非国民通信

ノーモア・コイズミ

雇う側には不都合なこと

2013-09-11 23:34:09 | 雇用・経済

クローズアップ2013:国土強靱化、復興阻む 全国で工事増、人不足 業者「被災地に回せない」(毎日新聞)

 東日本大震災の復旧工事を巡り、被災3県の建設業者が、県外の業者から下請け工事などへの協力を断られるケースが今年に入って増え始めている。政府が全国で公共工事を大幅に増発(前年度当初比16%増)した結果、被災3県以外の業者がそれぞれの地元の仕事に追われているためだ。自民党政権の「国土強靱(きょうじん)化」政策が、被災地の人手不足に拍車をかけている格好だ。

(中略)

 春以降、約10件の工事で被災地外の業者に下請けを頼んで断られた。「震災からしばらくは『仕事があったらやります』と被災地外の業者から声が掛かった。今はこちらから『頼みます』と頭を下げないと業者を確保できない」という。

 建設業で働く人の数は全国で約500万人。15年前の7割に減った。1990年代以降、建設投資額がピーク時の約半分に減少した結果、激しい価格競争が起こり、賃金が30%近く落ちたことが要因だ。

 

 民主党も今回の毎日新聞と同じようなことを述べていたわけですが(参考)、総じて「雇う側」の都合でしか物事を考えられない人々なのだなと感じました。「雇われる側」のことを思えば、この毎日新聞や民主党のような批判には繋がらないはずなのですが、どちらも労働者のことなど気にしていないことがよくわかります。ともあれ、伝えられるところによると「建設業で働く人の数は全国で約500万人。15年前の7割」で「建設投資額がピーク時の約半分」という現状の中、公共工事が「前年度当初比16%増」になったそうです。それで人手不足とのことですけれど、どうなんでしょうね。15年前の約半分から16%増なら、せいぜい15年前の約6割弱です。それを15年前の7割の人員で回すのであれば、やはり1990年代の方が人手不足は顕著であった、まだまだ全盛期には及ばないと言えます。

 引用元では(元請け)建設会社の証言として「震災からしばらくは『仕事があったらやります』と被災地外の業者から声が掛かった。今はこちらから『頼みます』と頭を下げないと業者を確保できない」との事情が伝えられています。これ、悪いことなのでしょうか? 地元に仕事が生まれて下請けが仕事を選ぶようになるのがダメだとでも? もちろん毎日新聞や民主党よろしく純粋に「雇う側」に立って考えるなら、好ましくないのかも知れません。下請けに仕事を振る元請けの建設会社にとってもまた同様なのでしょう。しかし、下請けの工事会社、そこで働く建設作業員にとってはどうなのか、「雇われる側」のことだって多少なりとも考えられてしかるべきです。

 やれ下請けいじめだの大企業の横暴だの云々と日頃は喧しい人が、今回のような報道をどう思うのか興味深いところです。結局のところ下請けと元請け/発注元の力関係が改善されるのは、需要が供給を上回ったときすなわち人手不足が進んだときなのですから。工事件数が少なければ「仕事があったらやります」と下請けは元請けに頭を下げなければならない、コスト削減にも応じることを余儀なくされるものです。一方で工事が急増すれば元請けが「頼みます」と頭を下げなければならなくなる、場合によっては発注額を上積みして下請け業者を説得しなければならなくもなるわけです。下請けいじめを「けしからん」というのなら、今のように下請けの立場が強くなる、そうした状況を作り出した政策は当然、評価していますよね?

 

 国交省は今年3月、3県で行われる国、自治体発注工事について、予定価格算出の基礎となる建設作業員の標準的な日当(労務単価)を、前年度より21%高くすると発表した。不調率がさらに上がれば、年度途中で再度引き上げる方針だ。

 ただ、被災3県の業者へのアンケートで、この効果について聞くと、回答した49社中「大きな効果を感じる」は2割弱の8社にとどまった。「少しは効果を感じる」が約半数の24社、「あまり感じない」は17社だった。労務単価は被災地以外でも前年度より15%引き上げられた。全国で公共事業を増やしたことと合わせて「被災地の人手不足に拍車をかける効果を大きくしている」との見方もある。

 

 労務単価の引き上げも発表されています。それが実際の作業員の給与に還元されるのか下請け会社もしくは元請け会社の金庫に吸い込まれるのかはさておき、こうした人件費引き上げの動きが見られるようになったのは、率直に好ましいことと言えます。一方で毎日新聞は「被災地の人手不足に拍車をかける効果を大きくしている」と否定的に見る声をピックアップして伝えています。まぁ、雇う側の立場でしか語れない人間にとってはそういうものなのかも知れません。

 総じて我々の社会では、今よりも遙かに人手不足であった時代、賃金を引き上げて労働力を確保しなければならなかった時代をバブルと呼んで永遠の反省の対象としています。人手不足と末端の賃上げは密接に関わるものですが、それを否定的に見る人も跋扈しているわけです。あくまで「働かせる側」の論理に基づいて、安い賃金でも労働者を選り取り見取り、そういう買い手市場に胡座をかいてはそれが当然のことと思い込んでいる人もいる、これが(建設業界限定とはいえ)久々に買い手市場に傾きだしたことに危機感を覚えているのでしょう。自民党の政策が本当に人手不足をもたらしているのなら、それは雇われる側、働く側にとっては間違いなく好ましいことなのですが、それを厭う人もいるわけです。

 

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