日常のぼやき

引きこもりレベル上昇中。そろそろ必殺技でも覚えそうです。

幽霊と探偵 手折れの島3

2016-07-24 | 自作小説
 青い海、青い空。水平線はどこまでも続き、空と海が混ざっているかのような光景に目を細める。

「キレイな所だな」
『・・・そうですね』
「白い砂浜、青い海。しかも透明度抜群だ。船着場あたりなんて海が透けて下の岩まではっきり見えてただろ。夏はさぞ海水浴日和だろうな。シュノーケリングとかスキューバとかやったら凄そうだな」
『・・・そうですね・・・』
「いやー来てヨカッタじゃねーか、気分転換になったな」
『ええ。まあ・・・』
 
 ゲッソリしたような一華の返答に中嶋は白々しく会話を続けた。空も海も美しい、それは間違いない。砂浜も良く管理されているらしく雑草もなければゴミ一つない。思わず写真を撮りたくなるような光景だ。
ただし、今写真を撮ったらとんでもない心霊写真ができあがる。

「いやー、すげえ数の手だな」

 半眼でボソっと呟く中嶋に一華は深い溜息をついた。
島に来るまでは普通だった。クルーザーなどという洒落たものはなく、魚釣り用の小さな漁船に乗せて貰い島に向ったのだが一華は大いにはしゃいだのだ。船に乗るのが初めてだったらしく目をきらきらさせていた。
 しかし島について船着場に足をついた瞬間、中嶋はとんでもない気配を感じて海を振り返った。
そこに見えたのは海から生える手。丁度肘から上の辺り、まるで溺れた人が助けを求めるかのように空に向けて手が突き出している。一本や二本ではない、数えるのが馬鹿馬鹿しいくらい無数にだ。例えるなら東京ドーム公演をするアーティストのライブで客が腕を振っている時に似ている。

『・・・なんか全部こっち向いてますね』

 一華の言うとおり、すべての手は掌がこちら側を向いている。去っていく船などまったく興味がないように無反応だ。掌がこちらを向いている、ということはその下にくっついている本体もすべてこちらを向いているという事だ。

「俺たちを見ているのか、島を見てるのか知らんが。俺たちが島についてから出てくるとかいい根性してるじゃねーか」
『これ、島出ようとしたら引っ張りこまれるとかですかねえ・・・』

 肉体を持つ中嶋が引っ張られれば溺死して彼らの仲間入り、幽霊である一華は普通に彼らの仲間入りだろう。何となく以前見た黒い塊を思い出し一華はウゲェと呟く。

「前向きに考えよう。あいつら船が渡ってる時はばれないようドキドキしながら引っ込んで待ってたとか、ちょっとキュンと来ないか」
『動機息切れって意味ですか、それとも普通にキレそうって意味ですか』
「後者に決まってんだろ」
『デスヨネー。前向きじゃないですよソレ』

 先ほどから目が全く笑っていない中嶋に一華も慣れたように相槌を打つ。一体どれだけの人間がここで命を落としたのかなど考えたくもない。島に来る前、海藤からこれに関わるような話が一つメールで来ていたのだ。

「どれ、水木さんに会いに行くか。ちびっと作戦変更な」
『嫌な予感しかしないんですけど』


 船着場のすぐ近くにある大きな別荘に水木は住んでいる。普段は夏くらいしか島には来ずに管理人が島の手入をして暮らしているらしいが、漁船の船長の話しでは今は水木の人間が数人滞在しているとの事だった。
 インターホンを押し出てきた相手に軽く自己紹介をすると、相手は家の中に招き入れてくれた。水木の人間に会ったらいきなり胸倉を掴んで檜氏の行方を吐かせる・・・と思っていた一華だったが、意外にも中嶋はごくごく普通に話を進めた。
 応対したのは水木樋(とい)という20歳前後といったところの青年だった。中嶋の事情説明にも真摯に耳を傾け、邪険にするでも追い返すでもない。檜氏の話をするとわずかに首をかしげ、心当たりがないという話をする。

「俺は両親に呼ばれて夕べ島に来てから今日で二日目ですが、この二日間家の者以外見ていません。両親と叔父達はもっと前から来ているので、そっちに聞いて見ましょう」
「島には今どなたがご滞在ですか」
「俺と両親、叔父夫婦、その子供で俺の従兄弟が二人の合計7人ですね。父と叔父は釣り、母とおばさんは散歩に行ってます。少々お待ち下さい。今この家には俺しかいないし、この島携帯が使えないので誰かが帰ってくるまで待ってるしかないです」

 申し訳なさそうに頭を下げる樋に中嶋はお構いなくとだけ返す。会話をした感じでは樋に怪しいところ、噓をついたりごまかしてる様子はない。邪魔者が他にいないのならここは適当に世間話をして情報を聞き出すべきだ。樋はコーヒーを入れながらそうだ、と中嶋に声をかける。

「先ほどのお話ですけど、できれば穏便に話をしてくれますか。ウチの親も叔父夫婦も気が強いというか、結構気が短いんです。人を犯罪者呼ばわりか、と騒ぎそうなので。失礼な事言ってきたら申し訳ないですが、あまり反論しないで欲しいんです。火に油注ぎそうなので・・・すみません」
「いえ、それが普通の反応でしょう。この状況では誰だって不快でしょうし、探偵など胡散臭いですからね。こちらも特に情報がなければ帰りますよ」

 ・・・あの海を帰れればな、と内心呟く。
親も親戚も気が短いと言う割りに樋はかなり穏やかで常識的な言動の人間だ。反面教師にでもなったのか、親のそういう姿を見て育ったので反論する気も起きない大人しい性格にでもなったのか。
会話の時にこっそり樋に憑依していた一華は中嶋の元に戻った。

『この人本当に何も知らないね。島に来てからもそうだけど、今まで檜さんに会ったことないみたい』

 ひとまず樋は白、という事だ。常識人のようだし、困った事があれば彼に相談するのもいいかもしれな い。ただし両親との板ばさみになるのは避けた方が良さそうだ、彼に迷惑をかける。

「そういえばこの島に来る前に島の伝説を聞きましたよ。立派な家柄なんですね」

 さりげなくそう聞けば、樋は小さく笑った。照れ笑いではない。苦笑と言うか自嘲というか、あまり言い意味での笑いではなさそうだ。

「あれですか・・・俺は詳しくは知りませんけど、たぶん誰かが適当に作ったんだと思いますよ。だって家にそういう記録とか全然残ってないんです。この島普段は父と叔父くらいしか来ませんし。あまり大事にしてきてませんからね、税金ばっかりかかってどう処理しようかっていつも話してました」
「大変なんですね」

 当たり障りのない会話をしながら一つだけ中嶋には引っかかった。大事にしていないのなら、何故急に伝説を作ったりしたのか。箔をつけて売りつけたいなら水木一族の逸話を入れるべきではない。神が住む島、いやそれでも買い手はつかないだろうから普通に自然豊かな島とでも言って置けばいいものを。
 他にもいろいろと話を聞いているとぞろぞろとまとめて水木の者が帰ってきた。樋の両親、叔父夫婦らしい中年の男女、そして若い男女。おそらく樋の従兄だろう、同じく20代程の青年と10代後半の女子だ。中嶋を見てあからさまに怪訝な表情を浮かべ、樋に説明を求める。
 樋がなるべく勘に触らない内容で説明するも、やはり樋の父は不愉快そうに顔を歪めそんな男は来ていないと言い捨てた。

「そうですか、まあ来ていないのなら仕方ありません。これでお暇しましょう」

 極上の笑顔でそう言うと中嶋は立ち上がる。一華は『帰っちゃうの?』と不思議そうにするが、それは樋も同じでそれだけで帰るのかと言いたげにきょとんとしていた。

「ああ、そうそう」

 帰り支度をしながら中嶋は笑顔のまま・・・かなり胡散臭い爽やかな笑顔のままこういった。

「実は私、ちょっと霊感がありましてね」
「・・・はあ?」

 その場にいた全員が呆けたリアクションをする。何だコイツは、ただの怪しい奴じゃないか?と不信感を抱かせたようだ。それでいい、成功だ。

「幽霊とか見たり聞こえたりするんですよ」
「はっ、だからなんだ。その檜とやらの幽霊でも見えるのか」

完全に馬鹿にした態度で樋の父が蔑むように言う。樋の従兄弟らしい女性もくすくすと嗤っている。

「いえ、檜さんは見えませんのでまだ生きているのでしょう。私が見えているのは・・・」

勿体つけるように言葉を区切り、水木らの前で左腕を軽く上げて肘から上の部分を指差す。

「この辺りの腕ですよ、腕が海に」

 その瞬間、樋の父の表情が凍りつく。その瞬間中嶋は一華に目で合図をすると一華は頷いて表情を変えた樋の父に憑依した。
 一華の記憶を探るという特技も常にすべての記憶が見れるわけではない。相手が寝ている時は好きに探れるが、起きている時は考え事や違う記憶が入り混じり探るのが難しい。知りたい情報を探るなら、それに関わりのある話を聞いている時に憑依する必要がある。
 事前に決めていた事はこれだ。何か隠し事をしていそうな連中なので、裏の裏まで知っている人間を割り出し記憶を探る必要がある。もしも帰れの一点張りで進展がないなら他の切り口から攻めるしかない。
重要なのは檜氏がこの島に今もいるかどうかだ。一般人の中嶋にできることは少ない。となれば警察に動いてもらうしかないので、警察が動くだけの証拠を用意する必要がある。
 荒業だが、事情を知っていそうな者の記憶を一華が探り見た光景を念写でもできれば御の字だ。その写真がどこから、どうやって手に入れたのかなどは後でいくらでもごまかせる。重要なのは警察に入ってもらうきっかけ作りだ。

「そういえばこの島には大層な伝説があるようですね、悪い神を退治したとかなんとか。何でにあんなに手があるんでしょうね?伝説に関係ないのに」

 とぼけて聞けば引きつった顔をした水木らが何かを言う前に、ぎゃはは、と笑い声が響いた。見れば笑ったのは樋の従兄弟の青年だ。

「何ソレ、このタイミングでウケルんですけど。いやー面白いねアンタ。普段他にどんな幽霊が見えてるの?今もここに幽霊いるの?」

 おかしそうにケラケラ笑う彼につられ、ようやく我に返ったのか樋の父らも先ほどと同じようにふんぞり返る。

「は、くだらん。そうかそうか君は霊能力者なのか、大変だな。生憎俺にはそんなもの見たことも心当たりもないからソウデスカとしか言いようがない。帰って祈祷でもしたらどうだ」

 雰囲気が先ほどと同じアウェーになってきた。無論目的は一華の憑依なのでこの空気になっても全く問題ない。

「ええ、そうします。憑いてこられても嫌ですし。・・・物凄い数ですからね」

 やや引きつった顔をした樋の父を見つめながら極上の笑顔でそう言うと鞄を持ち失礼、と言って家を出る。しかし玄関を開けた瞬間、まるでダムの水門が開いたかのように轟音と共に大粒の雨が真横に降り家の中をあっという間に水浸しにする。

「ちょっと、早くしめてよ!」

 樋の母らしき中年の女性に怒鳴られ、中嶋は玄関を閉める。話している時はまったく気づかなかったが、外は雨雲で真っ暗だ。雨音はしなかったので玄関を開けた今降り始めたのだろう。
樋がバスタオルを持ってきてくれたので中嶋は体を拭いた。見れば海も大きく波がうねり、船が来れる状態ではない。

「通り雨だと思いますけど、止むまで休んでください」
「えー、コイツ家に置くの?」

 樋の言葉に従兄弟の女性があからさまに不満そうに言うが、樋は静かに言い放つ。

「じゃあこの海の中帰れっていうの?それとも外に放り出す?そんなことしたら訴えられるし下手すれば殺人幇助で警察沙汰だよ」

 すると彼女はチっと舌打ちをして「偉そうに・・・」と吐き捨てて階段へと向う。他の面子も中嶋とは一緒にいたくないらしくそれぞれの部屋に戻った。一華は樋の父に憑依をしたままなので、まだ情報を探っているようだ。

コメント   この記事についてブログを書く
« 朝のドタバタこんな感じだった | トップ | 幽霊と探偵 手折れの島4 »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

自作小説」カテゴリの最新記事