日常のぼやき

引きこもりレベル上昇中。そろそろ必殺技でも覚えそうです。

カミカツギの夜T-9

2014-01-17 | 自作小説
その時、さぁっと風が吹いた。かざぐるまが一斉にカラカラと回り、風鈴がいくつも涼しげな音を奏でる。

風鈴の音の中で一つだけ聞きなれないかん高い音がした。ふと気配を感じ、振り向くと言芭がいた。そして手に持っていた物を差し出す。

「・・・風鈴?」

言芭が渡したのは小さな風鈴だった。何も飾り絵がない、手のひらよりも小さいシンプルなものだったが、揺らして鳴らすとかん高く美しい音色がする。先ほど聞いたあの音色だ。

「風鈴は音を鳴らして邪を祓うものとされてきた。それは一番高い音が鳴る。高い音はあいつらが嫌う音だからな」
「・・・あいつら・・・?」

祭りの雰囲気で浮かれている周囲と違い、言芭は真剣だ。その空気からは緊張感も伝わる。
「鳥居は開かれた。俺達はここにずっと閉じこもっていたが、今日ようやく開放された。それは『外』の連中にとっては脅威だ。それに、逆にこちらに侵入してくる機会を与えた事になる。お前はそれを防ぎ、皆を守る義務がある」
篝の昔話を思い出した。かつてはたくさんの神がいた・・・つまり自分達だけではないのだ、人間ではないモノは。神が不在になっただけで争いが生まれ、違う神によっておさめられたとも言っていた。言芭は当事の事を知っているのかもしれない。
争いは簡単に始まる。そしてそれは終わりが果てしなく遠く、犠牲も生まれる。

「まあ・・・ただの飾りにしかならないが、俺が贈れるのはこれくらいか。後はお前には不要だからな」
「そう?」
「飾りも小物も必要ない。そんな物なくても、お前は十分綺麗だ」

照れた様子もなく淡々と告げる。主観ではなく客観的に言われているようで褒められた気はしないが、それでも言芭に言われると嬉しい。口元に笑みを浮かべると、言芭と二人で歩き出した。特に何かを見ているわけでもないが、きちんとした祭りを堪能するのは初めてだ。じっくり見ていきたかった。
その様子を屋台の影から見ていた篝はくすっと笑う。

「ほらね、ああいうのは言芭が適任でしょ」

丹弧と胡蝶は興味津々と言った様子で二人を眺める。

「言芭よく普通にできるよな、俺すっげえ緊張してたんだけど」
「私だってそうだよ。化粧とかした後気に入らないとか言われたらどうしようかと・・・」

ひそひそ語る二人からは、まだ強張った雰囲気が伝わってくる。親しげにしていたかのように見えたが、やはり祇緒・・・己の絶対的存在である主を前にかなり緊張していたようだ。柊は特に気にしていないようだが。

「別にそこまで祇緒に気を使う必要はないよ、そういう生き方はしてきていないはずだ。思った事を口にすればいいし、望むものがあれば言えばいい。彼女はその為に存在するんだから」

数十の神の使いと、1000を超える地元住民たち。それら全ての期待と命を祇緒が背負うことになる。
しかし、柊はそれでも祇緒ならやり遂げる気がした。今までと何も変わらないといっていた祇緒はまさしく「カミ」の風格があったからだ。
太鼓のような音が響き、ふと見上げれば花火が上がり始める。それは地元住民によって作られた小ぶりな花火だが、雲一つ無い空にはとてもきれいに輝いて見えた。花火に釘付けになり、どうやってあげてるんだと花火の方へと走り出す胡蝶を丹弧が呆れながら追いかける。

「それで・・・これからどうしていくつもりだ」

柊の心情としてはあまり篝に話しかけたくないが、これだけは確認しておきたい。

「どうも何も・・・別に普通だけど?これからはここの主が僕じゃなく祇緒になるだけだよ。外の神々は鳥居がある以上そう簡単には入って来れない。そうなると外に食事に行った時絡まれるだろうね。それでどうにかなっちゃうような奴はそこまでだったってことでしょ」

柊もここの神と外の神がどんな関係があったのかなど、詳しい事は知らない。自分が生まれた時すでに篝がいて神はいなかった。皆一様に神の復活が最終目的だったので、それを達成した今何をすべきかが明確になっていない。
祇緒が戻り皆本来の力が戻った。例外である柊、丹弧と力が安定しない胡蝶を除けばそう簡単には滅ぼされたりしないはずだが。答えらしい答えが返っては来ず、柊は内心ため息をつく。予想していた返事ではあったが。

「ああ、いたいた。篝」

振り向けば後ろにいたのは使いの一人、唯だ。人間に生まれ途中から神の使いとして目覚めた・・・みのりが神の復活を成功させるため行った最後の実験で生まれた稀有な存在だ。みのりは唯が成功したから祇緒を身ごもったのだ。他にもここに来る前外の神に目を付けられた事があり、貴重なサンプルを神社内に招き入れる事に成功した。本人は無自覚だが、唯の功績は大きい。

「なんだ、まだ外に行ってなかったの?」
「だって私は外で生まれ育ったのよ?急いで行く必要ないもの。行きたい所はあるけど、それは明日にするわ。それより、これ」

何でもない様子で差し出したのは、黒い毛玉だった。しかしその毛玉には大きな口があり、牙が生えている。噛まれないように後ろから掴んでいるが、指がややめり込んでいるところを見ると相当強く握っているようだ。毛玉からは鳴き声が漏れている。

「銅那が喘いでるから何かなーと思ったら、これが鳥居に噛み付いててね。鳥居を壊せば中に入れるっていうのは外の連中にはわかってるみたい」
「何百年もずっと同じ状態だったからね、それくらいは理解してるだろう。いつもなら鳥居に近づいただけで吹き飛ばされるけど、今は鳥居が開いてるからここぞとばかりに噛み付いてきたのか・・・脳みそなんて入ってなさそうだけど一応賢い・・・のかな?いや、でもやっぱりアホだよね」

篝の言葉に威嚇するような鳴き声がした。周囲のにぎやかな音にかき消されて、その場にいる篝達にしか聞こえないが。

「まあいいや、教えてくれてありがとう。それ好きにしていいよ」
「別に興味ないわ。可愛くないし」
「じゃあ丹弧にあげれば?」
「嫌よ、丹弧は一番『喰い散らかす』んだから。せっかくの日にそんなの見たくないわ」

そう言うとぐしゃっと握りつぶした。毛玉からは何か体液のようなものが飛び散り、唯の着物についたがすぐに煙となって消える。手に残った毛の残骸をふぅっと息ではらうと唯はそのまま祭りの中へと歩いていった。

「もう外の連中が群がってきてるのか」
「いや、群がってはいないさ。オツムがある奴ほど様子見してるだろう。鳥居は開いてるけど今日はまあ、あの状態の銅那たちでなんとかなる」

なんでもない事のように言う篝をじっと・・・咎めるように見つめるが篝はどこ吹く風といった様子だ。

「何百年もずっと閉ざされた場所が開かれたんだ。外の連中は神社にどんなのが潜んでいるのか気になっているだけだよ。来るなら迎え討てばいいし、何もないなら穏やかに過ごせばいい。やりたいことがあればやればいいんだよ、祇緒が許す限りはね」

そう言うと篝は歩き出す。おそらく本殿・・・地下の方に戻るのだろう。篝自身はあまり祭りや催し物には興味がない。何せ今までの形だけの祭りも結構さぼっていたのだ。
篝の言った事がすべてだとは思えない。ここの神が消えてしまったのも、神社全体を強い力で閉じこめたのも隠された理由があるはずだ。だが柊自身、そのあたりの事情も外の神々についてあまり詳しくはない。そういうのは篝か言芭が深い事情を知っているはずだが、二人とも聞いても話さないだろう。性格的な問題もあるが、おそらく自分には「聞く権利」はない。
小さくため息をつくと、後ろから気配を感じ振り返る。そこにいたのは祇緒と言芭だ。

「話は終わった?」

どうやら先ほどのやりとりをずっと見られていたようだ。祇緒は全てを知る権利があり、すべてを知ることができる存在なので隠し事をするつもりはないが。

「二人、仲悪そうだから喧嘩するんじゃないかと思った」
「・・・。ちゃんとした会話ができないわけじゃない」
「説得力ないだろ」

言芭の突っ込みに柊は返す言葉がない。そういえば祭りの前に一悶着起こしかけたのだった。あれは篝が悪い・・・とは思うがまるっきり子供のような言い訳だし、それを今ここで祇緒に言う必要もない。

「ヒマなら祭り一緒に見よう」
「ああ」

祇緒に促され、言芭と共に参道へと歩き出す。祇緒が通ると皆道を開け、屋台の人間はやや緊張した様子で、しかし笑顔だけは忘れずに商売を続けている。祇緒はもはや普通の食べ物は食べられない。そうなると装飾品などを見るしかないのだが、祭りの屋台などほとんどが食べ物なのであまり見るものがないようにも思える。
チラリと祇緒を見ても、その顔は無表情で祭りを楽しんでいるようには見えない。しかし祇緒はあまり感情を表に出すタイプではなさそうで、実際のところは図る事ができないのだが。

「さっきの話なんだけどね」

唐突に話しかけられ一瞬何のことかわからなかったが、すぐに先ほどの篝との会話の事だと気づく。

「たぶん外のカミは私を目指してくると思う。大昔、私からたくさんのものが奪われたから・・・その残りをもっていこうとすると思う。だから、それを止める事と奪われたものを取り戻す事が目的かなあ」

柊の知らない事実が知らされ、一瞬呆気に取られた。まさかそんな大切な事を自分が聞くことができるとは思っていなかったからだ。いや、今後は祇緒が主となるわけだから、祇緒は秘匿主義ではないのかもしれない。

「それだけの力があってもまだ完全ではない・・・と」

口にしながら恐ろしい話だと思う。ため息一つで相手を吹き飛ばすことさえできるであろう、とてつもない力が溢れているのに。

「こんなのは植物が酸素を出すのと同じ、放っておいてもいくらでも溢れ出るもの。でも奪われたものは、なくなると困るもの」

売り物のかざぐるまを手に取り、ふぅっと小さく息を吹きかけるとカラカラと回った。それが気に入ったのか、祇緒はそのままかざぐるまを持ち歩き続ける。

「皆には私の奪われたものを取り返してもらうおうかな。・・・ああ、柊は違う役目がある。柊は、私の食事を用意してもらおう。できるよね?」

そこまで言い、祇緒は微笑む。それは普通に見れば艶やかな笑顔だったかもしれない。しかし柊が感じたのは悪寒だ。
絶対にして唯一の主。これだけの力を蓄えたなら、あの供物に捧げられた女のように狂ってしまうはずだ。そうならないのは、祇緒はすべてを受け入れているからだ。希望、欲望、未来、そういったものを欲することをしないが故にすべてを受け入れることができる。力も、現実も、己も、すべてを。
その絶対の主がそう命を下すのなら、柊には逆らうことはできない。

人間から供物を選ぶということが、柊にとっては苦痛であることを知っていて敢えて言っている。しかしそれは人間への未練を断ち切る為、乗り越えなければいけない使命だ。祇緒は暗に、「使いとしての自覚を持て」と言っているのだろう。
あの時・・・人間に深い思い入れをしたあの日以来、柊はずっと人間に憧憬を重ねてきた。それは叶えられない夢を見続ける愚かなことだった。祇緒が戻った今、それが叶うことは万に一つもない。
それを断ち切れ、と言っている。できるか否かと問われれば答えは「できる」。ただ、やりたくなかっただけだ。しかしもうそれは許されない。

「・・・わかった」

柊の返事に満足そうに頷くと、祇緒は金魚すくいをしていた唯に近づき話かける。最初驚いた顔をして緊張した様子の唯だったが、二言三言会話をすると祇緒が金魚すくいをし始めやり方を教え始めた。
唯と祇緒はどこか似ている。みのりによって生み出されたのが唯なので、元となっているのはみのりの顔だ。唯が違う生まれ方をしていたら二人は姉妹といってもいい。あっという間に打ち解けた様子で、唯は楽しそうに金魚すくいを祇緒に教える。
それを見ながら柊はふと鳥居のほうを見た。「外」にはいくつもの目がこちらを見ている。入ってくる気配はないが、警戒しているのはわかった。本当に、これからすべてが終わり始まるのだと痛感する。
いつの間にか言芭もいない。鮮やかに空を染め上げる花火を見ながら、柊は遠い日に想った人物の顔を思い出す。
この顔も、そのうち忘れてしまうだろう。自分はそういう存在なのだから。

先ほどの祇緒の言葉。終わるのか、始まるのか。今までの閉ざされた生活は終わった。そして、新たな局面が始まる。
そう、これからが本当の始まりだ。不在だった主を迎え、本来の姿へと戻ったしもべ達。保たれていた外の世界、外の神々の均衡が崩れ始める。

最後のカミカツギの夜が終わると共に。



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カミカツギはこれにて終了です。
まるでこの先も続くかのような終わり方ですが、神が帰って来る話が「カミカツギ」なのでこれで終わりとなります。
この後は後日談を一つ載せて、本編にかけなかった設定とキャラ説明を書いて本当に終了となります。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。

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