DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

萩原朔太郎(1886-1942)「吉原」『宿命』(1939)所収:遊郭地帯の吉原を即物的に非ロマンチックに描き、醒めている!

2018-11-09 18:15:03 | 日記
 吉原 Yoshiwara district

高い板塀の中にかこまれてゐる Surrounded by high wooden walls,
うすぐらい陰氣な區域だ。 it is a dark and gloomy district.
それでも空地に溝がながれて However a stream flows at a vacant lot,
木が生え trees grow,
白き石炭酸の臭ひはぷんぷんたり。 and the smell of white carbolic acid is extremely strong.

吉原! Yoshiwara district!
土堤ばたに死んでる蛙のやうに It is a district of ill repute. It looks like a frog that lies dead near a river bank
白く腹を出してる遊廓地帶だ。 and shows its white belly.

かなしい板塀の圍ひの中で Inside the sad wooden walls,
おれの色女が泣いてる聲をきいた I heard my prostitute crying.
夜つぴとへだ。 All night, she often passed gases.
それから消化不良のうどんを食つて Then, she ate indigestive noodles
煤けた電氣の下に寢そべつてゐた。 and lay under the smokey electric bulb.
「また來てくんろよう!」 "Please, come again!"

曇つた絶望の天氣の日でも Even on the day of a cloudy hopeless weather,
女郎屋の看板に寫眞が出てゐる。 the pictures of prostitutes are showed on the signboard of a house of ill repute.

《感想1》吉原は人間の性欲を金銭で処理する場所だ。警察が管理するので、高い板塀で隔離される。合法的な性的交渉は結婚制度で保障され明るく華やかだ。しかし制度外の性的交渉はうすぐらく陰気だ。
《感想2》もちろん吉原という人間の街区も自然の中にある。空地に溝が流れ、緑の木が生える。しかし他方で街を消毒する石炭酸の臭いがぷんぷんする。
《感想3》吉原の売春婦たちは厳しい生活を送る。生きるために男に性交・射精させる。性病にかかり蔑まれ稼ぎは少なく、まるで土堤ばたで死んで白く腹を出している蛙だ。

《感想4》板塀の囲いの中は悲しい。詩人は、自分の好みの売春婦が泣いている声を聞いた。
《感想4ー2》買い手の男の目的は直接的であり、性交・射精のみだ。売春婦が気取ってみたところで、売値が上がるわけでない。自分の馴染みの売春婦も一晩中、おならしている。腹具合が悪い。
《感想4ー3》彼女は消化不良になりやすいうどんを食べる。電灯は煤け、建物は安普請だ。彼女は部屋で寝そべっている。帰る自分に「またきてくんろよ!」と別れのあいさつ。

《感想5》詩人は吉原に絶望を感じる。ただし自分の性欲は処理してほしいので吉原に出かける。その限りでは吉原はカネを払って買うもの、つまり希望を満たす有用な商品が提供される場所だ。(この点で詩人は絶望していない。)
《感想5ー5》商品の広告は、売り手にとって必要なので、店の看板に売春婦たちの写真が飾られている。
《感想6》詩は、遊廓地帶の吉原を即物的に非ロマンチックに描き、醒めている。ただ売春婦の心情については、ほとんど何も語らない。
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