転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



12日歌舞伎座、昼の部のメインは菊五郎主演の『裏表先代萩』。
こうして見ると、四月大歌舞伎は、
夜が仁左衛門の悪役二役、昼は菊五郎の悪役二役。
いずれも、時代物の大悪党と、世話物の小悪党の対比なのだが、
仁左衛門がどこまでも昏く陰影深く、艶やかに演じる一方、
菊五郎はどこか愛嬌があって明るく、しかしドスが利いたら怖いぞ、
という硬軟自在の悪者で、そこはやはり音羽屋の持ち味ならでは。

時蔵の乳母政岡は初役だったが、立女形として素晴らしかった。
片外しは合うだろうなとは思っていたが、期待を遙かに上まわった。
時蔵の鋭角的な美貌や声が、政岡の強さによく似合い、
同時に根底には細やかな情が豊かにあることがわかり、大変良かった。
小さい亀三郎が鶴千代君で、お人形さんのようにおっとりと可愛らしく、
しかし高貴なところがよく出ていて、声が通るところは父上譲りか。

菊五郎の仁木弾正の引っ込みのところは圧巻だった。
ほとんど音もない、限られた動きだけの花道引っ込みを
あれほど余裕を持って見せることができるのは、音羽屋の芸あればこそ。
しかし蝋燭の使い方は、成田屋のとは違ったように思うが、
……ここは音羽屋の型というものなのだろうか。
そのうち時間があれば調べてみたい。

松緑が弥十郎で、弁舌爽やかな二枚目、こちらは掛け値無しに素敵(笑)!
小助(菊五郎)との対決は、胸のすく見事さ!
昔から私は、あらしちゃんの声質が好きではあったが、
台詞自体がここまで向上して来ると、今後は本当に楽しみだ。
あらしちゃんは、地道に努力して成果を出す人なのだなと感じ入った。
……亨さん(初代・辰之助)の息子は、あっぱれ、立派になったよと感無量。

それにしても、実は以前から思っているのだが、物語としての仁木弾正、
大上段に構えて登場→威厳を見せつけて花道を去って行ったにしては、
よく見ると鶴千代君暗殺はしくじっているし、
ねずみになったときには床下で男之助に踏まれているし、
年寄りの外記左衛門をしとめるのに手こずるしで、
実に失点が多く、腰砕けなところがあって憎めない。
妖術まで使えるという設定なのに、それでいいのかという(笑)。
大の字で死んで高く抱え上げられての退場は、
(自称)大悪党に相応しく、大変格好良いのだけど(笑)。

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