トランプ政権に変わって隠し立てにされることは少なくなりましたが、昔から日本はアメリカより多くの干渉を受けてきました。日米合同委員会や日米経済調和対話といったアメリカの要望を一方的に聞く仕組みも確立されていますし、そうでなくともアメリカがどこかの国を敵と認定すれば日本もこれに倣う、アメリカが制裁措置を決めれば日本も同調する、もちろん韓国と対立したり遠洋での捕鯨に固執したりと例外はありますが、総じて日本はアメリカの意向に沿って国の方向を決めてきたわけです。
もし仮に、我々は独立国であり他国の干渉を受ける謂れはない、として独自の全方位外交へと方針を転換したらどうなるでしょうか? 治外法権を認めず米軍兵士を日本の法律で裁いたらどうなるでしょうか? さらには日本から外国の軍隊を退去させたらどうなるでしょうか? アメリカとの関係は悪化することが必至ですが、逆に中国やロシアといった隣国からは歓迎されることでしょう。日本が独立国であることを望んでいるのはどこの国か、逆に望んでいないのはどこの国か、そこは意識されるべきと思います。
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通貨安競争や投機マネーの流入出によって左右されるところはありますけれど、為替レートは国の経済力によって調整されるものです。ところが多国間で通貨を統一してしまうと域内での調整が利かなくなり、強い国はより強く、弱い国はより弱くなる方向に力が働きます。典型的なのが一時期のドイツとギリシャの関係で、本来なら自国通貨が高くなって輸出が不利になるはずのドイツが制度の恩恵を受け黒字を積み重ねる一方、本来なら自国通貨が安くなって輸出が有利になるはずのギリシャは赤字を積み重ねました。
ここで独立した国であれば積極財政によって国の経済を立て直すことも出来るのですが、EU加盟国の場合は国と言っても実際には帝国内の自治体の一つに近い、自国の財政方針を自国で決めることが出来ず、EU帝国の差配に従うことが求められてしまいます。結果ギリシャは国外投資家の資産を守るため緊縮財政を強要され、経済を破綻させる結果に陥りました。そうでなくともEU加盟で手放さなければならない主権は財政に関わるものだけではなく、諸々の分野においてEU基準の遵守が求められる、自国だけの意思では物事を決められなくなるわけです。
このEUにアメリカを加えたNATOも然りで、これに加入すれば「敵」と「味方」はNATOが決める、国内には外国の軍隊を駐留させることにもなります。自国の外交上の主権はNATOに上納せねばならなくなってしまうのですが、それでも加盟を望む国があるのは、例えるなら反社に加わりたがる人がいるのと同じようなものでしょうか。暴力団に入ることで失う自由もあるのは言うまでもありませんけれど、しかし組の看板でブイブイ言わせたい人もいるわけです。NATOに入れば「俺に逆らったらバイデンの親父が黙っちゃいねぇぞ」みたいに振る舞える、そう期待されているのでしょう。
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とりわけロシアは、アメリカの意向に付き従うばかりの国──日本を独立国ではないと批判しています。これはもっともな話ですが、ロシアの批判はもう一つの隣国にも向かっていることは意識されるべきでしょう。つまりウクライナとの最大の争点はNATO加盟の是非であり、これに反対する側がロシアでした。現実にはNATOの「予約済みの」国家としてウクライナは主権の少なからぬ部分をNATOに譲り渡してしまった節がある、3年前には停戦でまとまったはずのイスタンブール合意がイギリスの横槍で一方的にキャンセルされ、今はトランプへの代替わりで右往左往している、こうしたNATO諸国の意向次第のウクライナを最も嫌がっているのはどこの国かは考えられてしかるべきです。
バイデンが思惑を隠して正当化のための装いを十分に整えて行動してきたのに対し、トランプは何もかも隠すことなくアメリカ側の欲望を表に出しています。いずれもウクライナから自国の利益を引き出そうとしている点は変わりませんが、そこで評価を異にしてしまう人がいるのはバイデンの象徴するネオコンの論理に飲み込まれているから、でしょうか。いずれにせよウクライナの資源はアメリカ陣営によって収奪される運命にある、ウクライナの平和を守るためとして実質的にはNATOがウクライナを支配しようとしているのが現状です。
問題はこれが、当のウクライナ政府によって招かれた事態だと言うことです。経済的に弱い国がEUに加盟すれば「強い国」に富を吸い上げられる、「敵国」と隣接する国がNATOに加盟すれば前線基地として自国民は鉄砲玉にされる、いずれも上部団体の意向が優先となり自国だけでは物事が決められなくなる、EU/NATOに加盟するとはそういうことです。「自分が停戦を実現させた」という実績を作りたいトランプとは異なり、先代組長の意志を継ぐマクロンやスターマーなどの舎弟達はウクライナが戦争を続けられるように支援を強化すると息巻いていますけれど、その結果はどうなるのでしょうか。
反対にウクライナがEUやNATOの支配に服さない「独立した」国であることを最も望んでいるのは、言うまでもなくロシアです。そしてアメリカに付き従う日本を批判し独立国であることを求めるのと同じように、ロシアはウクライナにも独立国であること=NATOに加盟しないことを求めているわけです。ウクライナを鉄砲玉に仕立て上げたいEU/NATOと、NATOの杯を貰ってブイブイ言わせたいウクライナ政府、隣国に独立国であることを求めるロシア、こうした観点で物事を捉え直してみると、真に望ましい着地点もまた見えてくるように思います。