日常のぼやき

引きこもりレベル上昇中。そろそろ必殺技でも覚えそうです。

カミカツギ その後1

2014-01-25 | 自作小説
「にゃあ」

「・・・お?」
ボンヤリと日向ぼっこをしていた胡蝶は聞きなれないものに辺りを見回す。
するとどこからか四本足の生き物が出てきた。三角形の耳が頭頂部から生えていて、柔らかい毛質、そして長い尻尾。

(これは知ってる、確か「ネコ」だ!)

興味津々に近寄る。胡蝶は生まれてからまだ一度も神社の外へ出た事がない。鳥居が開かれる前は、虫や鳥は来るもののその他の獣は入ってこなかった為、生き物をあまり知らないのだ。
しかし先日、橙芽(とうが)が猫を飼い始め、その姿を一度見たことはある。珍しい物を手に入れた橙芽が羨ましく、猫に興味がわいた胡蝶にとってこれはチャンスだった。
じっと観察していると、ペロペロと手(前足)を舐め始め、やがて体を舐め始める。鳥の羽の手入れとは違うその動きにしばらく釘付けとなった。ほくほくと温かい気持ちで見ていると、次の瞬間・・・


だだだだっ という大きな音と共に本殿に駆け込んできたのは、この神社一騒がしい胡蝶だった。見た目は十代半ば、つまり祇緒と同じくらいの年に見えるのだが中身は小学生程の子供だ。神の使いとしては赤ちゃんに等しいと以前丹弧も言っていた。
祇緒が風に当たりながら風鈴の音を聞いているというのにこの騒音。その場にいた丹弧の額に青筋が浮かぶ。

「あンの馬鹿・・・」
「どうせ篝だろ」

丹弧と花札をしていた柊は興味もなさそうに静かに呟いた。だいたいああいう様子で駆けまわっている時は篝から何かされた時だ。
外から大きく中に飛び込み、手すりを越え部屋の中に着地する。しっかり雪駄を脱いでいるあたりは、以前土足で入って丹弧に踵落としを喰らったので懲りたようだ。

「あんたは、もう・・・」

篝に遊ばれたのなら同情するしかないので注意はしづらいが、祇緒の前での無礼はいただけない。それを一言注意しようとした丹弧に、胡蝶は焦った様子で叫ぶ。

「猫って爆発するのか!?」
「・・・は?」
「猫って爆発するのか!?」

思わず聞き返した丹弧に、胡蝶は同じ言葉をまくし立てた。一瞬意味が理解できず首をかしげた丹弧だったが、手を止めた柊が顔を向ける。

「何があったか説明しろ。猫は爆発しない」
「そうだよな、しないよな!?でもしたんだよ、目の前でパーンって!びっくりした!」
「え、ええ?猫が弾けたの?アンタ何もしてないでしょうね?」

神の使い達は人間にない力を持っている。その力が強ければ、手を触れず相手をはじけさせる事もできる・・・かもしれない。丹弧も柊もできないが。

「胡蝶にそんな力まだないだろ」
「そっか、そうだよね・・・」

丹弧は胡蝶に近づいてよく見てみた。すると確かに着ていた着物に赤い染みが広がっている。ぱっと見ただけではそういう模様にも見えるが、鋭い嗅覚が血のにおいを確かに嗅ぎ取った。

「その猫なんか変じゃなかった?」
「別に変じゃないぞ。橙芽の猫と違って紙風船みたいにまん丸だったけど」
「・・・」

その言葉に思わず丹弧も柊も黙り込む。

「え、今なんて?」
「だから、橙芽のと違って紙風船みたいにまん丸だっただけで変じゃ」
「「十分変だ」」

丹弧と柊の声が重なる。丹弧に至っては声が震えており、笑いをこらえているのか、怒りをこらえているのかよくわからない。しかし胡蝶は猫を見たのが今回でまだ2回目、加えてとんでもない世間知らずだ。そういう猫もいるのかと思ってしまっても仕方ない。さすがに爆発するのはおかしいと思ってくれたようだが。

「なんだったんだあの猫、いきなり体がぶくぶくって大きくなって・・・」
「胡蝶」

まだ興奮冷めやらぬ様子の胡蝶に、それまで黙っていた祇緒が名前を呼んだ。その瞬間胡蝶はピシリと姿勢を正し、祇緒の方を向く。いまだに祇緒にはどう接していいのかわからないらしく、普通の状態と礼儀正しい状態がごちゃ混ぜだ。
祇緒はそんな胡蝶を注意する事もなく、静かに近寄ってきた。胡蝶の前に来るとじっと見つめ、目を細める。その様子を緊張したように固唾を呑んで、祇緒の次の言葉を待っている時だった。
ふいに祇緒が胡蝶の顔に手を伸ばす。面を少しだけずらし、口元をあらわにさせると胡蝶の頭を自分に引き寄せる。
そして、己の唇を胡蝶の唇へと重ねた。祇緒がこれを行う場合は性的な意味などなく、力を与えるか吸う時だけだ。わかっていても年頃の男女が行うそれはあまりにも絵になっていて、胡蝶に至っては祇緒に初めて触れられたことに緊張が頂点になっており石造のように動かない。なんだか初々しい絵図に見える。

そして、数秒間そうしていたが、突然胡蝶の体が大きく震えた。その様子に丹弧と柊は立ち上がり警戒する。今、胡蝶の体内に何か異質なものを感じるのだ。
胡蝶が口を離し、ゴポっという嘔吐のような音がした。すかさず祇緒が再び唇を重ねる。
がしゅ、っという硬いものを噛み潰す音がした。
祇緒が何かをかじったまま咥え、それを引っ張り出す。胡蝶の口からずるずると引き出されたそれは、長い虫のような爬虫類のような説明しがたい姿をしていた。

「が、ぁああっ」

胡蝶のうめき声と共に完全に引きずりだされ、その全容が明らかとなる。
頭部と思われるところは祇緒によってかじられておりわからないが、全長は1メートル程、背の部分と思われるところはうろこ状になっており蛇に見えなくもないが、虫のような足が大量に生えておりムカデにも見える。

「いっ!?」

思わず丹弧が声を上げる。ゲホゲホと咳き込んでいた胡蝶もそれを見てぎょっとした様子で数歩引いた。あまりにもグロテスクな姿のそれは、頭を噛み付かれているのが苦しいのか体をくねらせて抵抗する。
それが暴れるたびに部屋の中の装飾品に当たり周囲をめちゃくちゃにかき回し、必死に抜け出そうとしているようだった。祇緒の口内からはわずかにソレの悲鳴らしきかん高い鳴き声が聞こえてくる。

「あ、あああ主様!そんなの捨てて!ぺっしてぺっ!」

混乱した様子で、しかし祇緒の身を案じ一応丹弧が叫ぶが祇緒は気にした様子もない。

「ここではらひはら、あただれあにはいっれく」

かじりつきながらしゃべっているので言っている言葉はわからないものの、母音と状況から何となくわかり胡蝶と丹弧は背に冷たいものが走った。つまり、ここで祇緒がこれを開放すれば誰かの体に入り込んでしまう・・・という事だ。おろらく口から。

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