非国民通信

ノーモア・コイズミ

「廃炉推進」82%?

2011-06-20 23:36:26 | ニュース

「廃炉推進」82% 「不安感じる」倍増 原発世論調査(中日新聞)

 本社加盟の日本世論調査会が今月11、12日に実施した全国世論調査によると、国内に現在54基ある原発を「直ちに全て廃炉にする」「定期検査に入ったものから廃炉にする」「電力需給に応じて廃炉を進める」とした人が合わせて82%に上り、「現状維持」の14%を大きく上回った。福島第1原発事故が収束せず、その後の対応をめぐる政府、東京電力の不手際が指摘される中、国が推進してきた原発政策への不信感の強さが浮き彫りになった。

 事故前後での原発への不安を聞いたところ、事故前に「大いに不安を感じていた」「ある程度感じていた」は計43%だったのに、事故後は計94%と倍増。今回の事故が与えた心理的変化の大きさを裏付けている。

 こういう時期の世論調査は何かとバイアスが掛かりやすいだけに慎重に見る必要があると思います。例えば周辺国で軍事衝突が発生している最中に「日米同盟を強化すべきか」「ミサイル防衛計画を推進すべきか」みたいなアンケート、あるいは国民投票なんかが行われるとしたら、国民に意思を問う時期として不適切と感じる人も多いはずです。しかるに世論調査によると「電力需給に応じて廃炉を進める」と回答した人が53.7%との結果が出ています。とかく先鋭化しがちなネット世論にはともすると惑わされがちですが(現職の政治家だって惑わされていますから)、ネットの外の世論調査であればこんなところなのでしょうか。「直ちに全て廃炉にする」「定期検査に入ったものから廃炉にする」みたいな急進派は幸いにして多数派とはなっていないようです。「電力需給に応じて廃炉を進める」と言うことは要するに、電力不足に陥ろうとお構いなしに原発は潰すべしみたいな「脱原発が第一」な人々とは相応の距離があるわけで、この辺は胸をなで下ろすところです。しかるに記事の見出しは「廃炉推進」82%となっています。引用元の本文でも「直ちに全て廃炉にする」「定期検査に入ったものから廃炉にする」「電力需給に応じて廃炉を進める」とした人が合わせて82%と書かれており、その内訳はグラフに記されるのみとなっていますが……

 この辺、消費税増税を巡る世論調査なんかを思い出すところでしょうか。「消費税増税賛成が過半数」みたいな見出しで、さも世論が消費税増税を容認しているかの如き印象を与えておきながら、いざ内訳を見てみると「財政状況によっては増税もやむを得ない」みたいな消極的な回答が多数を占めていたりするわけです。その辺の曖昧な部分や消極的回答を恣意的に振り分けることで、あたかも賛成が多数派、あるいは反対が多数派であるかの如き見出しを掲げる――まぁ、よくあることです。そもそも「電力需給に応じて廃炉を進める」と言うことは、すなわち電力不足であれば原発の稼働を認めることを暗に意味しているはずで、むしろ「直ちに全て廃炉にする」みたいな回答をした急診派とは相容れないような気がしますが、本当に「廃炉推進」82%と一括りにしていいのでしょうか?

 だいたい、電力が余っても尚ムダに発電所を稼働させようなんて物好きも滅多にいないわけです(そこで働いている人の新たな雇用を確保するのが先だ、ぐらいに言ってもいいですけれど)。電力供給に余裕のある状態で敢えて発電所を稼働させ続けようなんて酔狂な人でもなければ、「電力需給に応じて」という回答に落ち着くのが自然です。これを「直ちに全て廃炉にする」みたいな回答と一緒くたにするのは無理があります。元より先の統一地方選では、原発周辺地域の首長候補が「原発推進派」「反原発派」などと二元論的な色分けをされて報道されることも多かったはず、しかるに当時の色分けの基準はどうだったでしょう? 「直ちに全て廃炉にする」的な急進派が「反原発派」とされ、状況を見て判断する、今のところは現状を維持するみたいな立場は軒並み「原発推進派」として括られていたように思います。「電力需給に応じて」的な穏健派は、その時々のノリ次第で原発推進派に組み込まれたり、あるいは廃炉推進派に組み込まれたりと、とかくメディアの扱いは恣意的です。

 まぁ反原発論ってのは、財政再建論と似たようなノリがあるのかも知れません。別に財政再建そのものに反対してはいないけれど、不況下で財政再建を優先することには異議アリみたいな立場でも、財政再建派にしてみれば「財政がどうなってもいいのか!子孫にツケを残すな!」と憤りの対象になっているものではないでしょうか。原発を巡る言論も同様、電力供給に余裕がない状況での急進的な反原発論には首を傾げる人々に対して、脱原発が第一な人々が向けるものは財政再建至上主義者のそれと酷似しています。いずれにせよ、あまり健全とは言えませんね。

 ちなみに山本太郎とか村上春樹とか、その他諸々に言わせればメディアは電力会社によって支配されているとのことですが、しかるに自称全国紙の産経新聞より発行部数の多い大メディアでも「廃炉推進」82%などと廃炉推進派が多数であるかのごとく見せかけようと露骨な印象操作に走っているわけです(同じ調査を引き合いに出したAFPの見出しも「82%が原発廃炉を希望、世論調査」となっており、何だかなぁと思います)。電力会社がメディアを買収し~みたいな陰謀論的世界観は、いい加減に捨てたらどうかと思いますね。本当に電力会社がメディアを支配しているのなら、もうちょっと上手くやるはず、そうでなくとも「電力需給に応じて」という回答を「直ちに全て廃炉にする」と同じ枠に組み込んでまで廃炉推進派を多数派に見せかけるような姑息な真似はしないでしょう。


 政府がエネルギー基本計画で掲げていた「2030年までに原発14基以上を新増設する」との方針には、67%が「新設、増設するべきではない」と回答。「14基より減らすべきだ」は22%で、「方針通り進めるべきだ」は6%だった。

 現在運転中の原発の安全対策では「運転を続けて定期検査で対応するべきだ」が54%で「直ちに止めて対応するべきだ」の38%を上回り、政府の要請で運転停止した浜岡原発のような異例の措置よりも、日常生活への影響も踏まえた現実的な措置を求める声が強かった。

 また、今後重点的に取り組むべきエネルギー分野(2つまで回答)では、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが84%でもっとも多く、次いで水力45%、天然ガス31%と続いた。原子力は7%で、石油、石炭(各4%)を上回った。

 なお「今後重点的に取り組むべきエネルギー分野」に関しては、いわゆる再生可能エネルギーが84%と最多を占めました。ただ太陽光や風力には問題も多く、原発の代わりとなるには程遠いのが実態です。いずれ諸々の欠点も解消されることはあるのかも知れませんが、いつになるかわからない技術革新を夢見て現行の発電所を引っ張り続けるのは言うまでもなく高リスクです。もうちょっと、今できる範囲での「中継ぎ」を考えた方がいいのではないでしょうか。どうしても原子力が嫌なら、火力発電をもうちょっと増やしてくれないと間に合いません。一足飛びに理想に飛びつくのも結構ですが、遠い未来だけではなく近い未来のことも考えるべきでしょう。

 そもそも発電設備のカテゴリ単位で野蛮に色分けされることが多いですけれど、一口に火力と言っても施設によって効率は雲泥の差がありますし、原発も同様で老朽化が著しいものもあればそうでないものもある、設計元のアメリカ仕様そのままのものもあれば、日本向けに最適化が図られているものもある、旧世代の設計のものもあれば電源が喪失しても冷却能力を維持できる機構を備えたものもあります。そこでレイシズムの論理とかですと、外国人(あるいは中国人、韓国人)はカテゴリ単位で色分けされがちで、個々人には目を向けたがらず、全てを一緒くたにして否定したがる、そしてカテゴリの中の誰かが悪さをすれば、そのカテゴリに属する全てを悪者扱いするわけです。では原発に対する世間の認識はどうでしょうか? 個々の原発単位でのリスク評価を避け、原発というカテゴリに属するものを一纏めに危険視している人は、あまり考え方の筋が良くないと思います。嫌悪する対象が違うえば、それが是とされるものではありません。

 ともあれ原発を「増設」と言われると否定的な声の方が大きいようですけれど、ただ安定的に大量の電気を供給できる施設を新たに設けないことには、古い発電所を退役させることも出来ないわけです。電力不足で何が起ころうがお構いなく「直ちに全て廃炉にする」派の人であれば、その辺は考える気にすらならないのかも知れません。ただ「電力需給に応じて」という立場からすれば、相対的にリスクの高い古い原発を廃炉にするためには、先に代替となるべきものを作らなければならないはずです。脱原発のために国民の生活や産業ひいては雇用を破壊してしまっては最悪ですから。ならば相対的に安全性の高い原発で老朽化著しい旧世代型の原発を置き換えていくのもリスク低減策としては有効であるように思われますが、「(原発を)新設、増設するべきではない」という世論が強いと、それも難しくなることでしょう。

 

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コメント (4)
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