非国民通信

ノーモア・コイズミ

当世就職事情

2010-04-22 22:57:42 | ニュース

氷河期で人気回復した「重厚長大」 しかし、安定志向で志望する学生は欲しくない(日経BP)

 ―― 重厚長大産業の人気が高まっていますね。

 水本 少し高まっているというところでしょうか。それは学生が安定志向を強めているからです。しかし、そんな学生ははっきり言えば、欲しくないです。

 機動力があり、変化を求めるような意識の高い学生を採用したいのですが、当然のことながら他社との奪い合いになります。他社の人事担当者と情報交換しますが、求めている人材像は同じですね

 この水本氏はIHIの人事担当者ですが、「そんな学生ははっきり言えば、欲しくない」「求めている人材像は同じ」と語る辺りがポイントでしょうか。たぶん、別の会社の人事担当者も似たようなことを言うと思います。これだけ圧倒的な買い手市場になっているにもかかわらず(新卒採用説明会の予約は受付開始から15分で満席、締め切られてしまうケースすらあるとか/参考)、思うように採用活動が進まない、求める人材が集まらないなどと嘆く声が企業側から聞こえてくるわけですが、その理由はこの辺にあるのでしょう。どこの会社も「求めている人材像は同じ」なのですから。一部の企業好みの学生を数社で奪い合う一方で、「普通の」学生を生かせないのでは採用難も必然です。

 ―― 三菱重工として優秀な学生を採用するために、どのような工夫をされているのでしょうか。

 安田 以前は大学の推薦で技術者をほぼ全員採用してきましたが、最近はそれが少し崩れています。学生も研究室の教授にどこに行けと言われるよりも、自分たちで行く会社を探したいと思っているようです。

 こちらは三菱重工の担当者の話です。大学の就職予備校化が顕著な昨今ですが、理系の専門職ですら例外ではなく、大学の推薦で就職が決まるとは限らなくなってきた、やはり就職活動に振り回されざるを得ないようです。私の両親はどちらも文系ですけれど、二人とも教授のコネで就職しています。特にデータがあるわけではないので印象論になってしまいますが、昔はそういうケースも決して少なくなかったのではないでしょうか。教授あるいは研究室のコネで就職するケースも多々あって、三菱重工の技術者などはその枠が大きかったものと推測されます。大学の就職対策というなら、こう言うのもアリですよね。就職活動を頑張る子を応援するのではなく、しっかり勉強した学生をコネで企業に送り込む、大学の本文からすれば後者の方がむしろ望ましいとすら言えます。でも、そうした流れも崩れつつあるのですね……

他人事ではない100人の『転落』 ~30代独身者はホームレス予備軍?(日経BP)

 東大卒の高学歴者や、元一流企業社員、元経営者など「勝ち組」だった人が少なくない。しかも、酒やギャンブルと無縁の人も多い。かつては全身垢だらけの人が大多数だったが、今は、「いつでも働きに出られるように」と、ヒゲを毎日剃るなど身ぎれいにするホームレスが増えた、と著者は言う。

 名だたる上場企業が、正社員の早期希望退職者を募集する「年齢条件」を、「50歳以上」から「40歳以上」に低く設定するなど、なりふり構わぬリストラ策に出ている。

 いいように切り捨てられるのは非正社員だけではない。正社員も今や「末端」である。しかも、不慮のケガや病気といった災厄は誰にも予告なく降り掛かる。

 すべての人にとって収入が完全に途絶える危機は、すぐそこにある。

(中略)

 著者は次のように指摘する。

〈ホームレスには何事も一歩引いて譲ってしまう人が多く、他人と争ってまで強引に仕事を得るような人は少ない〉

〈おとなしい性格で、人を押しのけてでも生きていくのが苦手な人や、人付き合いが苦手な人などが、非常に生きづらい時代である〉

 つまり、〈無口で少し変わり者を許容しない〉のが現代だ、と。

 以前なら、無口でおとなしくても、普通に仕事ができれば共同体の一員として認められた。しかし今では、キャラが立ってない人、押しの弱い人、他人とのコミュニケーションがとれない人は、存在価値が小さいと評価され、共同体からつま弾きにされてしまうことさえあるのだ。

 理不尽極まる。彼らは影が薄かろうと、働く意欲はあるのだ。前述のように、小ザッパリした身なりで社会とのつながりを失うまいと懸命な人が多いのである。

 にもかかわらず、職は与えられない。住所不定者は生活保護を申請しても通りにくい。

 引用が長くなりましたが、たぶん「今の基準」では採用されないような人が路上に放り出されているのだと思います。今ほどには雇用側の求める人材像が画一化しておらず、安価な非正規の形での人材確保が難しかった時代には、「普通の」人でも正社員としての就職は難しくなかったのかも知れません。では入社後も安泰かと言えばそんなことはなく、「普通に仕事ができる」だけでは共同体からつまはじきにされてしまうわけです。働く意欲があるくらいじゃ何の意味もありません。そして「今の基準」では再就職先など見つかるはずもなく、路上に放り出される、と。

 最後に、もうひとつ。本来、ホームレスにならなくてもすむ人が転落してしまう想定外の理由があった。

 それは、実家問題である。

 本書に登場する、リストラや三行半を宣告されて身寄りのないホームレスの多くは、異口同音に「実家には世話にはなれない」と言う。例えば、実家を継いだ兄の一家、嫁や甥、姪が住む空間に、自分のような落伍者が入っても肩身の狭い思いをするだけだ、と。

 確かに迷惑者だが、「ちょっとだけ緊急避難を」と彼らは言えない。

 同時に迎える実家側も、かつては居候や出戻り、食客などを含め「家族」とみなす余裕があったが、今ではそんな精神的なゆとりは失われたことに著者は気づく。

 日本人の家族観や絆が変容する中で、「最悪の場合は、実家に戻る」というは機能しなくなったというのである。

 「精神的なゆとりは失われた」「家族観や絆が変容」と引用元の著者は理由を挙げていますが、それだけではないでしょう。見出しに掲げられている「30代」の親世代ともなると不況の最初期にリストラの対象とされた世代ですから、「経済的なゆとり」もまた失われている可能性も考える必要があります。親世代にも経済的なゆとりがないから実家に帰れずホームレスになるしかない、そういうケースもあるはずです。

 「家族観」の方もどうでしょうか。単に疎遠になった云々で片付けられるものではと思います。たとえば「自立心」の延長線上に「実家には世話にはなれない」という感覚もあるとは考えられないでしょうか。サザエさん夫妻のように結婚した世帯が親元で暮らし続けるなんて、今時は非常識なこととして扱われているはずです。子どもは親元から離れるもの、独立するものである――そうした刷り込みの結果として、実家に戻るよりホームレスを選ぶ人の増加もあるような気がします。

 サザエさんの次はドラえもんです。第1話では、ダメ人間であるのび太君の未来を変えるためドラえもんがやってくるわけですが、のび太君の修正前の未来はどう語られていたでしょうか。就職できなかったので、やむなく自分で会社を始めた(そして失敗して借金を抱えて子孫が貧乏になった)という設定になっていたはずです。起業ですね。昨今では何かと起業が推奨されていますけれど、昔はどうだったのでしょう? 起業なんて、のび太君のようなどこにも就職できないダメな奴がすることである、そう思われていた時期もあったのかも知れません。ところが今や経済に「詳しいフリ」をしている人は何かと起業を奨めます。どうしてでしょう。この辺もまた過剰な「自立心」が作用しているように思えます。つまり雇われて働くよりも、独立してやっていくのが良いことだ、と。

 公的なセーフティネットに頼る人への冷ややかな視線もまた、自立心の産物なのかも知れません。家族であれ会社であれ「公」であれ、とにかく何かに「頼る」ことは悪とされがちです。何にも頼らず「自立」して生きていくこと、それこそが絶対に正しいのだと、そういう価値観が形成されてきた結果が今に結びついているのではないでしょうか。一人で何でもできる人が一人前、助け合わなきゃ生けていけない人は弾き出される、そういう時代です。

 

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17 コメント

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なんとも・・・ (えちごっぺ)
2010-04-22 23:32:45
やりきれませんね・・・

このような状況は日本だけではないのかもしれませんが、日本の場合は一昔前はとりあえず今よりはましだった時代があった訳で、ここまで劣悪になった国で、立ち直りが遅れて(立ち直れないかも)いるのは日本くらいですから・・・
もう、これは「国民性」?に因るものかもしれませんね?
フランスあたりではとっくに暴動が起こっていても不思議ではないでしょう。
今、あぶない首長たちや政界ネズミ男、その他クズ議員が「新党」を立ち上げていますが、こんなのが支持されるようではもう終わりじゃないかと思います・・・(大泣)
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変な国、日本 (northeast)
2010-04-23 03:25:43
今晩は。
昔の理系は、大学により違いもあると思いますが、あまり会社訪問などせずとも研究室単位で就職が決まっていました。文系でも結構あったように思います。現在の様に3年生のうちから就職活動なんて異常な状態です。
経済状況が悪くなると感情的にリバタリアンが支持を得る(実は人の足を引っ張って自分の取り分を減らしたくないだけ)ということなんでしょうが、このままだと仕舞にはファシズムに走るんじゃないかと心配になってきます。
NHKの「ハーバード白熱教室」という番組を見ていると、アメリカでもリバタリアンは少ないことが分かります(教授がコミュニタリアンの授業だから当り前か)。薄っぺらいリバタリアン言説の跋扈する日本は世界的にも変な国になってしまいました。
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安定志向 ()
2010-04-23 06:29:59
「安定志向の学生はいらない」と言っていますが、
学生の安定志向を強めたのは企業の側に大きな責任がありますよね。

「上司から違法行為を指示されたら従うか」といった類の
アンケートでのYesの数字はここ数年で急速に上昇しています。

そりゃ派遣切りなどで路頭に迷う人達の姿ばかり目にすれば、
「奴隷でもいいです」という若者が増えるのも無理からぬ話です。
(しかしその志向が奴隷になりたがらない他人の足を引っ張るという行為につながり、
 みんなで不幸になるという最悪の流れになっていますが。)

しかもそこに「今の若者はだらしない」と王将の新人研修のような
奴隷社員量産システムが賛美される社会の風潮が加わるのですから、
これでどうやって安定志向を持つなと若者に言えるのでしょう。

かつて若者は新自由主義が日本的社畜量産システムを
破壊することに少なからず期待していたのでしょうが、
やってきたのは日本的社畜量産システムと新自由主義の持つ
経営者に都合のいい部分だけを合わせた最悪のものでした。
そして根を上げようとすると体育会系的根性論を押し付けてさらに締め上げてるわけです。

本当に学に安定志向でないことを求めるのだったら、
入社させてから「安定志向を持たなくてもいい」
と思えるような環境を与えてあげればいいのですよ。
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家族が (介護員)
2010-04-23 08:02:52
家族を追い出すなんて、罰則すべし
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-04-23 14:26:37
>えちごっぺさん

 格差にせよ景気にせよ、日本は悪い方向にばかり突き進んでいますからね。たまたまこうなってしまったと言うより、望んでお互いの首を絞めあった結果として、今に行き着いたような気がします。

>northeastさん

 やはりそうですよね。昨今は大学の就職課がクローズアップされるばかりですけれど、教授や研究室のツテで就職が決まるケースもあったはず、その辺が利かなくなってきたことも今の状況(勉強はそっちのけで就職活動最優先)に大きく影響していると思います。

>毛さん

 矛盾した要求を突きつけてナンボ、みたいなところが日本型雇用の伝統なのかも知れません。勝手に判断するな、自主性を持て、みたいに。会社の暗に指し示すところに従おうが従うまいが、結局は会社側が正しいとして求職者側は非難される、そういう力関係の構築を目指してきたのでしょう。

>介護員さん

 下手に家族の面倒を見たら「甘やかしている」と言われるような時代ですから。
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Unknown (Ben)
2010-04-23 16:02:05
先日の記事にあった亀井氏が嘆いたアンケート結果をみてもわかるように,今の状況は政治や財界が悪いというより日本人自身が望んだことなので仕方ないですね。
あとは「大和魂」「サムライ魂」で乗り切るのでしょうwww
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Unknown (HANAKO)
2010-04-23 16:15:18
内向的な人間故の生きづらさは散々味あわされた私ですが、自立、自立とかますびしい世の中ではますますそうした人間の生きづらさは加速しそうです。
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嫌な国ですよね、日本は (コンポコ)
2010-04-23 19:03:09
世界の常識と正反対な事ばかりしてますよね。

真面目に日本から出て行く事を考えないといけないなと思っています。
私のような社蓄や奴隷根性がない人間には居場所はなさそうですので、日本には。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-04-23 22:20:17
>Benさん

 労働者側の待遇改善に繋がるような動きを否定的にとらえてきたのは、他ならぬ国民自身でもありますからね(その自覚はないのかもしれませんが)。そうやって国なり会社なりに身も心も捧げていくのでしょう。

>HANAKOさん

 社会的な「ゆとり」が失われてゆく一方であるだけに社会が求める「標準」から少しでも外れた人には生きづらい時代ですよね。

>コンポコさん

 新自由主義とか「小さな国家」にしても、諸外国の例と日本の場合とは微妙に違うようにも思えるんですよね。どうも日本は独自進化の道を遂げているような気がします。
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Unknown (ヒイロ)
2010-04-23 22:42:10
「できっこない」とか「背伸びをするな」と出る杭を打つことをしていて「自立しろ」と言うなら、無責任の誹りは免れないと思います。家庭にいるうちから勉強でも家事でも沢山失敗させて学ばせる機会を作ることが必要でしょうし。

その上で、家族や親戚単位で衣食住の部分で分け合うことができたり「困ったときはお互い様でしょうが」と言える関係を保つことで「どうしようもなくなったら戻りなさい」と言える場所を確保する、これが一つの理想型と思います。
家を出て、一人暮らしをして、結婚をしてという過程が当然視されすぎなことは否めません。自分がそうできなくて情けなく思うことは確かにありますから。
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