安倍晋三首相が新国立競技場の計画見直しで、国土交通省や文部科学省に念入りに検討させたのは、2020年東京五輪・パラリンピックまでに建設が間に合うのかという工期と、現行計画より総工費を抑えられる見通しが立つのか-というコストの問題だった。
加えて大きな問題となったのは、現行計画を白紙にした場合には、デザインしたザハ・ハディド氏側に支払うべき損害賠償などが発生する可能性があることだった。文科省はハディド氏側にデザイン監修料の一部として昨年度までに13億円を支払い済みで、契約解除時に違約金を支払う条項は設けていないと説明。ただ、政府の調査では、過去の判例から違約金や賠償金として「10億円から最大100億円」を支出せざるを得ないとの数字も出た。巨額の賠償金を支払うことになれば、新たな批判を呼び起こすのは確実だ。
このため首相も最終決断に踏み切るまで悩み抜いていたようだ。首相は9日夜の会食で、次世代の党の松沢成文幹事長に「下村(博文文科相)さんは『絶対大丈夫』と言っている」と話し、松沢氏が「見直さないと世論が持たなくなる」と指摘すると、首相は苦り切った表情を浮かべた。
また、計画変更の難関の1つは、五輪大会組織委員会会長の森喜朗元首相の説得だった。
14日には自民党幹部から首相周辺に「森氏は計画変更に慎重だ」という情報が入った。今月末にクアラルンプールで開かれる国際オリンピック委員会(IOC)総会で、森氏自身がメーン会場の説明をする予定になっているためだった。
森氏には自分が説明し、説得するしかない-。審議中の安全保障関連法案の衆院通過後に森氏と会談する日程も前から入っていた。
17日の首相と森氏の会談が終わり、下村氏や遠藤利明五輪担当相が執務室に招き入れられると、森氏はラグビーの合言葉を引用して言った。「首相が決めたことだ。みんなで団結してやろう。ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン(一人はみんなのために、みんなは一人のために)」(水内茂幸)