非国民通信

ノーモア・コイズミ

性表現規制を語る前段階として

2011-08-24 23:26:12 | 社会

 さて、今日は性表現規制を語る前段階として、性犯罪統計の見方を考えてみようと思います。まず性表現規制を訴える側は、さも純粋な創作を含む「非実在」のポルノまでもが「現実の」性犯罪に影響しているかのごとく語りがちです。これに対する至極当然の反論として、現代の日本における性犯罪の少なさが挙げられます。一部の規制論者が語るように日本が児童ポルノ大国であり、それが現実の性犯罪にも影響を与えるのであれば、もうちょっと性犯罪が多くなければおかしいはずですが、少なくとも統計を見る限り現代日本における強姦の認知件数は非常に少ないわけです。

 ただ、この認知件数の「少なさ」を語る際には、一つ注意してもらいたい点があります。日本国内における時系列的な推移を提示するのは適切なのですが、国際比較を持ち出すのは墓穴を掘るだけだから止めていただきたいのです。というのも性犯罪には刑事事件として認知されない「暗数」が大きく、その基準は国によって異なります。国際比較を持ち出して日本の性犯罪件数は少ないと言っても、それは暗数の度合いが不明確である以上、客観性を欠いた主張を連呼するだけになってしまうのです。原発を批判するのにECRRや上杉隆の説を引用すれば知識人から見放されるべきであるように(必ずしもそうなっていないところに日本の知的貧困が現れているのかも知れませんが)、性犯罪を語るのに国際比較を持ち出せば、それは知的に誠実であろうとする人々の離反を招くだけでしょう。

 そもそも統計上で日本よりも強姦認知件数が小さい国というものも多々ありまして、データのあるものを少ない方から挙げていくとエジプト、アルメニア、アゼルバイジャン、シリア、レバノンと、アルメニアを除いてイスラム教国が並びます(2003-2008年の国連調査による)。同時期のデータがないので除外しましたが、少し古い資料ではイランの強姦認知件数も極小です。統計上の強姦認知件数の少なさを持ち出して「日本は性犯罪が少ない」と主張してしまうと、究極的にはイスラム社会の性文化を理想とすることになってしまいそうなのですが、これはいかがなものでしょうか。意外にネット世論とイスラム的な性文化、とりわけ女性の性に対する考え方は相通じるところがあるような気がしないでもありませんが、私は御免です。

 じゃぁコーランは性犯罪を抑制する効果があるのかと言えば、そんなことを真顔で信じられる人はいないと思います。そうではなく、抑制しているのは「認知件数」の方ですよね。国の社会情勢や文化によって、「認知」するかどうかの基準は大きく異なります。むしろ強姦認知件数の統計が指し示すのは、性犯罪の多寡であるより、「認知されやすさ」「性犯罪に対する感度」といったものではないでしょうか。そこで性犯罪と違って、概ねどこの国でも定義が揺らぎにくい犯罪として「殺人」を比較対象にした視点から考えてみたいと思います。

データ引用元、国際日本データランキング明治大学国際日本学部 鈴木研究室

 さて、全ての国を列挙すると数が多すぎますので、OECD諸国に加えて各地域から同時期のデータがある国で人口が多い順に数カ国をピックアップしてあります。右端の「レート」は「強姦認知件数」を「殺人認知件数」で除算した数値です。このレートの順に並べてあるわけですが、レートが高い=「殺人が少ない割には強姦認知件数が多い」ことを意味し、レートが低い=「殺人が多い割には強姦認知件数が少ない」ことを意味します。そして我らが日本は中位ですが――OECD諸国で考えると下の方でもありますね。ともあれ、この「レート」が意味するところは何なのでしょう。

 国によっては「治安は良いのに性犯罪だけは多い」とか「治安は悪いのに性犯罪だけは少ない」と等々の特殊事情もあるのかも知れません。ただ、「レート」に現れているような最高と最低とで500倍もの差があるとは考えにくいところです。やはり性犯罪といえど、その実数は治安にある程度まで比例するものでしょう。そこで定義が明白な「殺人」の件数を治安の尺度として捉え、これを「強姦」認知件数と比べてみた場合、「強姦として認知する敷居が高い国/低い国」というものが浮かび上がってくるように思います。総じて裕福な国ほど強姦として「認知」されることが多く、一方で経済的に貧しい国やイスラム教国は強姦として「認知」されることが少ない、そして日本は経済水準の割に……

 アメリカは誘拐事件が多くて、その犯人は「親」が最も多いなんて話も聞きます。何でそうなるかと言いますと、「離婚して親権のとれなかった親が無許可で子供を連れ出すケース」が誘拐としてカウントされているからなのだそうです。犯罪の「認知」件数が多いように見えても、国や社会によって定義が異なるわけです。強姦「認知」件数の場合も同様、上記レートの高い国では「妻(夫)に強引に迫って喧嘩になった」みたいなのまで強姦事件として認知する一方、レートの低い国では「誘惑した女性の罪であって強姦ではない、女性に鞭打ちの刑を言い渡す」みたいなことにもなっていると考えるべきであり、単純な認知件数の多寡と性犯罪の深刻さを混同してしまうと、実態を見誤ります。

 上記リストを見れば気になった人もいるかと思いますが、メジャーな国がいくつか抜けています。これは同時期のデータが揃わなかったためですが、参考値として2000年のオーストラリアを挙げますと、人口10万人当たりの強姦認知件数は驚きの「81.41」です。これを殺人件数の1.31で除算するとレートは「62」となります。ノルウェーを抑えて堂々のチャンピオンですね。ちなみにオーストラリアでは、おっぱいの小さい女性は児童扱いということで大人でもポルノ出演禁止なんてお笑い規制が出てくるなど、性表現規制には熱心な国のようです。

 また、上記リストでは日本の遙か下で発展途上国の仲間入りをしているカナダですが、例によって2000年のデータでは人口10万人当たりの強姦認知件数は「78.08」です。これを殺人認知件数1.64で除算するとレートは「48」、暫定銅メダルです。カナダもまた性表現規制が厳しいことで有名で、どうも私には「性表現規制は認知件数を過剰に引き上げる」意味合いを持つように思われてなりません。コーランは性犯罪を女性のせいにし、経済的貧困は被害者を泣き寝入りさせ、性表現規制は家庭の寝室にまで警察の目を光らせる――そういうものなのではないでしょうか。家庭の寝室と言っても中には警察の介入が必要な場合もあって、むしろ日本はもう少し認知件数が増えた方が適正なところもありそうですけれど、何事にも行き過ぎというものはありますから注意が必要です。

 カナダの強姦「認知」件数は奇妙な激減を見せていますが、おそらく認知基準が一変したのでしょう。夫婦間の話し合いで解決できるレベルのものまで「強姦」として認知していたものを、見知らぬ第三者に襲われたものだけ、それも未遂では済まなかったものだけをカウントするようになったとか、そういう変化があったものと推測されます。強姦「認知」件数なんてそんなものなのです。ただ、日本の場合は極端な認知基準の変更がない中で強姦認知件数は30年前や40年前と比べて大幅に減っているわけで、この辺は「性犯罪は減っている」と主張する上で間違いのない論拠となります。ポルノメディアの流通量は増えましたが、別に性犯罪が増えたりはしていません、と。

 ちなみにコーランは強姦「認知」件数を抑制すると書きましたが、これには噛みついてくる人もいるでしょうか。まぁ、そもそもイスラム教国はデータが揃っていないところも多いので、多少の例外も出てくるかも知れません。あるいは「誘惑した女性の罪」みたいに扱う人々はコーランを誤読しているのだみたいなことを言う人もいると思います。でも、ポルノを読んで性犯罪に走る人と、コーランを読んで「誘惑した女性が悪い」みたいに考えるようになる人、どっちが多いのでしょう。叩きやすい、問題視しやすいのは前者なのでしょうけれど、本当に深刻なのはどちらなのか、その辺は考えてみる余地があるように思います。もしポルノを規制すれば性犯罪が減ると考えるのなら、被害者女性の泣き寝入りを減らすためにはコーランも規制対象ということになりそうなものですが、それは正しいのでしょうか。

 

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6 コメント

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Unknown (Mary-Jane)
2011-08-25 01:09:24
面白い内容ですね! 多分日本は、西洋とアラブ(イスラム)の中間にあると思います。イスラム程でなくても、日本は女性が被害を申し出にくい風土なのでしょう。暗数と云うことでしょうか。結局被害を申し出たところで更に傷つくことになることを知っており、泣き寝入りというほどでなくても、示談にしてしまうケースが多いと思います。そして、女性にもスキがあったという考えが醸し出されるのです。イスラムを笑えません。もっとも、西洋のフェミニズムがいいとも思いませんが。
(日本が過去のデータに比べて少なくなったのはいいことです・女性の力)

ポルノとの関係は分かりませんが、ともかく、児童ポルノはダメです!
Unknown (ルーピー)
2011-08-25 09:24:09
 十何年か前、犯罪件数が急増した、ということが大いに話題になりました。つい先日も、児童虐待が過去最悪の数字だったことが話題になっていました(少年犯罪は過去最小だったと言う記事が先にありましたが)。
 犯罪件数が急増したのは、今まで事件にしていなかったものも数に入れるようになったからだったというオチがありました。児童虐待に対する目も厳しくなりましたね。
 いままで虐待があっても、ロクに事件にされなかったならそれは問題だったと思います。一方で、軽微な事件を表沙汰にしたおかげで数字が跳ね上がっても「治安の悪い国になった」とはいえません。
 そもそも、強姦と殺人の大半は家庭内でしたね。
 
立場を問わず (Barguest)
2011-08-25 22:44:55
お久しぶりです。

 以前のエロゲ規制問題から何度もこの手の論争を見てきましたけど、往々にして規制派、反対派を問わず自分に都合の良いデータを振りかざす、もしくは真実だと信じ込んで検証しないことが繰り返されています。実態はどうなっているのかについては無頓着なままで。

 私としては表現規制が有害無実であり、そもそも誘因説そのものがでたらめにしか思えません。しかし現実の性犯罪について語るのならその実態についてもまともな検証が必要だと考えます。


残念ながら現在のところこの手の論争は実在する性犯罪被害者から遠く離れたところでのみ行われ、置き去りにしている印象があります。

せめて他者に対する支配力を持つ“規制”なら誰かを事実として救うものであって欲しいものです。
Unknown (非国民通信管理人)
2011-08-25 23:11:03
>Mary-Janeさん

 日本の強姦認知件数が過去のデータに比べて少なくなったのは社会の安定=治安向上によるところが大きいです。逆に「女性が声を上げやすい状況」ができあがったのであれば暗数が減った分だけ強姦「認知」件数が増えるはずで、むしろそうなっていないことが日本の問題を示しているところもあると思います。

>ルーピーさん

 「認知」と実数は異なりますからね。殺人のように警察が無視するわけにはいかない犯罪と、家庭の中で行われることとでは見方を変える必要があります。そして仰るように強姦も殺人も家庭や友人関係の中でこそ多発するものなのですが――どうも世間は見知らぬ他人から襲われる事態ばかりを想定していたりなど、まぁ「わかっていない」としか言えません。

>Barguestさん

 結局のところ、性表現規制に関しても(被害者を)救うというより、「悪い奴」を見つけてそれを罰することの方に主眼が置かれがちな気がするんですよね。単純所持の問題もさることながら、純粋な創作への規制や、「子供っぽく見える」ものへの規制等々、どうも実際の性犯罪や被害者からは遠ざかるばかりに思えます。
Unknown (やす)
2011-08-26 13:19:21
気持ち悪いもの(人によってまちまち。一概に定義できない)、異質なものを排除しようとする傾向、そして「外国人」に対する排除の目・・・。
どうも政治や経済が行き詰まるとそうなるような気がしてなりません。



社会学者の宮台真司さんのサイトをチェックしてるんですけど、その自立した共同体というのが、あいまいというか、うまく「機能するのか」っていう・・・。
民主の代表選は差し置いて、最近はそればっかりです。
Unknown (非国民通信管理人)
2011-08-26 23:13:30
>やすさん

 気持ち悪いもの、異質なものを排除しようとする傾向を持っていたけれど、良識家ぶってそれを表に出してこなかった人も多いと思いますが、原発事故後はその辺の「排除」の目線を顕在化させる人も増えた気がしますね。まぁ宮台の主張も凡百の官僚悪玉論の域を出ていなくて、民主党の唱えていたことに化粧を施しただけのように思えます。誰かの支持を取り付ける上では機能しても、実態としては何も意味をなさないものなのではないでしょうか。

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