非国民通信

ノーモア・コイズミ

福祉削減のしわ寄せはいずれ若者に

2015-06-17 22:44:58 | 社会

介護費軽減、通帳のコピー必要に 施設の高齢者対象(朝日新聞)

 特別養護老人ホームなどの介護保険施設を利用している高齢者に、全国の自治体が預貯金通帳のコピーの提出を求める通知を出し始めた。施設での食費や居住費の負担軽減を受けている人らが対象。昨年6月の介護保険法の改正に伴い、所得だけでなく、資産が一定以下であることも軽減の要件になったためだ。自治体には、本人やケアマネジャーらから「なぜ必要なのか」「本人が認知症で、家族も近くにいない。どうしたらいいのか」といった問い合わせが相次いでいる。

 厚生労働省によると、軽減の認定を受けている人は全国で約110万人(2013年度末時点)という。コピーを提出しなければ、8月から軽減は受けられなくなる。ケースによって違うが、おおむね月に数千円~数万円程度の負担増になるとみられる。

 コピーが求められるのは、施設に入っている人や、自宅暮らしでショートステイを利用している人たち。厚労省の指示に基づくもので、これまでは、世帯全員が市町村民税非課税なら受けられた軽減が、省令改正により、単身なら1千万円、夫婦の場合は計2千万円を超える資産がある人は軽減されなくなった。財政難に伴って、所得だけでなく、資産にも着目するようになった。

 軽減を受けるには申請が必要で、1年ごとに更新する。軽減されている高齢者らの元には毎年、自治体から「更新申請」のための通知が届く。今年から、引き続き軽減を受けるには、申請の際に資産を証明できるものを提出するよう求められている。資産には、預貯金のほか、有価証券や投資信託、タンス預金なども含まれる。借金は差し引かれる。

 さらに、申告している資産内容が正しいか確認するため、自治体が金融機関に預貯金や有価証券などの残高を照会しても構わないという「同意書」も併せて提出するよう求めている。

 

 まぁ昨今では財政難も錦の御旗みたいなところがありますから、こういう類も通ってしまうのでしょう。確かに「資産家」には公の福祉に頼る前に自腹を切ってもらうべきだとは思います。とはいえ要介護状態に至ってから冷遇するよりも、財を築いた人には年齢を問わず、しかるべく課税しておけば財政難はもう少し早い段階で緩和できたのではないかという気もしますね。とんでもない金持ち優遇の税制をほったらかしにしておきながら、いざ介護が必要な年寄りになったら厳しい態度を取ろうというのでは、まさに人倫に悖るというものですから。

 なお今回の条件では「単身なら1千万円、夫婦の場合は計2千万円」が閾値だそうで、この辺は20代のサラリーマンなら一財産に見えるかも知れませんけれど、「老後の蓄え」としてはどうでしょうか。年金だけが収入源で要介護の高齢者とあらば、その程度の資産など何ら安心をもたらしてくれるものではありません。ちょっと大きな病気でもして入院すれば、すぐに吹き飛んでしまいかねない水準です。この程度の資産で軽減措置から外れてしまうのも厳しいですね。本物の資産家ならば軽減措置の対象から外されるのも理解できるところですが、「単身なら1千万円、夫婦の場合は計2千万円」は寂しすぎます。

 なおタンス預金等は自己申告とのこと、通帳だって複数の金融機関に分散していればどうでしょう、残高の少ない通帳だけを提出するという手もありますし、元より介護が必要なレベルの高齢者ならば悪意のない「漏れ」は普通にあり得ます。そこで「申告している資産内容が正しいか確認するため、自治体が金融機関に預貯金や有価証券などの残高を照会しても構わないという『同意書』も併せて提出するよう求めている」とのことですが、そちらにこそ一種の悪意を感じるところです。加えて財産が「ない」ことを確認するためにコストも安くはないような気がしますね。「ない」ことを証明するのは何かが「ある」ことを証明するより格段に難しいことですし。

 このブログでは何度となく書いてきたことですが、高齢者向けの福祉の問題は、それを支える子世代の問題でもあります。自分たちの親の介護費や医療費が嵩み、親の貯蓄だけでは賄えなくなった時に支出を余儀なくされるのは、当然ながら「子」です。高齢者向けの福祉が充実していれば、子世代が私的に親を経済的に支援する必要性は薄れることでしょう。しかし高齢者向けの福祉予算が削られ自己負担が増えれば増えるほど、その分を「子」が補ってやらねばなりません。若い世代も、いずれは親の面倒を見る日が来ます。その時に親世代が受ける福祉が充実しているかどうかは、高齢者だけではなく若年層にとっても重要なのです。

 まぁ、筋金入りの自己責任論者が高齢者向けの福祉削減を説くならば、それは――決して賛成はできませんが――異論として認められるべきだとは思います。むしろタチが悪いのは「若者の味方」を装って高齢者向けの福祉を悪玉視する人の方ですね。曰く福祉のための公的支出が現役世代の重荷になっている、若者が老人に搾取されているみたいに説くペテン師達です。これは完全な欺瞞で、高齢者向けの福祉が削られた先に待っているのは、子世代が「自腹で私的に」親を養う未来でしかありません。保険料がちょっとばかり安くなっても、自分の親を経済的に支えなければならないとしたら、それは現役世代にとって紛れもない負担増です。若者もまずは自分が高齢者になったときではなく、自分の親が要介護となったときのことを先に考えるべきではないしょうか。どう足掻いたところで福祉の世話になるのは親の方が先なのですから。

 

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コメント (5)
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