非国民通信

ノーモア・コイズミ

最低の発明であることが理解できない日本

2009-11-20 23:10:30 | ニュース

スマイル測定「今年最低の発明」 米タイム誌「独断で」(朝日新聞)

 米タイム誌は最新号で、今年最高の発明1~50位と最低の発明五つを掲載した。最低の発明には「ガスマスクとしても使えるブラジャー」などと並び、オムロン(本社・京都)が開発した笑顔をチェックするシステム「スマイルスキャン」を選んだ。

 接客サービスの向上などが狙いのシステムで、カメラ映像の中から顔を認識して「笑顔度」を0~100%で測定する。オムロンによると、鉄道会社の駅員や病院の看護師らに利用が広がっており、同誌電子版は「最高の表情を作るため、ソフトウエアに顔をスキャンされる日本の大手私鉄社員」の写真も掲載した。

(中略)

 タイム誌は10年ほど前から毎年、最高の発明を選び、今年は最低も選んだ。その基準を広報担当は「編集者の独自の判断」と説明した。

 オムロンの広報担当者は「残念な選出ですが、世の中に笑顔を増やすという製品の意図を理解してもらっていたら、評価も変わっていたかもしれません」と話した。

 たぶん「化石賞」とか「ビドーネ・ドーロ」みたいに不名誉な賞として受け止められているのでしょう。イグノーベル賞みたいな揶揄がありつつも好意的な評価とは違う、だから引用記事では日本製品の受賞に際し、「編集者の独自の判断」などと強調することで、なんとかして選定基準にミソを付けてやろうとしているようにも見えます。私には妥当な選考だとしか思えないですけれど。

 まぁ「最低の発明」はどこの国でもあり得ることです。日本だから、と言うものでもないわけです。しかしどうでしょう、「最低の発明」がその「母国」においても最低の発明として評価されているのか、それとも「外国」では最低の発明と評価されているのに「母国」では全く評価が違うのかを考えてください。「ガスマスクとしても使えるブラジャー」は、母国であるアメリカでもネタグッズとして笑いの対象でしょうけれど、「スマイルスキャン」を最低の発明と見なす発想は、アメリカを初めとする諸外国にはあっても、日本にはないのではないでしょうか。もしかしたら、日本人だけが例外的にありがたがっているとしたら……

 カラオケとかotakuとか、世界で歓迎されている日本の発明は多々あります。その一方で、日本国内では広範に普及しているのに、世界には全く波及しない日本の発明もあるわけです。たとえばカプセルホテル(東京都知事選出馬で政治ブロガーの知名度も高い黒川紀章氏の発明)なんかですね。これはたぶん日本限定、探せば見つけられるかも知れませんが、カラオケやスシバーと違って世界中に広まってはいません。日本ではこれだけ広まっているのに。

 その昔、知り合いのロシア人留学生が「アレはホテルではなく死体安置所だ」みたいなことを言っていました。生きた人間をああいう空間に押し込めるなんて信じられないとか。そりゃそうですよね、人間をモノとして扱う発想がないと、カプセルホテルなんて思いつかないでしょう。アレと似たようなものと言えばまさに死体置き場だったり、せいぜいが暗めのSF映画の宇宙船でコールドスリープ状態の乗組員を収納するスペースくらいですよね?

 日本以外の文化圏の人間からすれば悪夢の産物でしかないものを、しれっと日常に紛れ込ませているのが現代の日本社会なのかも知れません。その一つがカプセルホテルであり、今回の「スマイルスキャン」だったのではないでしょうか。笑顔とは自然に出てくるもののはず、それを機械で作り出そうなんて企てに戦慄しないでいられる社会は日本くらいであり、日本以外の文化圏の住民からすれば、まさしく機械が人間の感情をも支配する悪夢のような未来を想起させるものだったのでしょう。

 刑務所跡地が観光スポットになっているところもあって、中には「刑務所一泊ツアー」みたいなネタ色の強い催しもあるそうです。そういうものを「娯楽」として消化するような人にしてみればカプセルホテルもスマイルスキャンも話のタネとしては喜ばれるのでしょうけれど、日本のすごいところはこれがネタではなくマジだというところです。「ディストピアごっこ」の舞台装置としてカプセルホテルやスマイルスキャンがあるのではなく、各地の職場で導入されるなど「日常」に組み込まれている――つまりはアトラクションとして幽霊屋敷が作られているのではなく、幽霊屋敷で生活することを強制しているようなものであり、まさに気が狂っていると見なされても不思議ではないと思います。

 「世の中に笑顔を増やすという製品の意図」などとオムロンの広報担当者は宣うわけですが、機械による測定で増やされた笑顔に何の意味があるのでしょうか。独裁国家の「将軍様」の支持率と同じです。忠誠心を測ることで「不合格」な人間をあぶり出し、脅しを掛けることによって見せかけ上の支持を作り上げる、それと同じことです。人に笑顔を強制する、喜ぶことまでを強制しようとする国家では人権が守られているとは言えないでしょう。

 なぜスマイルスキャンが最低の発明に選ばれたのか、その理由が理解されないよう社会が次に産み出すのは何でしょうか。笑顔の測定器の次は、「仕事へ取り組む真剣さ」を測る機械でも作られそうですね。スマイルスキャンの前で必死に笑顔を作ることを強いられた次は、測定器で勤務態度を監視される……こうなっても不思議ではありません。その最終形態は「思想/信条スキャン」でしょうか? とかく「心」を支配したがる国ですから。

 

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37 コメント

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定番のネタ (やす)
2009-11-20 23:22:08
例によって『安心・安全』ですか・・・

そうなるとこれも追加ですね
つ監視カメラ
あとは車の車種を記録するアレとかですか。
文化と感覚? (TX)
2009-11-21 09:32:21
さすがにスマイルスキャンは私でもちょっと引く機械ですね。まあ、最近のカメラに搭載の顔認識センサーの応用だと(逆かな)思いますが。
笑顔のシャッターチャンスを逃さない為のものも、プログラム次第ではいろいろ応用できそうで、例えば不平そうな顔をプログラムして、政治家などの一瞬の表情を撮影記録するとか、週刊誌やスポーツ紙のカメラマンは欲っしそうだと思います。

カプセルホテルがそこまで忌避されているとは、まあ、これは「畳一枚」あれば生活できる日本の文化の延長だとも言えなくは無いですが、同じ部屋で食事も着替えも就寝も行う事は理解できないという面もあるかと。

格安の宿泊施設でいうと、外国人に人気のドミトリーなどありますが、あちらは雑魚寝やパーテーションで仕切られた程度のもの、私などはカプセルでも個室化した方がいいのですが、どうなんでしょうね。
Unknown (秋原葉月)
2009-11-21 10:08:46
東京都だったかな、卒業式に君が代を口パクではなくちゃんと歌ってるかどうか、教育委員会から派遣された職員が声量測定器を持ってきた、という話がありませんでしたっけ?
Unknown (非国民通信管理人)
2009-11-21 13:40:13
>TXさん

 むしろ、生かしておくには「畳一枚」の空間で十分とする文化の延長かも知れませんよ。

>秋原葉月さん

 ありましたねぇ、あれも「笑顔を測る機械」ならぬ「愛国心(体制への従属度)を測る機械」みたいなものでしょうか。オムロン風に言えば「世の中に規範意識を増やすという製品の意図を理解してもらっていたら~」となるのでしょうか。
ロボットに (まり)
2009-11-21 14:38:12
しばらく前、BBCが日本のロボットを取材していた。女の子の形のロボット(だったと思う)に「いつかこれが感情を持ってくれたらいいなと思う」という「夢」を若い男性がBBC記者に語っていて、記者がそれは多数の西洋人が懼れることのまさに正反対だ、というようなコメントをつけていたのを思い出した。
これはないわ (2823)
2009-11-21 16:11:03
スパコンは「費用がかさむから」事業を凍結して、こういうのは賞賛するのかな。
お金の使う方向が間違っている。
ネタとして使えるか否か (lefthorse)
2009-11-21 16:25:24
オムロンのサイトを見ましたが、サービス産業での従業員笑顔チェックとして使われることをメインに想定しているようで。なんだかなあ……これで就業態度とか測られた日には、北の将軍様の国かよ、と。ブラックユーモアとしてなら立派に成立しますが。
もっと世の中を笑い飛ばす方向で、こういう技術が使えるといいんですけどねえ。

>まりさん
ロボットやAIやVOCALOID好きな私としては、感情システムの追究は願ったりですけどね……。それは無宗教な日本人だからこそ得られる感性なのかもしれません。西欧では、未だにフランケンシュタイン・コンプレックスがあるんでしょうか?
Unknown (yakumo)
2009-11-21 16:33:52
英語のニュースサイトでは結構否定的に紹介されてたようです。
http://eigonihongonews.blog110.fc2.com/blog-entry-193.html
日本人に英語ができない人が多いこともまた,感覚がおかしくなる原因のひとつのような気がします。
文化と記号 (TX)
2009-11-21 17:57:32
カプセルホテルは「ホテル」と名乗っていますが、法律上は簡易宿泊施設ですから、初めからそういう視点で見ると印象も違ったのかも知れませんね。最近では海外でも増えているみたいですが、利用するのは日本人だけなのでしょうか?それともなにか忌避する「記号」があるのかも知れません。

10年ほど前に、車雑誌のデザインに関する記事の中で、「最近の日本の車はSF映画に出てくる敵側(悪)の、もしくはブレードランナーなど荒廃した未来を描いた世界の中の負のデザインをコンセプトにしたようなものが増えてきた」と、また別の記事では「攻撃的で悪そうな顔つきになってきた」というのを目にしたことがあります。

ガンダムやスターウォーズで育った私などは、結構カッコイイと受け止めがちですが、記事の中では「映画では欧米人の中にある、負の(悪の)イメージ、こういう未来にしてはいけないというアンチテーゼの記号で組み上げたものを、日本人は憧れの未来として「勘違いして」その「記号」を受け止めている」という内容でした。
宗教観の違いもあるかと思いますが「勘違い」にしても、記号の受け止め方は国や文化によってさまざまなのかなと感じました。

ちょっと考えさせられますが、あと歴史認識の問題かもしれませんが、デザインでいうと旧ナチスドイツの将校の制服なども、結構アニメやマンガの中では多用されています。あくまで記号というより「カッコイイ」という特になにも考えていないのかも知れませんが、その辺の記号への「憧れ」的なものも日本人の気質、それとも教育の問題でもあるのでしょうか?

Unknown (aqe)
2009-11-21 19:06:45
スマイルスキャンなんて言ってるけど
実際のところは画像認識装置であって
あまり公にできないそのコアを使った展開が
他製品に仕込まれていると思います。
医療関係とかね。

会社ってのは理不尽に発表させられる機会が多いモノです。
発表用にしょうがなく作った程度のものだと思いますが。


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[技術][揉め事]スマイルスキャンは素敵な「技術」だと思います (見ろ!Zがゴミのようだ!)
前に関連ニュース読んで、「画像認識もここまで来たか」と感慨深く思ってたんですが、この記事とブコメ欄を見てとても悲しい気持ちに。 最低の発明であることが理解できない日本 - 非国民通信 はてなブックマーク - 最低の発明であることが理解できない日本 - 非国民通信...