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高田敏子(1914-1989)「寒夜」『夢の手』(1985年):死の悲しみの風化に、詩人は愕然とした!

2018-07-16 18:14:46 | 日記
 寒夜(カンヤ)A cold night

テレビを見ていて When I wached TV,
声を立てて笑った I loudly laughed.
私の笑い声 My laughter
消えないままに止まって remains without vanishing
私をこわがらせている and makes me scared.

笑いは 人と分け合うものではなかったかしら? You share laughter with other person, don’t you?
ああ おかしい と笑い合って Feeling that something is funny, you and the other laugh each other,
笑い声は お互いの心の中に吸いとられてゆく and the laughter is absorbed into each other’s mind.

私のほかに誰もいない There’s no one except me.
この家で立ててしまった私の笑い声 The laughter I have unintentionally made in this house
ゆき場もなく has no destination.
私の上に落ちて来て Then it falls down on me
私をこわがらせている and scares me.
狂女の笑い 鬼女の笑い Laughter of a lunatic woman, laughter of a demoniac woman,
荒野の中の一つ家に住む老婆の笑い or laughter of an old woman who lives in a house in the wilderness;
そのどれかの笑いに似ているよう My laughter seems to be similar to one of these.

家の戸をゆする風音におびえることもなくなった I have become not to be scared of the sounds of a wind that shakes sliding doors of my house.
私が However I
私の立ててしまった笑い声におびえている am scared of my laughter that I have unintentionally made.
窓の外の深い闇 There’s deep darkness out of the window.

 寒夜 A cold night.

《感想1》
詩人の夫が亡くなって数年後の詩だ。独り暮らしにも慣れた頃だ。テレビを見ていて、可笑しいので笑った。彼女は、突然、怖くなった。
《感想2》
笑い声が、その本性から、「人と分け合うもの」だというわけでない。詩人が置かれた今の境遇が、そう思わせるだけだ。
《感想3》
詩人は、二人で暮らしていた時を急に思い出した。今はもう、「私のほかに誰もいない」。だが彼女が怖くなったのは、自分が一人になったことでない。
《感想4》
夫の死を悲しんでいたはずなのに、笑ってしまった自分!詩人は、そのことに愕然とし、怖くなった。「去るものは日々に疎し」と言う。死の悲しみも風化する。彼女は、だから笑いを、「狂女の笑い/鬼女の笑い」と言った。「窓の外の深い闇」!「寒夜」!
《感想5》
だが、さらに時間が経てば、彼女は、夫の死を受け入れるだろう。一人でテレビを見ていて、声を立てて笑ったからといって、そのことに愕然としなくなるだろう。他方、この詩は、夫の死後のある時期、そのような笑いを「深い闇」ととらえるしかない妻の心を、痛切に描く。
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