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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

申 惠丰(シン・ヘボン)先生の新著『私たち一人ひとりのための国際人権法入門』。ジャニーズ事件など日本で実際に起きた人権問題を取り上げ、生き辛さや理不尽さの要因を国際人権法の視点から考察する

2025年03月03日 | 人権保障と平和

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 2024年3月まで青山学院大学法学部長でおられ、現在は同学部ヒューマンライツ学科教授で、スクーンメーカー記念ジェンダー研究センターのセンター長も務めておられる申 惠丰(シン ヘボン)先生。

 もともと国際人権規約など国際人権法の専門家で、国際人権法学会の元理事長で、国際NGOヒューマンライツナウの前理事長でもいらっしゃいます。

 申先生は研究者として、国際人権法の観点から外国人労働者の労働環境や権利に焦点を当てた研究を進めておられており、さらにジェンダー平等や性の多様性の尊重に関する研究の指導的な研究者のお一人です。

防衛費の増大と兵器爆買いによる福祉・教育の切り捨てに反対する研究者・実務家の声明発表、記者会見大成功!!
 
 
 
 さらにコロナ禍において申先生にまたも声明文を作っていただき、2020年に
「新型コロナウィルス感染に伴う休業要請につき、アメリカからの武器輸入費を削減して個人と企業への生活支援・休業補償を行うことを求める声明」

も発表しました。

 
 
 
 その申先生がご専門にされている国際人権規約の社会権規約は正式名称は「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」といいます。
 
 これは人権に関する重要な多国間条約の一つで1966年12月16日に国際連合総会で採択され、1976年1月3日に発効しました。
  1. 目的:世界人権宣言の内容を基礎として、経済的、社会的、文化的権利を法的拘束力のある形で規定しています。

  2. 主な権利:

    • 労働の権利(第6条)

    • 公正な労働条件の権利(第7条)

    • 労働組合の権利(第8条)

    • 社会保障の権利(第9条)

    • 家族の保護(第10条)

    • 適切な生活水準の権利(第11条)

    • 健康の権利(第12条)

    • 教育の権利(第13条)

    • 文化的生活に参加する権利(第15条)

  3. 締約国の義務:規約締結国は、これらの権利の完全な実現を漸進的に達成する義務を負います。

  4. 差別の禁止:すべての経済的、社会的及び文化的権利の享有について、男女に同等の権利を確保することを規定しています。

  5. 報告義務:締約国は、国連事務総長や経済社会理事会に対して、規約の実施状況を報告する義務があります。

 このように、社会権規約は国際人権法の中で最も基本的かつ包括的な条約の一つとして位置づけられており、人々の経済的、社会的、文化的な側面での権利保障を目指しています。

 そして、申先生はこれらの国際人権法が我々の日常生活ではどう生かすことができるのか、という観点から2020年には

『友だちを助けるための国際人権法入門』

を発表され、法律家のみならず学生や一般市民からも大きな反響を得ました。

国の管轄下にあるすべての人の人権を守るのために。
国際人権法を身近な問題で〝使いこなす〟ための実践的ガイドブック。

「友だちを助けるための国際人権法入門」申惠丰(シンヘボン)著でわかる、なにもかも国際法ですでに規定されていたという事実。

 

 

 さらにこの『友だちを助けるための国際人権法入門』の好評を受けて、申先生はその続編にあたる

『私たち一人ひとりのための国際人権法入門』

という本を、2024年9月に上梓されました。

 

 内容的には、前著の後の性暴力に関する刑法改正などのことを含めて、事例や内容をアップデートなさったもので、例えば以下のような具体的な事件を扱っておられます。

・奨学金の返済に苦しむ学生 (自殺の動機にも)
・恐怖で抵抗できず性暴力を受けた女性 (刑法改正で加害者処罰が可能に)
・所属事務所の社長からの性暴力に耐え続けたタレント (「ジャニーズ事務所事件」)
・「家事やってほしければ俺くらい稼いで来い」と夫に言われ、離婚を考える女性(性別役割分担と女性差別)
・民族差別的な文書を会社内で配布され、苦痛を感じる在日コリアン女性 (「フジ住宅裁判」)
・DV被害で警察に相談したら入管に収容され、その後体調が悪化して亡くなってしまったスリランカ人女性 (「ウィシュマさん事件」)
・輸出規制に違反したとの事件を捏造されて逮捕され、執拗に自白を強要された会社の社長 (「大川原化工機事件」)

 特に、ジャニーズ事件の本質が子どもへの性的虐待と性的搾取の問題であると指摘して、子どもの権利条約34条があらゆる形態の性的搾取や性的虐待から子どもたちを保護するための措置をとることなどを締約国に義務付けていることを明記されています。

 また、また最高裁が性同一性障害特例法の生殖不能要件を違憲とした画期的な判決では、実はヨーロッパの判例が影響を与えていることなども解説されています。

最高裁が法令違憲判断!性同一性障害特例法でトランスジェンダーが性別を変更するのに生殖不能の手術が要件とされているのは違憲。「意に反して身体への侵襲を受けない自由を侵害し、憲法13条に違反して無効」。

 

 

 この本でそのジャニーズ事件にも言及している第3章の「ビジネスと人権法」は特に圧巻です。

 日本では新聞広告など公的な媒体・場所に女性のセミヌード写真など商業的性搾取のマテリアルが溢れていることについても、女性差別撤廃委員会の総括所見(ポルノの蔓延が性暴力を促進している面があること)にもふれながら、かなり詳しく言及しされています。

 ちなみに、この本の主な主張は性的商品や広告などを法的に規制せよという論調ではなく、主に「ビジネスと人権」の観点から、女性と特に子どもの人権については企業は自覚的であるべきことを提起した内容です。

 人権に関して、国家は国際法上の「義務」を負いますが、企業は国際人権基準を遵守してビジネスを行う「責任」を負います。
 
 そして、子ども虐待マテリアルや性差別的マテリアルについては、国内法を強化すべきですが、表現の自由との関係で慎重論も根強いところ,少なくとも企業は,仮に国内法の規制が緩かろうとも、ビジネスにおいては国際人権基準を意識してデューディリジェンスを実施する必要があるというのが第3章でのご主張です。
 
 ちなみに「人権デュー・ディリジェンス・プロセス」とは、企業活動が人権に与える影響を特定し防止し軽減し、どのように対処するかについて責任を持つという指導原則だそうで、それぞれの国での法規がどうあろうと、特に多国籍企業は国際人権基準による重い責任を負うべきだということですね。
 
 
 
 
 
 

 また、同書では2ページ半にわたって、伊藤詩織さんへの誹謗中傷ツイートに杉田水脈議員が「いいね」を押した事件で名誉毀損が認められたことや、アイヌや朝鮮民族に対する差別発言について札幌法務局から人権侵犯の認定を受けて「啓発」されたことなどについて解説をされています。

 うちのブログでは法務局が杉田議員に「啓発」をしたということまでしか書いてきませんでしたが、この本では

『しかし、杉田氏の事案では、人権侵犯の認定を受けて「啓発」措置が実施されたとなっているものの、具体的にどのような啓発をしたのかは、法務省は「個別の事案のため答えられない」と明確にしていません。

 杉田氏の事務所も、どのように受け止めているかについてコメントを出さず、また自民党本部からの指導なども「一切ない」としています。

 杉田氏は、「生産性」発言が問題になった際は総務政務官を辞任したものの、その後も国会議員を務めています。

 与党の国会議員が率先して差別的な発言を拡散していること、そしてそれに対して国の機関が「人権侵犯」(=人権侵害)」だと認めても、それに対しての制度的な対応が、内容もわからない「啓発」だけということについて、みなさんはどのように考えますか』

と問題提起されています。

 この辺りが私のような超ドメスティックな法律家と違い、世界の人権保障状況を把握されている申先生ならではのさらなるツッコミだと思いました。

札幌・大阪両法務局から人権侵犯認定され「啓発」された杉田水脈議員が「私は差別をしていない」「人権侵犯の制度が悪い」と開き直り。それでもまだ庇う岸田首相の人権意識が一番の問題だ。

 

差別発言連発の杉田水脈総務省政務官がやっと辞任!=事実上の更迭。「差別していない」「そういう発言を聞いて応援してくださっている支援者の方もたくさんいらっしゃいますので」とネトウヨ配慮の最後っ屁(笑)
杉田水脈氏が衆院選不出馬。少数民族への差別発言は「ジャーナリストのような形で活動していたのでキャッチーな言葉を使った」。伊藤詩織さんへの名誉毀損についてツイッターの「使い方を知らなかった」(呆)。
 

 

 さて、国連安全保障理事会の常任理事国であるロシア共和国が国連憲章に反してウクライナに侵略して3年以上が経過しました。

 その後、さらに、同じく常任理事国であるアメリカ合衆国の支援を受けてイスラエルがガザでジェノサイドを1年以上続けています。

 どの国も国内での法の支配をどう貫徹するか、そして国際法ではそれをどう維持・発展させるかがこれほど問われている時代はないでしょう。

 申先生は、ロシアによるウクライナ侵略が始まり「国際法の無力」が盛んに言われた時期に、しかしウクライナへの侵略戦争を可能にしたのはロシア国内での人権保障がまず脆弱だったことが原因ではないか、問われるべきは国際法の効力以前に各国の国内法による人権保障の確保ではないか、という問題提起をされました。

 トランプ政権がアメリカに誕生してますます平和的生存権も女性の権利も性的マイノリティの権利も危うい中、国際人権法の到達点を確認し、具体的に私たちの暮らす日本社会で生かすことが、これほど重要な時代はないと思います。

 申先生の力作2部作、ぜひお読みになることをお勧めします。

【#ウクライナに平和を】市民連合主催、国際人権法専門の申惠丰青山学院大学法学部長と東大作上智大学教授の対談「他国の領土保全を武力で侵すことは禁止されているという国連の大原則にまずは立ち返るべき」

 

 

編集後記

一つ一つのテーマへの記載がコンパクトで、とても読みやすくて、どこからでも読み始めることができる良書です。

皆さん、まず「私たち一人ひとりのための国際人権法入門」からお読みになって、Amazonレビューも積極的に書いてみてくださいね。

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公開日: 更新日:
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 日本の学者や弁護士が安倍政権の“暴挙”にカンカンになっている。

 20日、青山学院大の申惠丰教授(国際人権法)と徳岡宏一朗弁護士が外国特派員協会で、防衛費の膨大な増加に抗議する声明を発表。米国から戦闘機などを“爆買い”する安倍政権に、教育費や社会保障費の充実を求めた。

 緊急声明の呼びかけ人は、憲法学者や経済学者、弁護士など18人。主に学者や弁護士で構成される賛同者は、233人(19日時点)に上っている。

 申教授らは、後年度負担による“分割ローン”払いでの兵器購入が憲法違反だと指摘。「毎会計年度の予算は国会の議決を経なければならないとしている財政民主主義の大原則(憲法86条)を空洞化する事態」だと批判した。

 安倍首相の“ルール無用”は憲法だけでなく、国際法にも及ぶという。

 申教授は、締約国に社会保障の充実を義務付けた「社会権規約」を日本が批准していることを踏まえ、生活保護費や年金受給額を引き下げている安倍政権が「社会権規約」に違反していると強調。さらに、同規約が教育の無償化や適切な奨学金制度の設立を定めていることにも言及し、「教育に対する日本の公的支出の貧弱さはこれらを守っていない」と語気を強めた。

 要するに、米国から兵器を“爆買い”して教育や福祉に予算を割かないのは、憲法と国際法違反なのだ。申教授に改めて聞いた。

「1機100億円を超える戦闘機を100機買ったり、護衛艦『いずも』の空母化を決めたり、安倍政権の政策は“タガ”が外れています。こういう予算の使い方は、憲法上も国際法上もおかしい。今後、一般の方の賛同を募り、防衛省などに直接働きかけることも考えています」

 国民は、無法者が「立法府の長」である現実をよーく分かっていた方がいい。

 

 

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1 コメント

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Unknown (暗黒大将軍)
2025-03-04 20:57:22
「人権デュー・ディリジェンス・システム」という語は初めて知りました

しかし日本政府と日本企業はこの語が流行ったりトピックになったりする状況は明らかに望んでおらず、傍観者的な態度を続けるでしょうね

ドイツの「サプライチェーン法(2021)」、アメリカの「ウィグル強制労働防止法(2021)」的なものを現状で日本政府が作るのは考えにくいことです

それは近いところでこの語が意識される契機となったのが、2021年に米国務省から日本の外国人技能実習制度の「法令違反率」が7割にも達する、と指摘されたことに依るのを見ても自明でしょう
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