転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



小澤征爾さん:体調不良で再び休演(毎日新聞)
『長野県松本市で開催中の「サイトウ・キネン・フェスティバル(SKF)松本」で25日夜、オペラ公演を予定していた指揮者の小澤征爾さん(75)が開演直前の準備中に体調不良を訴え休演した。軽い肺炎などで休演した23日に続き2回目。』『実行委員会によると、小澤さんは点滴などを受けているが、発熱はなく食事も取っている。25日午後にはいったん医師が「出演可能」と診断。だが同7時からの公演に備え、同市の滞在先で同6時10分ごろベッドから起きて準備を始めた際、本人が休演を申し出たという。指揮は代役が務めた。27日の最終公演の出演は未定。』

小澤氏の体調を心配する声が多く、私も案じているが、想像するに、
この状況はやはり食道がん手術の影響が大きかったためだと思う。
舅が手術したときのことや、当時、主治医から受けた説明を思い出してみると、
食道がんの手術そのものが、消化器外科では最大と言われる規模のもので、
患部だけでなく、周辺のリンパ組織や肺へのダメージも簡単ではなく、
更に、食道のかわりに胃を細くして胃管にしている場合には、
食事の取り方も手術前とは全く変わってしまう。
体重は多くの場合10キロ前後は落ちるし、元に戻すのは容易ではない。

(病気は同じでも、桑田佳祐さんの場合は更に初期だったか部位が良かったで、
腹腔鏡でやれたという話だったから、一般的な食道がん手術より
ダメージは少なめだったのではないかと思う。)

舅や、療養仲間だった患者さん達のことを思い浮かべてみると、
この手術を受けた後は、デスクワークどころか、家でゆっくり療養だけしていても、
なかなか思い通りに動けるようにならないのに、
小澤氏は退院後1年ちょっとで指揮者として現場に復帰されたのだから、
そのことだけでも、氏の努力と回復力は、超人的なものだと私には思われる。
また、患者の家族として舅を観察した経験からは、
術後は体質的にもそれまでとは別人のようになり、
「ちょっと疲れたけど休めばなおる」とか「風邪くらい一晩寝れば」
ということが、全く通用しなくなるというのが、私の実感だ。
手術のとき右開胸して肺をしぼませているので、呼吸器も弱くなりやすい。
小澤氏が、こういうタイミングでの休演となったことだって、
無理もないことだと思うくらいだ。

体調が落ち着いて来ると、気持ちはすぐに以前通りに戻ってしまうので、
慎重にやると言いながら、体には無理なスケジュールを気づかずに組んで、
熱が出てきてから悔しがる(汗)、ということが、舅の場合、多かった。
瞬発力は取り戻せても、それを持続させるだけの体力となると別問題で、
本人の「体感」よりも、実際の回復にはもっとずっと長い時間が必要なのだ。
小澤氏も、何しろまだ「術後」であるということをよく考慮され、
特に今後は年単位で、たとえもどかしくとも、念には念を入れた予定にして、
徐々にペースを戻すかたちで、指揮活動を継続して下さるように願っている。

勿論、芸術活動には「まだやれるが加減して」「セーブしつつ」というのが困難なので、
ご本人にとっては、精神的な葛藤も大変に大きいことだと思う。
しかし外科手術は、完治を獲得する最も確実な方法だし、選択が間違っていたとは思わない。
幸い、人間ドックで発見された、ごく初期の食道がんだったそうだし、
既に復帰も果たされているので、治療そのものは問題なく完了していると思う。
あとは、手術で変わってしまった体を受け入れ、心身ともにコントロールすることが、
今後何年か費やして体得して行かねばならない課題となるのではないか、
と、元・患者の家族として想像している。

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