石破氏「社会主義国じゃないので、賃上げと言っても…」(朝日新聞)
石破茂・自民党元幹事長(発言録)
(アベノミクスについて)これから先やっていかなきゃいけないことは、物価が上昇することも大事だが、一人ひとりの賃金が上がっていくか、可処分所得が上がっていく方向に変えないと、アベノミクスでつくった明るい雰囲気が台無しになる。
企業は豊かになってきたが、個人はその実感がない。社会主義国じゃないので、政府が企業に対してもっと賃金上げろと言っても、なかなかそうはならない。すぐにはならないし、難しい企業もある。どうやって所得を上げることができるのかという時に、財政規律も大切だから、個人と企業に対する課税のバランスをどうするかということも、もう1回考えていかねばならない。消費者が豊かにならないと、企業も豊かにならない。(TBSの番組収録で)
社会主義や共産主義を掲げる国や組織が衰退しても、それを脅威と捉えたがる人は不思議と減る様子がありません。社会主義国が軒並み崩壊して、共産と名の付く政党がどれほど議席を減らしたところで、ある種の人々の頭の中では、それは永遠の脅威であり続けているようです。彼らの頭の中の社会主義/共産主義が、現実世界の社会主義/共産主義と全くリンクしていないから、とも言えるでしょうか。
例えば一口に自信家と言っても、何らかの実績によって裏打ちされた自信家と、なんの根拠もなく自信満々な人とでは、実は全くの別物です。実績による裏付けを必要とする自信家は、その実績が失われれば意気消沈してしまうもの、しかるに根拠のない自信家は成功体験の有無に左右されませんから。反共主義者も然り、社会主義や共産主義を正しく理解していれば、社会主義国や共産政党の衰退に合わせて反共の不毛さを理解していくのが必然と言えます。しかし根拠を持たない反共主義者にとって、現実世界の社会主義国や共産政党がどうなろうと、共産主義は永遠の悪なのですね。
そして今回の石破のように、何かしら気に入らない政策が行われると「それは社会主義だ」などと言い募る人が一定数いるわけです。彼らの語る「社会主義(あるいは共産主義)」が何を意味しているのか、それは彼らの頭の中のファンタジーでしかありませんので、あまり深く考える必要はないでしょう。ただ彼らにとっての悪の代名詞である「社会主義」というレッテルを貼ることで、自身の反対の意思を表している、それだけのことです。
「一人ひとりの賃金が上がっていくか、可処分所得が上がっていく方向に変えないと、アベノミクスでつくった明るい雰囲気が台無しになる」云々に限れば(石破の主張にしては珍しく)真っ当だとは言えます。「政府が企業に対してもっと賃金上げろと言っても、なかなかそうはならない」云々も、まぁそうなのかも知れません。もっとも全てを企業の自由に任せてきた過去の政権や大手労組よりは、安倍政権の方がかけ声だけでもマシなところはあると私は思っていますが。
まぁ相対的にはマシでも、十分か不十分かと問われれば、議論の余地なく不十分です。口先だけの賃上げ要請では、アリバイ作りレベルの微々たる賃上げしか達成できないことは首相本人だって流石に理解しているのではないでしょうか。本当に賃金水準を引き上げたいのなら、必要なのは対話ではなく圧力です。制裁を伴う強い態度で企業に賃上げを迫らなければ実効性などあり得ません。北朝鮮とのプロレスごっこなどやっている暇があったら、日本の富を滞留させている国内の癌にこそ切り込むべきなのです。
日本の企業が賃上げを渋り、内部留保ばかりを空前絶後の水準へと積み上げ続けてきた結果、株価は上がっても消費は伸びず国内市場は沈滞したままというのが我が国の現状です。日本の企業に富を吐き出させない限り、日本の国内市場の消費が伸びることはあり得ません。今こそ政府が本当の意味で強硬姿勢を見せるべきなのであり、それを「社会主義だ」などと批判する人がいたら、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」ぐらいの強い意志を見せて良いのではないでしょうかね。