心の風景

晴耕雨読を夢見る初老の雑記帳

初夏の紀三井寺と粉河寺を巡る

2021-06-16 10:18:24 | 西国巡礼

 晴れのち曇り、時に雷雨、そして晴れ、小雨、曇り.....。何とも落ち着きのないお天気が続きます。そんなある日、庭のあちらこちらに繁るドクダミを刈り取って軒下に吊るしました。ドクダミ茶(十薬)を作るためです。古来、乾燥した葉や茎を煎じて飲むと利尿作用、動脈硬化の予防、解熱や解毒などに効果があると言われています。でも、我が家で常飲しているのは私だけ(笑)。家内も子供たちも敬遠しています。自然の恵みをいただくのは健康に生きる術のひとつなんですけどねえ(笑)。
 今週も、お散歩と庭のお手入れ、そして読書に音楽鑑賞とゆったりまったりの日々を過ごしました。変わったことと言えば、隣町の図書館におじゃましたときのこと。朗読CDに目が留まりました。そうか、文字ではなく音声で小説を楽しむ方法もあるんだと。加齢と共に小さな文字が見えにくくなってきましたので、一度試してみようということで、新潮CDシリーズから泉鏡花の「高野聖」を借りて帰りました。
 本を開いて活字を追っていると、ついつい難しい文字の前で立ち止まってしまうことがあります。でも、音声だと話の流れをいちいち止めるわけにもいきません。流れに任せるしかありません。すると、文字とは違った世界が広がります。不思議なものです。
 泉鏡花の「高野聖」を実際に手にとったのは今回が初めてでした。ある旅僧が飛騨の山越えをしたときに出会った奇妙なお話です。山深い旧道を歩いていると、木の枝から蛭(ひる)が降ってきて身体にへばりついて血を吸う。その場から逃れようとすると、偶然にも色白の美しい女性(男を誑かしては蛭や獣に代えてしまう魔力の持ち主)に出会う。ついつい魅せられてしまいそうになるけれども、翌朝、旅僧は邪心を振り切って飛騨に旅立つ。.....なんとなく、村上春樹の世界を彷彿とさせる怪奇かつ幻想的な昔話のようでありました。

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 それはともかく、飛騨に向かう山道の描写を聴きながら、ふと四国八十八カ所(歩き遍路)に出かけていた頃のことを思い出しました。昼間だというのに薄暗い杉林の中を独り歩き続けたこと。旧道を選んだばかりに途中で道に迷ったこと。遠くに聞こえる海の波の音だけを頼りに歩き続けたこと。土砂降りの雨の中をずぶ濡れになって山を下ったこと....。今となってはよくもまあ歩けたものだと感心するばかりです。
 なにかしら心の中に蠢くものがありました。朝夕のお散歩だけでは心を満たすことができないもどかしさ。穏やかな仏像の表情が懐かしい。....しばらくしてふと思いついたのが「西国三十三カ所巡り」でした。これまでにお参りしたのは三十三カ寺中9カ寺に過ぎません。ならば、未だお参りをしていない24カ寺を巡拝しよう。そんな気持ちが膨らみました。といっても四国お遍路のような巡礼スタイルは採らず、公共交通機関を利用して気軽にふらっと日帰りできる、そんなのんびりした巡礼も悪くないかもと。
 思い立ったらじっとしてはいられない性分です。翌日の朝、さっそく和歌山に向かい、第2番札所の紀三井山金剛宝寺(紀三井寺)と第3番札所の風猛山粉河寺をお参りしました。
 早朝JR天王寺駅を出発、和歌山駅で各駅停車に乗り換えて二つ目の駅が紀三井寺駅です。そこから歩いて10分ほどのところに金剛宝寺(紀三井寺)はありました。朱塗の楼門をくぐって境内に入ると、230段ほどの急な石段がお出迎えです。その石段を一歩一歩踏みしめながら登っていくと、和歌の浦を一望できる境内に到着します。室町時代や安土桃山時代に建立された建物が立ち並ぶ奥に、立派な本堂がありました。お参りした後、真向いの新仏殿にいらっしゃる日本最大の大千手十一面観世音菩薩(高さ12m:平成20年開眼)にお会いすることができました。
 次は粉河駅へと向かいます。紀三井寺駅を出発し和歌山駅での乗り換え時間を含めておよそ1時間。駅前から通じる門前町通り(でも人影がない)を歩いて15分、朱塗りの大楼門がお出迎えです。さらに進むと紀州徳川10代藩主・治宝直筆の扁額(風猛山)を掲げる中門が現われ、その先にそれは見事な本堂がありました。
 豊臣秀吉の焼き討ちにあい全山焼失のあと江戸時代に再建されたという歴史をもつお寺でした。あいにくご本尊をまじかに見ることはできませんでしたが、帰りがけ丈六堂内に安置されている阿弥陀如来像にお目にかかりました。風雪に耐えて鎮座するお姿にしばし見とれてしまいました。
 初夏の紀州路、久しぶりの古寺巡りでした。お天気にも恵まれ、千数百年という長い年月を経て今もなお庶民の信仰を集める古寺の風情を心ゆくまで堪能しました。宗教心に乏しい私ですが、仏様のお姿を前に身も心も洗われる思いがいたしました。

 さあて、明日は事務所にご出勤です。来週から再開する講座の準備です。いったん緩んだ緊張感を元に戻すのは大変ですが、徐々に軌道修正をしていくことにいたしましょう。

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