非国民通信

ノーモア・コイズミ

新卒一括採用「しない」会社は星の数ほどありますが

2019-08-18 22:22:45 | 雇用・経済

(経済気象台)辞退率提供サービスに思う(朝日新聞)

 学生の内定辞退の可能性を数値化して企業に提供していたサービスが問題となっている。詳細は不明だが、学生による企業ページの閲覧履歴などをもとにAI(人工知能)を使って推測していたようだ。38社がこのサービスを購入していたという。個人情報保護の観点で大きな問題だが、そこから推測される現在の採用活動にも課題は多い。

(中略)

 来年度からは、企業による採用活動の自由度が増すことになる。「今さら感」はあるが、企業もそろそろ目を覚まし、新卒一括採用の呪縛から解き放たれる時期が来ているのではないだろうか? いち早くそこに気づき、新しい取り組みを始めたものにこそ、大きなメリットがもたらされるはずである。

 

 さてリクナビが学生に隠して販売していた内定辞退率の予測データですが、トヨタやホンダ、りそなホールディングスなど少なからぬ企業へ販売されていたことが伝えられています。トヨタなどは過去に部落地名総鑑も購入していたと聞きますけれど、意外にこういうことでは、ブランドイメージに傷は付かないものなのかも知れませんね。

 さて、朝日新聞曰く第一線(どこの?)で活躍している経済人、学者ら社外筆者が執筆しているという触れ込みの作文コーナーで、問題の辞退率データを枕にアレコレと語られているわけです。結論としては新卒一括採用批判に落ち着くのですが、この新卒一括採用批判も随分と歴史が長いですよね。新卒一括採用はダメだと、そういう社会的合意が掲載されてから長い年月が経ちましたが、その結果はいかがなものでしょう。

 ちなみに私の勤める会社では、一括採用以前に新卒者自体、採用していません。採用は通年、中途だけです。ただし親会社は逆で、新卒一括採用が原則となり、基本的に中途では入社できません。読者の皆様がお勤めの会社の採用事情はいかがでしょうか。ヨソでも、似たようなところは多いのではないかと思います。

 新卒一括採用が成り立つには、条件があります。一つには、従業員を「0から」教育できる環境が整っていることです。当たり前ですが新卒者は右も左も分からない赤ん坊のようなものですから、それを辛抱強く育てる環境がなければ、新卒を採用しても腐らせてしまいます。本当に0から社員を教育できる企業だけが新卒を活かせるわけです。

 そしてもう一つは、離職率が低いことです。離職率が低いからこそ、入社時期が年に一度でも業務が回るもので、逆に離職率が高い企業の場合は当然、年間通して人員補充の必要性に迫られます。定期的な人員補充が必要な会社は、好むと好まざると通年採用せざるを得ません。しかし人が辞めないならば、人員配置は計画通り、補充は4月の一斉入社だけでもなんとかなるのです。

 新卒一括採用は、それ自体が何かを産むものではありません。しかし、一つの目安にはなります。新卒者を0から育てる環境があり、4月の一斉入社以外に人員補充の必要に迫られていない会社かどうか、それを判別する尺度になるわけです。好待遇の親会社は新卒一括採用で、待遇面で大幅に劣る子会社は通年中途採用だったり、そんなケースもありますけれど、まぁ察してください。

 楽な道があると、楽な道しか進めない事業者も生き延びることができます。反対に険しい道ばかりなら、険しい道を突破できる強い事業者を選別することができる、と言えます。例えば規制緩和によって人件費削減が容易になると、売り上げを伸ばせなくても人件費を削ることで、企業の延命が可能になるわけです。経済発展に貢献できようはずもない不採算企業でも、人を安く長く働かせることで、存続が可能になるのですね。

 逆に規制が厳しくなれば、その中でも利益を上げられる、イノベーションを起こせる企業しか生き残ることはできません。人件費が高くなれば機械化・自動化を成し遂げる企業だけが存続できますが、人件費が下がれば従業員を酷使することで誰でも生き延びることができてしまう等々。日本が選んだ道は後者と言えますが、さて世界経済における日本の立ち位置はどうなったでしょう?

 「新卒一括採用」とは、大企業の「自主規制」なのかも知れません。上述の通り、新卒一括採用を維持するためには、0から教育できる体制と、離職率の低さが前提条件となります。この条件を満たせない中小・零細・ブラック企業は、昔から通年・中途採用を続けてきたわけです。そして世の識者が訳知り顔で語るように新卒一括採用が悪しきものであるのならば、大企業と中小企業の力関係は逆転していそうなものですが……

 社員を0から教育できないので中途採用、離職率が高く絶えず人員補充の必要に迫られているので通年採用、そんな中小以下の会社は、実のところ多数派でもあります。しかし、否定されているはずの新卒一括採用からは無縁の中小以下の企業が日本経済の牽引役になっているかと言えば、全くそんなことはないわけです。

 むしろ今なお強いのは、新卒一括採用を維持できている会社の方ですよね。新卒一括採用の条件たる教育体制と離職率の低さを維持している会社が、結局は成長しているのです。したり顔で新卒一括採用にダメ出しすれば、ちょっと「分かっている」風に見えるかも知れません。しかし新卒一括採用「できない」会社こそが、本当のところはダメな会社なのです。

コメント