日常のぼやき

引きこもりレベル上昇中。そろそろ必殺技でも覚えそうです。

雪鬼 12

2016-02-29 | 自作小説
それからすぐに警察が来た。停電の影響で大混乱となったがようやくこの宿に来てくれたのだ。しかも大量に人が死んでいて、俺たちはしばらく事情聴取で警察署にいた。もちろん根津の事を正直に話すわけにはいかないから、頭のイカレた殺人鬼が今もうろついていると脅えながら・・・演技だが、恐怖で冷静な判断ができていない様子を見せれば警察の人からやや同情したような目を向けられた。見つからなかった旅館の人はすべて庭園の一角に隠されていたらしい。どの人も滅茶苦茶な格好、おそらく体が五体満足ではなかったのだろう、凍って死んでいたそうだ。
警察も要領を得ない俺たちの話に困り、どうしようかという雰囲気を見せ始めた頃突然釈放された。1日ぶりに会った赤星と津田を見て、俺は情けない事にその場で泣き崩れた。安心したのだ。昔のこともようやく乗り越えた。二人はからかうこともなくよく頑張ったと声をかけてくれた。
終わった、本当に終わったのだ。

荷物をまとめて俺たちは帰った。警察から柚木たちの家族には連絡が行っていて、一体何があったのかと家族からまくし立てられたが警察に言ったことと同じ事を言うしかなかった。娘を失った親達は犯人を憎むしかないが、すぐ傍にのうのうと生きて帰ってきた奴らがいるのが許せず時々激しく罵倒を受けた。
結局自宅にまで電話を何度もしてきたことで両親にも事情がわかり、やっと俺が当事の事を忘れていたのに蒸し返すのかと怒って警察と弁護士に相談をして対応してくれた。親にも、本当の事は話せなかった。言っても理解できる事ではないだろうし、人が死んだのにトラウマを乗り越えたなどと言う気にもならなかった。その対応のおかげだろう、熊崎家と柚木家からの干渉はピタリと止まった。
そうした中、驚いたことに濱田の親から連絡があった。

「娘が、貴方に会いたいと言っています」

濱田は生きていた。腕をもがれてガラスに叩きつけられた状態だったが、すぐに救急車で運ばれたおかげだった。病院も自家発電があるので手術は成功していたのだ。ただ、ずっと意識不明だったらしい。
濱田本人からの頼みは一つ、この事を誰にも言わずにすぐに一人で病院に来てほしいということだった。ただ、娘はまだ錯乱気味だから落ち着いたら頃合を見計らって連絡をするので少し待って欲しいというのが濱田の母親の願いだった。俺はそれを承諾した。
何故濱田が俺一人に来て欲しいと言ったのかは予想がつく。根津の最後の言葉を聞いていたのだろう。出血多量で意識が朦朧としていたが、あの場にいた濱田も聞こえていたのだ根津の言葉が。その事で俺にどういうことだ、と聞きたいに違いない。

ピンポン、とドアチャイムが鳴った。大学に行く為に一人暮らしをしている俺はアパートに住んでいる。おおっぴらに助かったお祝いをできないから、でもやはり生きて帰れた喜びをぱーっと分かち合いたいと赤星と津田をアパートに呼んでいるのだ。

「おお~い、マッキー開けてくれー!買い込みすぎて両手塞がってる!超重い!」

ドア越しに叫ぶ津田。うるせーよと赤星の声が聞こえ、続いてお前が買いすぎたせいだという会話が聞こえて来る。俺はおかしくて笑った。赤星は買い物がなかなかダイナミックで目に付いたものから買っていく。どうせ目一杯買ってしまって二人仲良く大荷物を持っているに違いない。ドアチャイムを津田が足で鳴らすのはいつものことだ。

「今開ける、ちょい待ち」

開けると赤星と津田がとても3人分とは思えない量の菓子やらなんやら抱え込んでて俺は思わず「うわあ」と言っていた。二人から持てるだけの荷物を受け取り部屋の中へと運んだ。

「どんだけ買ったんだよ」
「赤星が悪い!」
「うるさい。最終的には全部なくなるだろいつも」

割とジャンクフードが好きな3人だ、確かにあっという間になくなる。荷物を受け取りわくわくする津田と荷物を置くだけ置くと勝手にくつろいでいる赤星に俺はちょっといいかと声をかけた。

「?どうした??」

誰にも言うな、と濱田は言っていたがこいつらだって当事者なんだし、皆で見舞いには行きたい。津田は微妙だな、あれだけまくしたてて責めてたから濱田も会いたくないかもしれない。赤星とだけ行こうかな。

「や、実はさ。濱田生きてたんだよ。警察からはその辺説明されなかったからてっきり助からなかったと思ってた」
「え・・・」
「・・・そうだったのか」

津田と赤星が眼を見開いた。それはそうだろう、あの時の濱田は完全に致命傷だ。投げ込まれた時点で死んでいると思うのが普通だ。

「で、俺に来て欲しいって言ってるって濱田の親から電話があった。まだ混乱してるから来てほしいタイミングは電話するって言ってた」
「あー、うん、そうだな。大事なことだもんな・・・」

やや複雑そうな津田が目をそらす。自分でもいいすぎたという自覚があるのだろう。津田はすぐにニカっと笑う。

「でもよかった。生きてたんだな」
「そうだな・・・友達も失って腕もないからこれから大変だろうけど、俺たちで支えられればいいな」
「マッキーは優しいなあ」

へらっと笑う津田も十分優しい。脇にいた赤星が不思議そうに俺に聞いてきた。

「何でお前にだけ来て欲しいんだ、あいつ」
「あ、そうだよな。俺はともかく頼りになった赤星くらい誘えっての」

二人の疑問ももっともだ。この二人は根津の言葉を聞いていないのだから。

「ああ、それはたぶん根津の最後の言葉だ。俺と、あの場で倒れてた濱田には聞こえたんだ。それについて話したいんだと思う」
「へえ、何て言ったんだ?」
「ああ・・・」


―僕はねえ、熊崎ちゃんのこと殺してないよ―


「どう考えたってあいつだろ、あんな人間離れした死に方したんだぞ」

俺のやや怒りをこめた声に二人は静かに頷いた。

「最後の最後までマッキーにトラウマ残そうとしたんだなあいつ。性格悪すぎ」
「気にするな牧瀬、死ぬ寸前で何かやらないと気がすまなかったんだろう」

俺も二人の言葉に静かに頷く。一体何の悪あがきだったのか、理解したくないしあいつは死んだからどうでもいい。もう終わったことだ、考えたくない。

「濱田の病院ってどこだ?」

津田が聞いてくるので俺は教えてもらった病院名を告げた。それを聞いて赤星はああ、と何かを思い出したように言う。

「そこなら今俺のじいさんが入院中だ。病人のくせして見舞いに来いってうるせーから明後日行こうかと思ってたけど、だったらついでに濱田の様子見てくる」
「え、俺も行く」
「牧瀬が行くのは俺のあとにしてくれ。当事者同士が話すともめるし、ただでさえ濱田はお前に後ろめたさがあるんだ。冷静に話しできるとは思えない。津田は噛み付いたからアウト、俺しかいない」
「うぐぅ・・・まあそうなんだけどさあ・・・」

ぼそぼそと小さく津田が反論する。そういやこいつは俺の為に本気で怒ってくれたんだった。ありがとうと言いたいが、濱田があんな状態になったきっかけでもあるのでストレートに言うのはなんだか気が引ける。俺はぐっちゃぐっちゃに津田の髪をかき混ぜた。

「ぎゃー!やめろおおおセットが崩れるうううう」
「どうせ飲み食いして騒いだら寝汚くなるんだから気にすんな」

そうやってじゃれ合い始めると赤星はコンロ貸せといって簡単な料理を始めた。赤星は飲み屋でバイトしているのでつまみメニューが結構美味い。
アルコールはまあ、なんだ。俺ら未成年だけどな、ほら、盛り上がらないから。大丈夫、3%だから。

そうやって思いっきり騒いで良い感じにまどろんできた頃、赤星と津田が楽しそうに笑う。津田はともかく赤星の笑顔なんてレア中のレアだ、明日槍でも降るんじゃないか。

「誰が槍を降らせる男だこら」

あ、口に出してた。

「なあ、あんなことあったけどさ。また、スキー行こうな」

津田の言葉に俺は笑顔で頷く。本当に、こいつら二人がいてくれて良かった。






●被害者の一人 熊崎雪魅(くまざきゆきみ)の持ち物から出てきた資料のコピー。後にとある市役所に保管されている文献の内容と一致。

雪鬼
本来は人を守る精霊として言い伝えれられていた。雪の日に訪ねてきたら食べ物を与え招き入れる。玄関で光や火は使わないこと。丁重にもてなし仲良くなると一冬守ってくれる。しかし雪鬼が嫌いな事をしたり機嫌を損ねると連れ去られてしまうという。

雪鬼が人を守ってくれるようになるもてなし方は以下の通り。なお、順番は関係ないが風呂に入るには家に入る必要があるので食べ物か家に招き入れる事が最初だとされている
・人間から食べ物を与えると雪鬼は人間と同じものを食べるようになる
・人間の家に招き入れ扉をしっかり閉めると人間と同じ生活ができるようになる
・人間と同じ風呂に入ると光、火、その他温度の高い物は弱点ではなくなる

春になったら柊を玄関に置き、人の入った風呂の残り湯を玄関(雪鬼が最初に家に入ってきた場所)を清める。これでも帰らない場合は柊を包んだ雪玉を当てて家から出す。柊入りの雪玉をぶつけた場合、その雪鬼は二度とその家に近づかない。
雪鬼が家にいる間(お帰り頂いていない間)は外に出てはいけない。外に出ると連れて行かれてしまう。
連れて行く理由はいくつか説があるものの、仲間にする為と言われている





「のみすぎた」

「俺も」

「同じく」

「こんな見間違いをするなんておかしい。そうとう酔ってる」

「どんな見間違い?」

「目が、赤い。お前の目」

「へえ?」

「これじゃあまるで、まるで・・・」

「まるで、あれみたい?」

「うん、そう。あれ」



雪鬼みたいだ。




END



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これにて雪鬼は終了となります。
予定より長くなりダラダラ続きましたがお付き合いありがとうございました。
後日作中でかけなかった設定をすべて公開します。実はいろいろと設定を考えていました。
果たして最後の会話は誰の目が赤くて、誰が言ったセリフなのかを予想してからご覧下さい。

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2 コメント

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えっ赤星・・・さん?かな。 (きの)
2016-02-29 19:01:37
 名前からではなくて。
といっても論理的な根拠があるわけでもなく、いつもミステリー読む時は 「なぜこの人がここに?」 という直感でだいたい犯人を予想しています。
急に病院におじいちゃんがと言い出した時に、ふと違和感を覚えました。濱田さんあぶないと思って。

 マッキ―さんだったら面白いけど、柊握ってたし。自分で自分の弱点を探る敵ってのも。
いつ成り代わったのかにもよるのでしょうけれど。

 それにしても熊崎ちゃん死んでしまうとは。良い子さんは生き残ると思ってたら、ズバァァ!ひぇぇぇってなった。

 人の恨みも怖いけど、今回の雪への無力感や理不尽さとか、自然の圧倒的なパワーというものも充分に恐怖の対象たりえるというか。
けど、怖いけれども綺麗なお話でしたね。雪は寒いけど、研ぎ澄まされていて、そこに昔からの伝説が加わるとなれば、何をどうしてもつい読んでしまいます。
Unknown (KAZA)
2016-02-29 20:53:03
きのさん
コメントありがとうございます。
設定はすぐに公開しますので最後の締めくくりとしてご覧下さい。
ただ、設定見ると各キャラへの印象が結構変わると思います。蛇足だなあと思ったらすみません。

今回書きたかったのは人間はどこまでも無力でしかないという点です。
最近のいろんな作品も、自分の作品も割りと主人公が無双してる設定が多いので
本来人間ってこんなだよねって事で書きました。
自然、驚異、圧倒的なものに対してできることは些細な事です。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

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