日常のぼやき

引きこもりレベル上昇中。そろそろ必殺技でも覚えそうです。

カミカツギの夜T-4

2014-01-09 | 自作小説
「人間の殻をかぶって生まれてくる神はとても不安定でね、子供のうちにあっという間に人間に感化されてしまって本来の姿に孵る事ができない。そうやって過去何度も『誕生』に失敗してきた。彼女は絶対に成功させる為にあらゆる策を練ったんだろう。貧しい生活も、当たり前に手に入らない幸せも、そう簡単には『人間らしさ』を味わわせない為の策の一つだろうね」

まるで今までの自分の生活を見てきたかのような口調だったが、もはやそれには興味がわかなかった。
そこまで聞いて、ようやくすっきりした。我が母ながら天晴れとしか言いようがない。自分は母の策略の通りまんまと望む形となってこの神社にやってきた。
腰に巻きついていた篝の腕を外し、立ち上がる。篝も同じように立ち上がり、二人は向きあった。

「では改めて聞かせてもらおうか、お前の真名を」




「私は、『祇緒(しお)』」




その名を口にした途端、台風のように激しい衝撃が神社全体を襲った。ゴウ、という低い音と共に本殿が、拝殿が、祭り会場が大きく震え、神の使いたちは全身に電流が走ったかのような衝撃を受ける。
外部から来た一般客は何も気づく事がなく、地元住民だけが全身に鉛を乗せられたかのような重みを感じ息が詰まった。しかしそれは本当に一瞬の事で、それが収まると何事もなかったかのように振舞い始めた。
しかし皆が感じ取った、待ち望んだ気配。まだ完全に現れてはいない、卵のような状態だがそれでもこの時を、何百年待っただろうか。
神の使いたちは全員気分が高揚し、その足取りは軽くなる。これから始まる祭りの準備をしていた使いたちは盛り上がりながら準備を急ぎ始めた。興奮した様子でこの後の祭りをどう盛り上げるか語り合う者、永遠とも思える時を待ち続け、ついにこの瞬間を迎える事が出来て泣き出す者、使いの者達も反応は様々だ。

本殿の中には実際に風が吹き荒れ、飾ってあった装飾が吹き飛びあちこちに散らばっている。それを気にした様子もなく、篝は上機嫌に声をかけた。

「碑乃(ヒノ)、銅那(アカナ)」

名を呼ぶと先ほどの巫女二人が入ってくる。先ほどと違い、よろよろとおぼつかない足取りだ。先ほどの衝撃からまだ回復していないらしい。

「祭りが始まるまでまだ時間がある。それまで好きにしていいよ」

そう言うと篝は部屋を出て行った。そういえば先ほど言芭が、柊を篝に任せるとか言っていた。その柊というのを探しに行ったのかもしれない。
崩れ落ちそうな二人は、そわそわとした様子で祇緒が何か言うのを待っているようだった。

「私はどうすればいい」

問えば碑乃は酔いしれたようにしなやかに

「いえ、あの、お好きなように・・・」

と呟き、逆に銅那は興奮した様子で

「何でもおっしゃってください、何でもなさってください、貴方様の望むがままに!」

と胸の前で祈りを捧げるかのように手を組んでいる。二人とも息が荒い。

「そう・・・そうだね、じゃあ、そうだなあ・・・」

わずかに思案をし、ひたり、と二人を見据える。二人を見つめて沸き起こったのはある欲求だ。見つめられた二人は金縛りにかかったかのように動かなくなり、じっと息を殺して次の言葉を待っていた。

「碑乃」
「は、はい」
「・・・おいで」

手招きをすれば、碑乃は操り人形のようにフラフラと祇緒に近づいた。祇緒の前で膝をつき、彼女よりも低い位置に体が来るようにする。
碑乃の顔に手を伸ばし、面を触ると強引に引っ張り紐を引きちぎる。面を取られた瞬間碑乃は小さく悲鳴のような声を漏らしたが、現れた顔は恍惚としていた。
そっと顔に触れれば、トロンとした目つきとなり瞳が潤む。その姿がなんだか欲情しているようにも見えて、不思議な気分になった。年上の女に欲情されても正直困る。
触れていた頬からすぅっと首筋に手を持ってくる。少しだけ力をこめると、苦しげに眉根を寄せるものの抵抗する様子はない。首から手を離し、再び顔に触れた。本当に、「これら」は自分には逆らわないんだな・・・そんな事をボンヤリと考えた。
親指で唇をなぞれば、はぁ、と吐息が漏れた。静かに見下ろし、おもむろに自らの唇をそこへ重ねる。

男女が行えば愛を交わす場面なのだろうが、無論そんな目的で行ったのではない。口内を通じ、碑乃の力・・・神の使いとしての人ならざる力を吸い取っていく。碑乃の体はびくびくと震え、それでも抵抗する事無く祇緒にされるがままだ。
口を離すとそのまま碑乃は崩れ落ちた。息がか細いが、かろうじて生きていた。あのまま吸い続けていたら消えていたかもしれない。
碑乃から得た力はわずかだ。この程度では足りない、全く足りない。

静かに銅那に目を移すと自ら祇緒の前に跪く。彼女にも手を伸ばして、碑乃と同じように面を剥ぎ取った。面を取ると銅那もまた小さく悲鳴を上げる。しかしその表情はやはり同じ、欲情しているかのような悩ましい顔だ。頬に触れ輪郭をなぞると吐息が漏れる。そのまま首筋まで指が移動し、着物の襟まで来て止まった。
すると銅那はハッとした様子でもどかしそうに襟を広げ、肩まで大きく肌蹴る。
祇緒はゆっくりと銅那の首筋へと近づき、ペロリと舐めた。銅那の体がビクッと大きく撥ね、喉の奥から小さく声が漏れる。
そしてそのまま。

銅那の首へと噛み付いた。

頚動脈が切れてびしゃっと祇緒の顔に鮮血が飛び、辺りにどくどくと血が溢れ出る。銅那の顔は見えないが、恐怖や苦痛といった雰囲気は感じなかった。耳元に届く小さな声は、まるでこうされる事を喜んでいるかのように聞こえる。
溢れ出る血をなるべくこぼさないように飲み続ける。先ほどの碑乃のやり方ではいまいち力が吸えなかったので、直接呑む事にしたのだ。
すると先ほどよりはいくらかマシ程度に力を取り込んでいく。このままずっと呑み続ければ、祭りまではもつかもしれない。名を篝に告げた瞬間から、欲しくて欲しくてたまらないのだ。

ごくごくと飲み干していると、ふいに後ろから腕を掴まれ引き離される。祇緒から開放された銅那はその場に仰向けで倒れ、小さな血だまりを作った。ピクリとも動かないが、瞬きをしているので死んではいないようだ。床には溢れ出た血が溜まり、普通の人間だったら致死量だろう。
後ろを振り向くと、腕を掴んだのは言芭だった。

「それ以上は駄目だ。その子らは鳥居の守護者、いなくなると困る」

鳥居・・・神社に入るときにあったあの大きな鳥居の事か。守護者の意味がよくわからないが、このまま吸い尽くしてしまうのは良くないらしい。

「篝め・・・」

言芭は忌々しそうに呟くと、碑乃と銅那に近づいた。二人の帯を掴むとそのままずるずると引きずり、部屋の外へと出す。そして部屋の中へと戻り、扉を閉めた。
その一連を見ていた祇緒はじっと言芭を見つめ続ける。視線や気配を敏感に感じ取る言芭にとっては全身が焼き切れそうなほど、その視線は痛い。
祇緒は無表情のまま何も言わない。しかしその目は確実に言芭を捕らえていた。彼女が何を求めているのか、先ほどの行為を見ればわかる。
祇緒に近づき、自ら面を取った。祇緒は言芭の着ている物の結び目に手を伸ばし、そのまま引きちぎる。対して力はこめていないのに、まるで紙切れのようにあっさり切れた。肌蹴た部分へと手を伸ばし、肌に触れる。そこは、人間で言うところの心臓の真上。触れられた瞬間言芭は目を閉じる。

血しぶきがあがり、天井まで真っ赤に染まった。

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