の資産を守るため緊縮財政を強要され、経済を破綻させる結果に陥りました。そうでなくともEU加盟で手放さなければならない主権は財政に関わるものだけではなく、諸々の分野においてEU基準の遵守が求められる、自国だけの意思では物事を決められなくなるわけです。

 このEUにアメリカを加えたNATOも然りで、これに加入すれば「敵」と「味方」はNATOが決める、国内には外国の軍隊を駐留させることにもなります。自国の外交上の主権はNATOに上納せねばならなくなってしまうのですが、それでも加盟を望む国があるのは、例えるなら反社に加わりたがる人がいるのと同じようなものでしょうか。暴力団に入ることで失う自由もあるのは言うまでもありませんけれど、しかし組の看板でブイブイ言わせたい人もいるわけです。NATOに入れば「俺に逆らったらバイデンの親父が黙っちゃいねぇぞ」みたいに振る舞える、そう期待されているのでしょう。

・・・・・

 とりわけロシアは、アメリカの意向に付き従うばかりの国──日本を独立国ではないと批判しています。これはもっともな話ですが、ロシアの批判はもう一つの隣国にも向かっていることは意識されるべきでしょう。つまりウクライナとの最大の争点はNATO加盟の是非であり、これに反対する側がロシアでした。現実にはNATOの「予約済みの」国家としてウクライナは主権の少なからぬ部分をNATOに譲り渡してしまった節がある、3年前には停戦でまとまったはずのイスタンブール合意がイギリスの横槍で一方的にキャンセルされ、今はトランプへの代替わりで右往左往している、こうしたNATO諸国の意向次第のウクライナを最も嫌がっているのはどこの国かは考えられてしかるべきです。

 バイデンが思惑を隠して正当化のための装いを十分に整えて行動してきたのに対し、トランプは何もかも隠すことなくアメリカ側の欲望を表に出しています。いずれもウクライナから自国の利益を引き出そうとしている点は変わりませんが、そこで評価を異にしてしまう人がいるのはバイデンの象徴するネオコンの論理に飲み込まれているから、でしょうか。いずれにせよウクライナの資源はアメリカ陣営によって収奪される運命にある、ウクライナの平和を守るためとして実質的にはNATOがウクライナを支配しようとしているのが現状です。

 問題はこれが、当のウクライナ政府によって招かれた事態だと言うことです。経済的に弱い国がEUに加盟すれば「強い国」に富を吸い上げられる、「敵国」と隣接する国がNATOに加盟すれば前線基地として自国民は鉄砲玉にされる、いずれも上部団体の意向が優先となり自国だけでは物事が決められなくなる、EU/NATOに加盟するとはそういうことです。「自分が停戦を実現させた」という実績を作りたいトランプとは異なり、先代組長の意志を継ぐマクロンやスターマーなどの舎弟達はウクライナが戦争を続けられるように支援を強化すると息巻いていますけれど、その結果はどうなるのでしょうか。

 反対にウクライナがEUやNATOの支配に服さない「独立した」国であることを最も望んでいるのは、言うまでもなくロシアです。そしてアメリカに付き従う日本を批判し独立国であることを求めるのと同じように、ロシアはウクライナにも独立国であること=NATOに加盟しないことを求めているわけです。ウクライナを鉄砲玉に仕立て上げたいEU/NATOと、NATOの杯を貰ってブイブイ言わせたいウクライナ政府、隣国に独立国であることを求めるロシア、こうした観点で物事を捉え直してみると、真に望ましい着地点もまた見えてくるように思います。

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目次

2025-03-17 00:00:00 | 目次

 

社会       最終更新  2025/ 2/23

雇用・経済    最終更新  2025/ 3/ 3

政治・国際    最終更新  2025/ 3/17

文芸欄      最終更新  2024/12/14

編集雑記・小ネタ 最終更新  2025/ 3/15

特集:ロシアとウクライナを巡る基礎知識、現在に至るまでの経緯

序文 第一章 第二章 第三章 第四章 おまけ

 

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野党共闘

2025-03-16 21:16:19 | 政治・国際

千葉県知事選挙 現職の熊谷俊人氏の2回目の当選確実(NHK)

開票状況について、選挙管理委員会の発表はまだありませんが、NHKの事前の情勢取材や16日に投票を済ませた有権者を対象に行った出口調査などでは、自民党、立憲民主党、日本維新の会、公明党、国民民主党のそれぞれの県組織と市民ネットワーク千葉県が支持した現職の熊谷俊人氏が、共産党が推薦した小倉正行氏(72)らを大きく引き離して極めて優勢です。

また、期日前投票をした人への調査でも熊谷氏が小倉氏らを大きく上回っていて、熊谷氏の2回目の当選が確実になりました。

 

千葉市長選挙 現職の神谷俊一氏 2回目の当選確実(NHK)

開票はまだ始まっていませんが、NHKの事前の情勢取材や16日に投票を済ませた有権者を対象に行った出口調査などでは、自民党、立憲民主党、公明党、国民民主党のそれぞれの県組織が推薦し、日本維新の会の県総支部が支持した現職の神谷俊一氏が、共産党が推薦した新人の寺尾賢氏(48)らを大きく引き離して極めて優勢です。

また、期日前投票をした人への調査でも神谷氏が寺尾氏らを大きく上回っていて、神谷氏の2回目の当選が確実になりました。

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これが大陸の制度であったら非難囂々

2025-03-15 21:24:52 | 編集雑記・小ネタ

 ウクライナを舞台にしたロシアとNATOの戦争が浮き彫りにしたことの一つには、大半の人は歴史を知らないし知ろうともしないことが挙げられると思います。ほんの10年前の経緯すら理解せず、ただ場当たり的に一方の陣営に都合の良いプロパガンダを並べるだけ、大学教員もそこに嬉々として加担するのが現状です。こんな有様なだけに日本では韓国や台湾の歴史も知らない、それぞれがいつまで軍事独裁政権を築いていたかも知らない、ただ「西側」に属しているが故に「民主主義国」と扱っている人が大半なのではないでしょうか。

 

台湾、軍事裁判制度を復活へ 頼総統が発表 中国の浸透やスパイ活動の脅威に対応(フォーカス台湾)

(台北中央社)頼清徳(らいせいとく)総統は13日、現役軍人の犯罪行為を裁く「軍事裁判法」を全面的に見直し、軍事裁判制度を復活させると発表した。国軍に対する中国の浸透やスパイ活動の脅威に対応するためだと説明した。

(中略)

台湾では2013年に軍事裁判法が改正され、同法の適用範囲が「戦時」のみに限定された。そのため、平時では軍事裁判制度は運用されていなかった。

頼総統は、軍事裁判制度を復活させ、軍事裁判官を第一線に戻し、捜査機関や司法機関と協力して現役軍人の反乱や利敵行為、機密漏えい、職務怠慢、命令に背く(抗命)などの軍事犯罪の刑事事件を処理すると説明。今後、陸海空軍刑法に抵触する現役軍人の軍事犯罪事件は軍事法院(裁判所)で裁くとした。

 

 昨年は州じゃない方のジョージアで外国政府の資金で活動する組織を規制する法律が可決され、これが「ロシアの法律」と呼ばれて日米欧各国からの強い非難を呼びました。ただし同様の法律はロシアだけではなくアメリカにもカナダにもあります。そして今回の台湾総統府による軍事裁判の復活はどうでしょうか? 台湾は「西側」と見なされているが故に「民主主義を守るため」として特に問題視されてはいないようですが、逆に中国など欧米の支配に服さない独立した国で同様の制度が敷かれた場合は、世間の反応も異なるはずです。

 この辺は制度の是非ではなく、純粋に「どちらの陣営に属しているか」次第で「国際社会」の受け止め方が違う、同じ法律でも「民主主義を守るため」であったり「民主主義を脅かすもの」であったりするわけです。こうした扱いは公正なものではありませんし、不公正に扱う側がどれだけ屁理屈を重ねて自らの立場を正当化したところで、不公正に扱われた側がそのことを忘れることはないでしょう。日米欧が「国際社会」と呼んでいる排他的仲良しグループに属する国と、「グローバルサウス」とレッテルを貼っている国々の意識の差は、こういうところから生まれていると思います。

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ウクライナの法律

2025-03-09 21:37:23 | 政治・国際

 トランプ政権が発足して色々とバイデン体制からの転換が図られているわけですが、これまで嬉々としてアメリカの靴を舐めてきた日欧の政治指導者達が挙って反トランプに転じているのを見るのは痛快と言えるでしょうか。アメリカ第一主義の泰斗である岸田文雄前首相は「これまで米国が主導してきた自由で開かれた国際秩序を変えてしまう可能性がある。それが私たちがめざした世界の姿だとは私は考えない」と語ったとか。こうした自国民を顧みない政治家の理想世界が破壊されて行くこと以上に、世界人類にとって喜ばしいことはありません。

 

トランプ米政権、英語が「唯一の公用語」初指定 スペイン語排除が加速(産経新聞)

トランプ米政権は1日、英語を米国の唯一の公用語に指定する大統領令に署名した。米メディアによると、30以上の州が英語を公用語にしているが、連邦レベルで指定されるのは初めて。これに伴い、英語を使用しない住民に対する言語上の支援などを政府機関に義務付けた従来の大統領令は撤回される。

トランプ政権は公用語指定に先立ち、ホワイトハウスの公式サイトやX(旧ツイッター)でのスペイン語の使用を停止していた。スペイン語を排除し、中南米からの不法移民に圧力を強める動きがいっそう加速しそうだ。(時吉達也)

 

 一方こちらの大統領令は、他の話題に埋もれ気味のようです。まぁ日本の場合は英語を公用語に指名する企業もある、大学では教授言語の英語化が推進され、英会話学校のまねごとや語学留学の斡旋で世評を高めているところも珍しくないだけに、あまり抵抗がないのかも知れません。英語こそが世界の共通語なのだ、誰もが英語を話せるようになるべきなのだ、という認識はむしろ日本でこそ根付いているところもあるでしょう。しかるに現実のアメリカには英語以外、特にスペイン語を母語とする居住者が少なくないわけです。そうした人々の排除がトランプ政権の狙いと考えられますが、さて──

 昨年、州じゃない方のジョージア(以下グルジアと略)では外国からの資金提供によって活動する組織を規制する法律が可決され、西側メディアからは専ら「ロシアの法律」として報道されました。曰く「ロシアにも同様の法律があるから」とのこと。ただ補足するのであればアメリカにも同様の法律は古くから存在していますし、カナダでも同年に同様の法律が可決されました。アメリカの法律はアメリカの法律、カナダの法律はカナダの法律として何ら問題視されない一方、グルジアの法律は「ロシアの法律」と呼ばれ「民主主義の後退」などと非難されたわけですが、これぞ「自由で開かれた国際秩序」というものなのでしょう。

 本陣たるアメリカと衛星国であるカナダの場合、外国からの資金で活動する団体は「敵」であり、それに対する防衛のための法律は民主主義を守るものと位置づけられます。一方、調略対象であるグルジアや香港の場合、外国からの資金で活動する団体とは第一にアメリカの「民主化」工作機関ですから、これを阻止されることは好ましくないわけです。2014年のウクライナではアメリカの国務次官補も公然と参加した「革命」によって選挙で選ばれた大統領が追放されたりもしましたが、それを他国でも続けたいアメリカ陣営と、阻止したいグルジア政府との間で意見が一致しないのは当然のことと言えます。

 このウクライナの2014年クーデター後にはナチス協力者の名誉回復など様々な転換が行われました。そうした一環で「ウクライナ語を唯一の公用語とする」ことも定められたのですが、いかがでしょうか。アメリカでは同様に「英語を唯一の公用語」とする大統領令が署名されたとのこと、グルジアの例に倣えば、これを「ウクライナの法律」と呼んでも過言でははないように思います。ともするとウクライナ側に厳しい、ロシア寄りであるなどと偏った人々から悪罵されるトランプですけれど、決してそんなことはない、ウクライナに歩調を合わせている部分もある、今回のウクライナと同質の大統領令などはその表れだ、と言えます。

 アメリカでスペイン語を母語とする人が多いのは移民が多いから、ウクライナの場合は元々ロシア系住民が多数派の地域(ハリコフやオデッサ)を拠点とする共産主義陣営がキエフを征服してウクライナ・ソビエト社会主義共和国を形成し、その国境線のまま分離独立してしまったからと、両国では事情が少なからず異なります。ただ現在の国境線を維持する限りは国内で別の言語を母語とする人々とも共生しなければなりません。自国の最大版図を維持しつつも単一民族・単一言語の国家を目指せば反発は当然、内戦が起こっても致し方ないと私は思います。

 ウクライナでは歴史的経緯から、ソ連崩壊後もロシア語が事実上の第二公用語として定着していました。それがクーデター政権によって明確に否定され、行政サービスなど公共の場からロシア系住民の排除が図られたわけですが、トランプ政権もまた同じことをやろうとしていると言えます。ウクライナが手本としていたであろうエストニアやラトビアでも同様に、エストニア語やラトビア語を話せないロシア系住民には国籍を与えないなどの排除措置があり、結果として両国は目出度くEUとNATOへの加盟を果たしました。そして今、トランプは英語を話さない住民の排斥を進めようとしていますが──これぞまさにヨーロッパの普遍的な価値観をトランプが共有していることの証と評価されるべきではないでしょうかね。

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労組の役割

2025-03-03 21:25:23 | 雇用・経済

 さて巷では「春闘」が始まっていると伝えられています。一部の人にとっては重大事のようですが、大多数の人にとってはどうなのでしょうか。昔はいざ知らず現代は労組加入者も多数派ではなくなり、組合の存在しない大企業も珍しくなくなりました。そこで組合のある企業だけが賃上げを勝ち取り、組合のない企業は賃金据え置きのまま──という状況であれば労組や春闘の意味も疑う余地はありません。しかし実態は、せいぜいアクティブファンドとインデックスファンドの違いくらい、といった印象です。短期的にはアクティブファンドが成功を収めることもあるのですが、しかし長期的に見ると???

 実際のところ、昨今で目立って賃金が上がったのは「新卒」です。仮に労組の働きによって組合員の賃金が上がった会社はあるとしても、それ凌駕する上昇幅で新卒者の賃金を引き上げる企業が相次いでいます。結局は市場原理の力が大きい、企業が希少な若年層を奪い合えば新卒者の給料は劇的に上がる、雇用側が社員を囲い込もうとすれば賃金は上がる、逆に誰も採用したがらない年代の社員であれば賃金を下げても大丈夫、それが現実ではないでしょうか。組合潰しで悪名高いヘンリー・フォードが従業員の給与を倍増させることで熟練労働者を確保していたことは、まさに象徴的です。

 私が今の勤務先に入社した頃、「組合の強い会社だよ」と言われました。確かに、御用組合の強い会社なんだなと今では実感しています。事実上のユニオンショップ制で採用時は人事の手ほどきにより組合へ全員加入、会社が決めた労働条件の変更にも組合が全従業員を代表して同意することで社員の不満を封じ込める、それが労組の役割となっています。もちろん春闘などでも猛々しい言葉を並べて会社に要求を突きつけるフリをしてはいますが、結局は同業他社に及ばない賃上げ率で「苦渋の決断」を下すのが恒例と、もっぱら「プロレス」と呼ばれているのが現状です。

 組合の役員なんてのもPTAの役員と同じで、誰かが志を持って引き受けるのではなく罰ゲームのように持ち回りで扱われていたりします。誰もが組合に不満を抱きつつも、それを変えようとするのも難しい、と言ったところでしょうか。これを思えば日本の議会選挙なんてのはマシな方なんだな、とも思います。投票という負担ゼロの行動によって支配層の力関係が変わる、こんな手軽な仕組みは労組の世界にはありませんから。政治の世界には投票という意思表明の手段がある、しかし労組の世界では自分が矢面に立って本業そっちのけで行動しないと何も変えられない、日本の政治も大概ですが、労組はもっとまずい気がしますね。

 前々から、労組の世界の政権交代も必要だと私は主張してきました。共産党の影響を排除すべく作られた御用組合の「連合」が多数派として労働者を代表する権利を与えられているのが現状ですけれど、その結果として賃金の上がらない時代が長らく続いてきたわけです。そして組合員でも何でもない実績ゼロの新卒者の給与ばかりが大幅に引き上げられたり等々、労組が期待されている役割を果たしてこなかったことに議論の余地はありません。これが政治の世界であれば与党「連合」は支持を失って下野しても良さそうなところ、しかし労組の世界に政権交代の仕組みは……

 やるとすれば、まず連合傘下の御用組合から脱退する、その上で会社と戦える組合に加盟するか、自分で組合を作るかですね。この過程では必然的に、御用組合とも戦わねばなりませんし、その同盟者である会社の人事とも戦うことになります。選挙で野党に票を投じるような、そんな生半可な気持ちで出来ることではないでしょう。ことによると真に「民主化」が必要なのは労組の世界、野党に投票するぐらいの軽い気持ちで執行部の人事を入れ替えられるような、そんな仕組みが時代に求められているのかも知れません。

 何はともあれ、春闘を前に勤務先の組合からは「時間外拒否闘争」の指令が下されています。読んで字のごとく「時間外労働を拒否する」ということなのですが、これに意味があると思っている組合員は誰もいないことでしょう。ストライキのように本当に会社に打撃となるような取り組みであれば、会社からの譲渡を引き出すだけのカードになりますけれど、では時間外の拒否で会社が苦しむかと言えば、そこは職場次第、少なくとも私の勤務先では会社が困るようなことは全くなかったりするわけです。

 社員に時間外労働させて増産に取り組んでいる最中の工場などであれば、確かに時間外労働の拒否は会社の痛手となります。しかし経営側が残業代の削減に取り組んでおり、残務があれば社員が自分で対処しなければならないような職場では、時間外の拒否など会社から見て痛くも痒くもありません。工場労働者が中心の時代であれば、組合が指示するような方法でも会社への圧力となったことでしょう。しかし現在の産業は工場労働からは大きく様変わりしたものが多数派を構成しており、むしろ時間外の拒否は社員の首を絞める要素の方が強いとすら言えます。

 春闘期間において本当に会社へ圧力をかけたいのであれば、やるべきことは逆のはずです。雇用側も歓迎する時間外の削減など、「闘争」からは全く相反する試みでしかありません。だから反対のことをやる、積極的に残業する「生活残業闘争」の方が戦術としては正しいわけです。会社が賃上げに応じないのであれば、組合員はダラダラと会社に居座って残業代を請求する、早く帰れと言われても仕事が残っていると主張して応じない、こうなれば会社側も何らかの譲歩を考えざるを得ないことでしょう。もし労組が本当に会社と戦う気があるのなら、組合員には積極的に残業させるべきですね。それをやらない組合は、労働者ではなく雇用主の方を向いています。

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現在に目を閉ざす者は言うまでもなく盲目

2025-02-27 21:37:19 | 政治・国際

 ウクライナを舞台にしたNATOとロシアの戦争は開始から3年が経過し、今もなお日本のメディアには呆れるばかりのプロパガンダが書き連ねられています。一方アメリカでは大統領の交代があり、日本やヨーロッパ諸国からすると梯子を外された状態になりつつもあるのが現実です。これまではアメリカ側に立っている勢力を絶対の正義として、その反対側の国を貶めることに専念してきたのが日本の政治でありメディアであり、昨今は大学教員も大きく加担してきたところですが、しかるにアメリカ大統領が真逆の方向を向きつつある中で、彼らがどう現実と折り合いを付けていくのか興味深くもあります。

 この戦争で露になったのは「自分のことを平和主義者だと信じ込んでいる軍拡論者」の存在でしょうか。現代では右派から毛嫌いされているようなメディアでも、戦前は率先して開戦を煽っていたなんて話はよく知られるところですけれど、その辺は現代も変わらないように思います。平和を望む風を装いつつ、それでいて「敵」を理由にした軍拡はやむを得ないことなのだと積極的に肯定する、停戦案をウクライナの降伏であると強弁して罵倒し、ウクライナ人が最後の一人までロシアと戦うことを望んでいるかのように語り、自らの欲望の生け贄にしようとしている輩は枚挙にいとまがありません。

 そもそも日本国内の主要政党、大手メディア、論壇で活躍する現役大学教員の多くは徹底して現実から目を背け続け、アメリカに付き従って軍備を拡充する、アメリカに従わない国との対決に備えることだけが平和を保つ唯一の方法であるかのように喧伝を続けてきました。目の前で起こっている現実を都合良く塗りつぶすことに夢中となっているリアルタイム歴史修正主義の隆盛を前にすると、危機に陥っているのは日本国内の理性であるとも言えるのかも知れません。

 現実を直視するのであれば、今回のウクライナを舞台にした戦争ほど「軍事力ではなく外交によって解決できる」ことを証明しているものはないでしょう。この戦争は避けられずに発生したものではなく、望んだから起こったものです。遡ればロシアとウクライナ両国には長い歴史がありますけれど、大きな転機となったのは2014年の、アメリカの国務次官補も参加したクーデターです。ここでウクライナに、当時はネオナチ組織として認定されていた極右武装勢力を含む強固な反ロシア派政権が成立したことで両国の対立は決定的に深まりました。

 その後ウクライナの東部ドンバス地方ではクーデター政権と反クーデター派の未承認国家(ドネツク・ルガンスク共和国)による内戦が勃発、二度の停戦合意が結ばれるも合意破りの攻撃は激化し、またロシアが反対してきたNATOの東方拡大も止まるところがなく、とりわけウクライナはNATO加盟を憲法に定めるなど挑発姿勢を強め、事態は悪化の一途を辿ったわけです。そもそも非民主的な武装勢力によるクーデターを認めず、これに諸外国が制裁でも科して封じ込めに努めておけば戦争などは起こらなかったと言えますが、しかるに欧米諸国が選んだ道は真逆でした……

 ロシア側の第一の要求であったNATO加盟の阻止についてはウクライナもNATO陣営も一向に応じる姿勢を見せず、もう一つの要求であったドンバス地方の自治権と住民の恩赦についても、停戦合意違反の武力攻撃を繰り返すことで顧みるつもりはないとのメッセージを絶えずロシア側に送り続けていたのが2022年までの流れです。これは一種のチキンゲームで、どれだけロシア側を蔑ろにしても軍事侵攻までは踏み込まないだろうとの思惑が西側諸国にはあったと推測されますが、結果はご覧の通りで相手を舐めすぎたツケを払わされているわけです。

 そもそもクーデター政権の成立がなければ戦争の理由すらなかった、その後もNATO加盟がなければロシア側のレッドラインを超えることはなかった、ドンバス地方のロシア系住民に対する殺戮がなければ、それをロシアが守ろうとする意義も存在しなかったはずです。戦争は決して急には始まりません。そこに至るまでには長い道のりがあり、戦争回避の選択肢を斥け続けた結果として開戦に至るものです。だから戦争は常に外交によって回避できる、軍事力に頼る場面は望まない限りは訪れないと私は断言しますが──そこで何らかの欲望を持って現実から目を背け続けているのが我が国の現状なのかも知れません。

 ともすると軍拡には否定的で、外交による解決が可能であると従来は主張してきたはずの人でも、今回の戦争を前に宗旨替えしているケースは少なからず見受けられます。ウクライナを部隊にした戦争が始まるまでの経緯から徹底して目を背け、邪悪なロシアが一方的に攻め込んできたのだと、そうした世界観に浸って自らを慰めている人が自称ハト派の中にも目立つわけです。しかし「急にロシアが攻めてきた」という日米欧のプロパガンダを認めるならば、その帰結は軍事力による防衛しかなくなってしまいます。戦争の前段を「なかったこと」にしてしまえば、後は開戦あるのみなのですから。

 真に平和を希求するのであれば、ウクライナひいてはそこに干渉してきた国々の過ちをこそ反省すべきではないでしょうか。そもそも何故ウクライナがこれほどまでにロシアを敵視するようになったかと言えば、ソ連崩壊後の経済停滞の中で都合の悪いことを隣国のせいにしてきた、ナショナリズムを不満のはけ口として政治が利用するようになったことが挙げられます(結果として2014年のクーデターに繋がったわけですが、しかるに日本では2022年の戦闘開始から全てが始まったかのようなミスリードが続けられています)。こうした点は日本も同様で、国民の不満を排他的ナショナリズムへと昇華させようとする動きは既に深く根付いているところです。隣国を憎み、隣国への警戒感を強めることが国是になったならば、そこで「平和」のために必要なのは何になるのでしょうか?

 ウクライナではロシア寄りと見なされた大統領が、暴動によって追放されました。そして日本でも、少しでも中国寄りと見なされた政治家がどのような扱いを受けているかは思い起こされてしかるべきでしょう。隣国を嘲り敵視することで国民の喝采を集める、国内の反対派を攻撃し、隣国からの抗議は無視してひたすらにアメリカへすり寄る──これがウクライナのやってきたことであり、日本にも少なからず共通するところです。そんなウクライナの政治が日米欧の庇護によって成功を収めることは、世界にとってプラスでしょうか? むしろ誤った政治は罰されるべきで、そうなる前に日本はウクライナを他山の石とすべきなのだ、というのが私の考えです。

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衛星国と独立国の違い

2025-02-23 21:35:56 | 社会

人工知能はDeepSeekに続け!中国で過熱するAI教育、“国産”人材輩出に企業も親も躍起に(Wedge ONLINE)

 メディアでこうした経歴が披露されると、中国の保護者たちは沸き上がった。SNSには「彼はアメリカ留学組ではないのか。国内で学んだだけでここまですごいことができたとはすばらしい。中国の宝だ」「こんな逸材がいたなんて、やはり、我々はアメリカに負けていない」といった意見がさかんに飛び交った。

 梁氏の会社の主要メンバーである羅福莉氏も1995年生まれ、四川省の田舎出身で、北京大学大学院で修士号を取得した「天才少女」と呼ばれた女性だが、留学は未経験者だ。2人に共通するのは地方出身であること、そして、学歴は高いものの、それほど恵まれた環境で育ったわけではないという、たたき上げの人物であることだ。こうした経歴が、アメリカにライバル意識を持つ人々を喜ばせた。

 

 先月は"DeepSeek"という中国企業開発のAIが話題を呼びました。私の勤務先でも速やかに使用禁止令が通達されるなど、日米欧各国からは少なからぬ驚異と見なされていることが分かります。かつてのHuaweiがそうであったように、品質や性能面で欧米製品を上回れば上回るほど政治的な排除は強まるところですが、その結果は何をもたらすのでしょうか。確かにHuawei製品は日米欧のスマートフォン市場からは一掃されたかも知れません。にもかかわらずHuawei社自体は確実に成長し独自の製品開発も続いているわけです。

 中国への半導体及び関連製品の禁輸措置は強まるばかりであり、日本もまた忠実にアメリカの指令に従っています。最先端の半導体を中国の研究者や企業は手にすることが出来なくなったはずですが──その結果として中国は独自の技術研究を推し進め、ついには半導体の性能面での不利を覆しかねない技術を実現させつつあります。振り返れば日本も世界第二位の超大国であった当時はアメリカから諸々の圧力もかけられました。そこで日本と中国は別々の対応を選んだわけですが、綺麗に明暗が分かれたと言えるでしょうか。

 ともすると日本の大学は母国語ではなく英語で授業をやっているのが自慢、まるで英会話学校のようなカリキュラムを誇り、教育よりも語学留学の斡旋に力を入れているような類いが幅を利かせるようになりました。宗主国で認められているかどうかこそが成功の尺度であり、MLBでは散々な成績でも元メジャーリーガーとして「メジャー挑戦」前よりも高額の年俸を勝ち取る野球選手の存在も今となっては当たり前です。一方の中国では留学組ではなく国内大学の出身者が欧米から脅威と見なされる成果を上げているところで、これは率直に羨むほかありません。

 教授言語の母国語化は独立国であるための必須要件で、これを達成できない即ち宗主国の言語でしか高等教育が行えない国というのはどうしても、教育が語学のハードルをクリアした一部の人間だけの特権となり研究水準を底上げできない、宗主国のおこぼれに預かるばかりの国となってしまいます。日本も近代化にあたって外国の概念を日本語に落とし込む先人の営為が続いて今に至るのですが、近年は逆に教授言語の英語化が推し進められ日本語の拡張も行われなくなりました。今や何か新しい概念が国外で生まれてもそれは新たな日本語として落とし込まれることはなく、カタカナ英語として箔を付けるのに使われるだけ、文理双方の分野で日本の教育は退行を見せていると言わざるを得ません。

 

国公立大理系でも定員満たず全員合格 高校生に支持が広がらない「女子枠」の理想と現実(産経新聞)

女子枠は、出願者を女子に限定した入試制度で、主に理工系学部の総合型・学校推薦型選抜で行われている。大学によって志願動向に大きな差があるといい、人気の大学もある半面、志願者が募集人数に満たないケースや志願者が全員合格というケースもあるという。

24年入試の女子枠では、東北工業大で募集人員17人に対し志願者ゼロ。国公立でも琉球大工学部で募集人員20人に対し志願者数は2人で合格者が2人、北見工業大工学部で募集人員16人に対し志願者は13人で全員合格だったという。

 

 そんな我が国では女性の活躍に期待するというのが既定路線として続いてきたのですが、いかがなものでしょうか。医学部では学力試験で女性の受験者が優位に立つ傾向が見られ裏で調整があったり等々と問題になった一方、医学部以外の理系学部に女性はあまり興味を見出していないようです。医学部入試で合格点をとれるならば他の学部なんて余裕、わざわざ下駄を履かせる必要もないと言えますけれど、しかるに女性限定の特別枠を設けてもなお女性の志願者は集まらず定員割れすら起こっている有様とのこと、代わりに排除された男性受験者からの憤りが強まるとしても致し方ないところでしょう。

 

理工系の「女子枠」が拡大しても“やっぱり受験しない”と決めた女性たちのリアルな本音 「ほぼ男子大学はイヤ」「女が行っても仕方がないと親に刷り込まれて」(マネーポストWEB)

 Aさん(神奈川県/20代)は、工学部に行った姉の姿を見て、自身は別の学部に進学を決めたという。

「2つ年上の姉が地元の大学の工学部に進学しました。姉を見ていると、工学部は、大学生活で“損”をする気がしたんです」

 なぜ、大学生活が“損”になるのか。これは個人の考え方に大きく関わる部分だが、Aさんは「大学ではそこそこ遊びたかったから」だと本音を明かす。

「姉は、入学当初はメイクもおしゃれも頑張って通っていたみたいですが、夏休みが明けてからはほぼすっぴん、普段着に変わっていきました。聞くと『おしゃれをしても見せる相手がいないし、必修も多くて化粧や服装にこだわっている時間はない』とのこと。理系はどこも忙しいとは聞きますが、姉は『工学部はもはや“男子大学”だし、女子扱いされない』と言っていたので、それは嫌だなと思って、工学部は選択肢に入りませんでした」(Aさん)

 

 医学部入試で女性受験者の方が高得点と言うからには、その気にさえなれば女性が理工系の学部入試を突破するのは簡単なはずです。後は女性側の気持ちの問題ですね。大学で学んで専門家になるよりも、メイクもおしゃれも頑張る人間が理想の自分であるならば、それはもうどうしようもないでしょう。大学を勉強する場所ではなくメイクやおしゃれを楽しむキラキラした場所に作り替えることで女性の志願者は増えるとしても、今度は教育が意味を失うだけの話です。国として教育水準を引き上げようとするのなら、女性の方を変えなければなりません。

 一方でイスラム教が支配的な国の中には理工系の進学者に占める女性比率が高いところもあったりします。とりわけイランは女性の方が進学率が高い、一時は理工系の学部で女性が70%に達したとも伝えられるところです。日本では専ら、イランは女性が抑圧される世界と報じられてきました。しかるにイランでは日本の女性が望むような代物が制限されている一方で、むしろ学問の世界では日本よりも社会規範による矯正が少ない、男だから、女だからという理由で学部選択にバイアスがかかることが少ないのだとも考えられます。

 イランもまたアメリカに長らく敵視され中国のそれよりもずっと重い制裁を科されてきた、日本も少なからずそこに加担してきたわけです。そうしたなかでもイランは自国による技術開発に取り組み、アメリカやイスラエルにとって警戒を緩められない国であり続けています。もし中国やイランが日本のように宗主国べったりで、宗主国から睨まれれば自国による独自開発を捨て去るような国であったなら、今日の発展はなかったことでしょう。逆に日本が周回遅れでも再び成長の道に戻ろうとするのであれば、そこで見習うべき相手は宗主国ではなく、アメリカに立ち向かう独立国の方にあります。

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政治の役割

2025-02-17 21:30:21 | 雇用・経済

 ……こんな書き込みが少しだけ注目を浴びていたりしたのですが、いかがなものでしょう。これを書いたのは都民ファーストの会に所属する現役の都議会議員とのことで、上記のような認識は社会に一定の影響を及ぼしていると思われます。取り敢えず低所得でかつ女性が多い仕事としては介護や保育などが挙げられますけれど、こうした人々にリスキリングや仕事斡旋などを通じて転職を促せば、もう少し給与水準の高い業種に移ること自体は可能なのかも知れません。

 先般は埼玉県八潮市で大規模な陥没事故がありましたが巻き込まれた運転手は救出できず、復旧には急いでも3年かかかるとの見解すらあります。他県でも類似した陥没事故は相次いでいるところですけれど、そもそも復旧に必要な土木工事の人員が足りないのだとか。そして建設業の中でも土木従事者の給与水準は目立って低いようです。土木作業員にリスキリングや仕事斡旋などを通じて転職を促せば、取り敢えず低所得者支援にはなると言えますが、その結果はどうなるのでしょうね。参考、建設業の平均年収は567万!年齢別・業種別・地域別など詳細データも紹介(建設魂)

 なお家計の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は上昇傾向が続き単月では30%を上回るなど、過去40数年来の高水準にあるそうです。賃金水準の長期低迷や税金と保険料の上昇に加えて、食品価格の大幅なインフレが原因として挙げられますが、それでもなお生産者側が儲かる状態にはないのだとも言われています。確かに第一次産業の平均所得は二次産業、三次産業に比べて顕著に低いわけです。ならば農業や畜産業の従事者にリスキリングや仕事斡旋などを通じて転職を促せば、低所得者支援としては有効──なのかも知れません。

・・・・・

 出産には特別のスキルや資格を求められたりはしませんが、少子化は加速する一方です。献血は健康な人間であれば誰でも出来ますが、血液は慢性的に不足しているわけです。誰でも出来ることは、誰かがやってくれることではありません。誰でも出来るはずなのに、誰もやってくれない、そんな未来は十分にあり得ます。世の中が必要としていることは、必ずしも人々が率先してやりたがることではありません。だからそこには何らかの正の動機付けが必要になってくると言えますが、政財界の理解はどれほどのものでしょうか。

 維新村こと大阪ではバス運転手の給与水準が異常に高いと憤慨する政治家が支持を集め、その給与水準を大きく引き下げた結果、今では路線バスの維持が困難になり開幕の迫る万博の送迎バス運行にも暗雲が立ちこめています。では解決策は何か──これは至って単純なことで、今の惨状を招いた方法と真逆のことをやれば良いとしか言えません。世の中のために必要な仕事には政府や自治体が金を出す、ただそれだけのことで自体は改善に向かうことが見込まれます。

 社会にとって必要な職種ほど賃金が低く抑え込まれる傾向は他国でも見られるところですが、そうした市場原理のゆがみを是正する役割を政治が自覚しているかどうかで、社会の持続可能性は変わります。社会に必要だけれど低賃金の仕事に就いている人々が、リスキリングや就職支援を通じて社会には必要ないが高給の仕事(例えばコンサルタントなど)に移動すれば、我々の世の中がどうなるかは容易に想像できることでしょう。

 総じて給与水準は「社会に必要とされているかどうか」とは無関係で、「就業難易度」に左右されるところが大きいです。社会に必要でなくとも就くのが難しい仕事は給料も高い、そして給料が高いから就きたがる人が増えて競争率は高まり、さも権威ある仕事のように錯覚されてしまう、反対に社会に欠かせなくとも就くのが簡単な仕事は給料が低い、給料が低いから就きたがる人が増えず人手不足となり、ますます採用のハードルが低くなることで価値のない仕事であるかのように誤解される、それが市場原理のもたらす負の循環です。これを是正するのもまた政治の役割ですが、為政者達の認識はどれほどのものやら。

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NISEの日

2025-02-13 21:17:57 | 雇用・経済

 いわゆるバブル景気と呼ばれた日本経済の絶頂期、私の父は株を買い始めました。もちろん、その後は株価が急落し私は速やかに手放すよう伝えましたが、父は損切りの概念を理解できず「今、手放したら損をするんだよ?」としか言いませんでした。時は流れて2024年2月22日、日経平均株価は1989年12月29日以来の史上最高値を更新しました。実に34年ぶりのことです。この頃になると父が保有を続けていた株も購入時の価格を上回るようになり、父は「儲かった」つもりでいます。

 幸いにしてバブル崩壊前までに結構な昇進を果たしていた父には十分な給与所得があり、保有した株式を塩漬けにしていた30年あまりの間にも日々の生活費や子供の進学費用に困ることはありませんでした。むしろ余剰資産が株式の形で凍結されていたことで父の浪費癖が抑制されたことを鑑みると、私の一家にとってはプラスであったかも知れません。しかし個人消費の低迷が景気回復を長年にわたって妨げていると政府も認めている中で、この株式の長期保有はどういう役割を果たしていたのでしょうか。

 2月13日は「NISAの日」なのだそうです。「勤労から投資へ」――働いて稼ぐよりも投資で稼げという岸田内閣のスローガンの元、昨今では不法行為によって得た金銭を投資に回す人々もまた見られるようになりました。そうでなくとも「投資しなければ損をする」という雰囲気の中で日々の消費を切り詰めて投資に回している人も多いことでしょう。そうして投資された金融商品も時には下がったりするわけですが、恐らく30年もすれば大半は価格の上昇が見込まれます。もっとも、「それまで」消費に回されることなく塩漬けにされた金銭がどこに消えてしまうのかは考慮されねばなりません。

 

昨年経常黒字、過去最高 29.2兆円、配当金など増加―財務省(時事通信)

 財務省が10日発表した2024年の国際収支速報によると、海外とのモノやサービスの取引、投資収益の状況を示す経常収支の黒字額は前年比29.5%増の29兆2615億円と過去最高となった。配当金や利子の収支を示す第1次所得収支の黒字拡大が主因。同収支の黒字幅も過去最大だった。

(中略)

 輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は3兆8990億円の赤字(前年は6兆5009億円の赤字)。

 

 とかく「国の借金」が強調される我が国ですが、現実には一貫した経常収支の黒字国家でもあります。この辺はイメージとは真逆で、貿易収支については輸入超過で赤字続きでありながら投資による収益がそれを大きく上回っている、日本は輸出国家との誤解を抱いている人も多そうですが、実のところ日本は投資立国となっているのが現実です。トランプ大統領などもアメリカの貿易赤字を減らすと息巻いており、そこに媚びを売る形で石破総理は米国への投資額を1兆ドルに引き上げるなどと語っていますけれど、こうした動きは投資所得に大きく偏った日本の現状を一層のことエスカレートさせると予想されます。

 ここで問題ですが、Tさんが2万ドルでAさんに自動車を売ったとき利益を得るのはどちらでしょうか? 回答はさておき、トランプは金銭を支払うAさんの方が損失を被っている、だから是正すべきだと考えているようです。では次の問題として、JさんがCさんに3兆円を投資したとき、利益を得るのはどちらでしょうか? この辺は、相手がCさんの場合とAさんの場合とで回答が分かれそうな気もします。まぁ回答自体はどちらでも良いのですけれど、一つの問題として日本は他国への投資額が多く、それで黒字を稼いでいる一方、海外から日本への投資が極端に少ない極めてアンバランスな状態にあることは意識しなければなりません。

 

北朝鮮をも下回る日本の「対内直接投資」の惨状。実は、円安時代の“希望の星”になれるかも…(BUSINESS INSIDER)


【図表1】主要国の対内直接投資残高(%、対名目GDP比、2021年)。経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国で見ると、日本は最下位。

 

 ただでさえ国外からの投資が少ないにも拘わらず今以上にアメリカへの投資に力を入れるとなれば、尚更のこと日本の国内産業は競争力を失うことでしょう。もし投資が投資を受ける側の国や企業の力になると考えるのであれば、それは国内企業に多く振り向けてこそ自国のためになるというものです。しかし日本は「投資で儲ける」という発想しかない、自国の産業に投資して育てるのではなく投資で利益を出すことばかりを考えている、「(自国の)産業振興から(海外)投資へ」──それもまた岸田内閣のスローガンであったのかも知れません。

 そして流行のNISAも然り、買われている金融商品は専ら「S&P500」や「オール・カントリー」など主としてアメリカ企業の株式に投資するものです。手数料を得る日本国内の証券会社には利益があるのかも知れませんが、結果的に投資を受けるのは国外の企業です。新NISA制度によって俄に投資に手を出す人が増えた、それでアメリカ株を中心とした金融商品を日本人が買い漁った、こうすることでアメリカの株高を支えてきたという点では、岸田文雄という誰よりもアメリカの利益を優先してきた政治家の本懐は遂げられたと考えられますけれど、日本の国益としてはどうなのでしょうね?

 もっとも日本の企業が資金調達を必要としているかと言えば、記録的な低金利でも銀行からの借り入れは振るわず、非金融法人の預金残高は潤沢、従業員の給与にも設備投資にも回らなかった利益剰余金すなわち内部留保はうなぎ登りなのが実態です。むしろ事業拡大ではなく企業自らが資産運用で利益を出そうとする始末、仮に国外から日本への投資が増えたところで日本の企業が育っていく未来はなかったのかも知れません。個人は勤労よりも投資で、法人すらも事業よりも投資で利益を確保しようとする、それが日本の姿になっているわけです。

・・・・・

 ついでに補足しておきますと、基本的に金融商品とは転売商材に過ぎない、と言う点は理解されるべきと思います。株も債券も企業が新規発行した時点で購入されれば企業の資金となり得ますが、その後は投資家の間で売り買いされるだけであり、後者の取引の方が圧倒的多数を占める代物です。誰かから株を買って、それを別の誰かに高値で売りつける、こうした転売の繰り返しが投資であって、そこから利益を得る人はいても企業が資金を調達できるものではありません。他国から自国を守るために強い金融市場は必要だとしても、そこに国民を誘導する現在の政策には嘘偽りが多すぎると言えます。

コメント (3)
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