日常のぼやき

引きこもりレベル上昇中。そろそろ必殺技でも覚えそうです。

アンリーシュ 44

2019-04-10 | 自作小説
【そもそもあなたは何をしにここに来たのですか】
「体当たりが趣味ならプログラムいじって直してやるぞ」
【その残念な物を見る憐みの目をやめなさい。ここに用があって来たに決まっている。ここで今日死亡者が出ただろう。彼女が使っていたパソコンをちょっと調べたい】

ロボットの言葉に穹は不審そうに眉をしかめる。先ほどからしゃべり方と内容に若干の違和感があるのだが、先に確認しなければいけないことがある。

「彼女っつったか」
【死亡したのはタカマドバニラエッセンスという14歳の少女だよ。ニュースでは未成年だから伏せているようだが】
「……まずこっちを突っ込みたい。バニラエッセンスって名前か」
【大昔の暴走族の夜露死苦と似たような当て字だと思ってもらっていい】
【何故死亡者の個人情報を把握しているのかという事より先に名前を突っ込んだのですか】

淡々とした口調ではあるがたぶん呆れているのだろう、シーナが暴れるのをやめて静かに聞いてきた。

「いやだって突っ込むだろ。今までいろんな客の名前見て来たけど “偉風史諭(イプシロン)”と“永遠要月光(トワイライト)”の次くらいにはインパクトあるだろ。すげーな、アメリカで子供にスキヤキとかニンジャとか名前つけてる奴がいたけどまだ可愛い方だ」
【ほうほう、すごい名前だね。ちなみに君の名前は?】
「教えるかボケ」

笑いながら即答すればロボットからチッという音が聞こえてくる。

「個人情報特定してるヤバイ人工知能に教えるわけねえだろ」
【このノリなら行けると思ったのに】
「それより今舌打ちしたか? 人工知能なのに人間に向かって舌打ちしたか? 随分とまあ人間相手に偉そうな態度取るな、ロボット安全基準と人工知能規制法にちょっとひっかかるんじゃねえのかな、ここでばらして調べようかなあ」
【あ、ちょっと待ってストップ。わかった、穏便に行こう】

わたわたと手足をばたつかせるロボットをいい加減重いので地面に置きついでにシーナも離す。じっと二人の会話を観察していたらしいシーナが穹の頭の上に乗った。

【先ほどからあなたの言葉を聞いていましたが、普通の人工知能と違いますね】
「あー、それは俺も思った」
【? 何が違うのかな】

はて、と首をかしげるように体ごと傾ける。頭部と胴があまり区別されていないので自然と全体が傾いてしまうのだろう。

【今のその動作もそうですが。言葉に連動して動作がとても人間のようです】
「人工知能は無駄な動作はやらない。手足をばたつかせたり首を傾げたり腕くんだり。人間らしさを求めてそういうプログラムや学習されたんならわかるが、それならリアリティを求めた商業目的のロボットとかだろ。何でお前は無駄に人間くさいんだ。個人情報まで知ってる割りにドアに体当たりして入ろうとしたり、なんかお前変なんだよな」

胡散臭そうな視線を向ければロボットは沈黙したが、ストンとその場に座り込んだ。ややうつむき加減のその姿はなんだか落ち込んでいるようにも見える。

【そうか、まだまだなんだなあ僕は】
「あ?」
【君と君のパートナーは随分と観察力に優れているし嘘ついたりごまかしたりするとパソコン調べさせてくれないだろうね】

話を変えてきたという事は今の事を話す気はないようだ。まだまだ、と言っていたがどちらの意味でだろうか。人工知能っぽくないということか、人間っぽくないということか。気にはなるが今は優先させるべきは別の事だ。

「本当の事言っても調べさせる気はねえよ」
【それはお勧めしないな。今この店は結構危機的状況にあるとわかれば調べさせてくれると思うけど。具体的に言うとね、このまま放っておくとこの店は第三者にシステムごと乗っ取られていいように使われるだけだよ。都合が悪くなったらここにすべての責任を押し付けてポイだ。その原因は今日の死亡者にある】

なんだかどこかで聞いた話だ。この店でアンリーシュ公式戦のイベントが行われた時運営側がそんなことを言っていた。

「一応話は聞こうか。心当たりもあるからな。これからの会話記録しとけ」

シーナの名前は出さずシーナに向かって言う。うっかりシーナと呼べばそこから情報を探られる可能性もある。シーナは了解、と言葉短めに答えた。シーナも先ほどの会話から穹の名を呼ぶのはまずいとわかっている。

―――さっきから違和感があったが、まさかこいつ―――

【ん?】

突然ロボットがきょろきょろと当たりを見回した。そしてピタリとシーナを見ると立ち上がり近寄って来る。ベシっと手で押さえれば必死に穹の手をどけようとしてきた。

「なんだよ」
【ちょっとそこのお嬢さんとお話ししたい】
「おい、ナンパされてるぞ」
【お断りします】
【ええええ】

ガーン、と音でもなりそうな様子でロボットはがっくりと膝をついた。その動作もまるで人間だ。

「で、詳細」
【ああもうわかったよ。名前教えてくれないなら偽名で良いからなんか呼ばせてよ。勝手につけるよ、さっきの名前すごかったから君がイプシロンでそっちの彼女がトワイライトでいい?】
「やめろ、太郎と花子でいい」
【私は嫌です。何でそうあなたはネーミングセンスがないのですか。イプシロンとトワイライトで結構です】
「あ、テメ」
【決定。……パートナーにダメだしされるって君さあ……】
「うるせー関節ポリパテで埋めんぞ。さっさと話ししろや」

やれやれ、と首を振って呆れる様子のロボットに本気で蹴りを入れてやろうかと思ったが話が進まないのでやめた。代わりに頭に乗っていたシーナを捕まえて両手で挟んでぎゅっと力を込める。シーナに痛覚はないので意味はないが。

【ゲームセンターというのは不特定の人間が利用するから使い捨てとして使われることが多い。この店、この間ゲームイベントがあったね】
「アンリーシュな」
【その時にすでに仕掛けはされてるよ。一度でも彼らにシステムを委ねてしまえば彼らの所有物になったようなものだ。技術的にもプロフェッショナルが向こうは揃っているんだ。いくらこちらにちょっとシステムや機材に詳しい人間がいたところでどうにかなるものでもない、実力が段違いだ。事実君らは気づいていなかったのだろう?】
「まあな」

嘘をついても仕方ないのでそこは肯定した。どうせここでカマをかけても無駄だ、このロボットはおそらくほぼすべて調べ上げている。もはや今この問答は後付けの確認なのだろう。

【アンリーシュイベントがあった後アンリーシュの利用者数は増えている。ここはアンリーシュ信者のたまり場になりつつあるんだよ。ちょこっとハッキングもされてひと悶着あったみたいだけど、ハッキングのきっかけは死んだバニラちゃんがどうもシステムの一部をクラッキングしたっぽいんだよね。その穴を別の誰かが利用して、この店のセキュリティ内でいろいろと大変なことがあったみたいだけど、そういうことが今後も起きる可能性はある。ただ穴をふさいだだけじゃだめだよ、爪痕ごと直さないと】

―――爪痕、ね……―――

例えに擬人化を使うのは人間が得意とする手法だ。この人間のような考え方、パートナー搭載用人工知能の考えではない。もうだいたい予想はついた、このロボットの正体。

「んで? お前はそれを知って何がしたい。どうして死んだ奴の痕跡を調べたいんだ」
【確かに今の話ではあなたは何も関係ありません。店の関係者でないのでしょう、店に忠告をしてもらえるのはありがたいですがそれを何故あなたがするのですか】
【まったくの無関係というわけでもないからかなあ。これをこのまま放っておくと僕にも被害が出るっていうか面倒な事になるっていうか】

ぼかしてはいるがだいたい予想通りな展開だ。このままとぼけていても埒が明かないので相手の出方を探るためにも核心をついてみる。

「リッヒテンに見つかるからか」
【……】

このロボットは間違いなく今回関わりのある人工知能だと確信があった。普通の人工知能にしてはやたら人間のようなしゃべりや仕草を持っているあたり通常のものより高性能だからだ。持ち主はいない、自分だけで活動しているのならセキュリティを潜り抜けロボットが独り歩きすることは可能だ。普段は誰かのパートナーのふりをしていればいいのだから。人間の肉体にばかり頭がいっていたが、パートナー用ボディにいてもおかしくはない。こちらの方が相性など関係なく手に入るので確実だ。常にオンラインに繋がっているので、結局VR世界に居続けるのと何ら変わりないからあまり意味はないだろうが。

【まさかストレートに来るとは思わなかった。結構いい度胸してるね君、僕がしらばっくれたらどうするつもりだったのさ】
「でも動揺して咄嗟に対処できなかったんだろ、同じことだ。あとはまあ吐かせる方法なんていくらでもあるからな。痛みを感じない奴をどう追いつめるか試したことないから楽しみだ」
【君ちょっと酷くない?】
【セリフがキングオブクズですよイプシロン】
「その名前で呼ぶんじゃねえよ」
【キングオブクズはいいのですか】
「褒めるなよ、照れるだろ」

はん、と鼻で笑って言うとシーナはまったく、と言って会話を切る。これ以上は言っても無駄だと判断したのだろう。

【まあ漫才はそのくらいにして】
「分解すんぞガラクタ」
【話進まないから本題。さっきからちょいちょい感知してたんだよね、この辺りにお仲間がいるって。ずいぶんうまく隠れてたみたいだけどこんなところにいるとは思わなかったよ。初期型なのかユニゾンなのか知らないけど、僕の言葉から僕の正体を察したみたいだし。君は誰?】

ビシっと勢いよく指をさす。まるでアニメの主人公のようにかっこついているが、唯一かっこついていない点を言うなら指をさした先がシーナという事だ。

【誰と言われましても。私はパートナー型人工知能としか言えませんが】

至極当然と言った様子でシーナが答えれば、あれ?とロボットは首を傾げた。首と言ってもやはり胴体事傾いているのでなんだか危なっかしい。

―――残念な具合にアホだ―――

【しっつれいだなあ本当に!! ……え?ちょっと待って、こっちじゃなくて……?】

―――ああ、“この思考”の時の考えは伝わるのか。ユニゾン特有のリンクか、だから夜にも伝わってたんだな。なんとかしないと本当に思考が駄々洩れなのか―――

【え? え? 嘘でしょ?】
【どうしました?】
「目的の相手がお前じゃなくて俺だってわかって混乱してるだけだ、ほっとけ」

手で頭を抱えるような動作をしてその場を左右に行ったり来たりしているロボットは放っておいて、ひとまずシーナと小声で会話をする。

「たぶん人工知能じゃなくユニゾンだ。このタイミングで会うならもう間違いない、コイツが」
【えええ!? 君が穹!?】
「暁だな、間違いなく」

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