非国民通信

ノーモア・コイズミ

経済誌が覆い隠したがるもの

2018-06-10 23:13:24 | 雇用・経済

48歳「市の臨時職員」、超ブラック労働の深刻(東洋経済)

私はあえて彼に「正論」をぶつけてみた。

――労働組合は基本、組合員の利益のために賃上げや労働環境の改善に取り組む組織である。そして賃上げは本来、働き手が労働組合に入るなどして、自らが要求して勝ち取るものだ。今回、労働組合は自分たちの『取り分』を削り、組合員ではない非正規職員のために賃上げを実現させたのであり、ヨシツグさんは、組合に入って声を上げることもせず、組合費も払わず、利益だけを享受したということになるのではないか――。

 

 さて今回の引用ですが、タイトルだけを見ればブラック労働の実態を伝える記事に見えそうです。しかるに、何分にも経済誌です。所々に怪しい記述が見え隠れしているわけで、とりわけこの産経新聞ばりの「正論」とやらは、らしいと言えばらしいという他ないでしょうか。

 この引用箇所は勤続10年超の「臨時」職員に対するお説教なのですけれど、曰く労働組合とは「組合員の利益のために賃上げや労働環境の改善に取り組む組織」なのだそうです。へー。たぶんまぁ、経済誌的にはそのような「定義」であろうことは私にも分かります。しかし、実在の組合がやっていることとの整合性はどうでしょうかね?

 民進党の下部組織としての活動が中心の組合もあれば、「労働者の代表」として会社側の提案に同意するのが役目の組合もあります。待遇改善を目指して会社との対決を厭わない組合もないことはないかも知れませんが、そういう組合は「連合」から排除されていることもあるでしょう。そもそも、組合があっても賃上げが行われない会社もあれば、組合がなくても賃金が上がる会社もありますし……

 安倍政権がナアナアにしてきた高度プロフェッショナル残業代ゼロ制度を突如として「容認」すると宣言したのは労組の多数派組織である連合トップですし、安倍政権の賃上げ要請に難色を示したのも連合上層部、しばしば安倍政権が掲げた賃上げ目標よりも低い目標額を掲げるのが連合傘下の諸組合だったりもします。連合から排除された少数派組合ならいざ知らず、圧倒的多数派である「普通の」組合がそんなに賃上げや労働環境の改善に取り組んできたとは言えないでしょう。そもそも労組連合を最大の支持母体としていたはずの民主党政権下で、労働者全般の待遇はどうなりましたか?

 この引用箇所の前段では、非正規職員の賃金が幾分か増えたことが伝えられており、それを受けて「労働組合は自分たちの『取り分』を削り、組合員ではない非正規職員のために賃上げを実現させた」などとも書かれているわけです。やはりまぁ、経済誌的にはそういうものなのだろうな、と。経済誌の「お約束」では正社員(正規職員)と非正規雇用の賃金はトレードオフということになっているようですから。

 もちろん現実としては、労働組合(及び正社員)が非正規社員(職員)の給料を払っているわけではありません。非正規職員の賃金が増えても、労組の懐が痛む要素は皆無です。しかし非正規の賃上げには正社員の賃金を抑制することが不可欠なのだと、そう語る経済系の論者は少なくありません。ここに論理的な整合性は微塵もありませんが――非正規への同情論を口実に正社員の賃金カットを正当化したいという欲望を抱いた人が存在していることは理解できます。

 だいたい賃金は労働の対価であり、その昇給を「組合に入って声を上げることもせず、組合費も払わず、利益だけを享受した」などと詰られる謂われはないでしょう。このような暴論が成り立つなら、この数年で賃金が上がった「非自民党支持者」に対して「自民党に投票することもせず、党サポーター費も払わず、利益だけを享受した」みたいな非難だって許されてしまいます。

 また多数派労組の「本音」を最も端的に表していると感じられるのは、自身の勢力拡大に不熱心なところではないでしょうか。これだけ非正規が増えた時代には、当然ながら非正規層を組合に取り込んだ方が組合の収入だって増えます。民進党に捧げたい組織票だってある程度は見込めるでしょう。しかるにユニオンショップよろしく正社員は自動加入、しかし非正規に声は掛けない、それが労組の普通です。何故?

 自身の影響力を強めたい「野心的な」労組であるならば、加入者は増やしたいはずです。非正規社員が「志願して」組合に押しかけてくるのを待つような怠惰はあり得ません。「オルグ」は自分からやるものです。しかし非正規社員を前にした労働組合は彼女いない歴=年齢の中年男性よりもずっと奥手です。待ちの一手で交際相手が見つかることなどあり得ないように、組合員が増えることもありません。しかし、それをどうにかした形跡すらないのが組合の普通なわけです。

 今回の冒頭に引用した「正論」では組合未加入の非正規職員がフリーライダーであるかのごとく非難されていますけれど、強者である組合側の対応に問題はなかったのでしょうか。非正規が組合に入っていないことが悪いのではなく、非正規を取り込もうとしてこなかった多数派組合にこそ、むしろ問題は少なくないように私には思われてなりません。非正規職員個人を「組合に入らない」と詰るより先に、労組に「非正規を誘わない」ことの是非を問うのが先であるように感じられます。

『社会』 ジャンルのランキング
コメント (1)   この記事についてブログを書く
« あまり争点になりませんでしたね | トップ | 手本が悪けりゃ »
最近の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
同感です。 (るるぶ)
2018-06-11 18:51:30
私も、この記事には賛同できませんでした。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

雇用・経済」カテゴリの最新記事