日常のぼやき

引きこもりレベル上昇中。そろそろ必殺技でも覚えそうです。

幽霊と探偵 手折れの島4

2016-07-25 | 自作小説
 樋が申し訳なさそうにこちらを見たが、彼が口を開く前に中嶋が先に言った。

「すみません、穏便にと言われていたのに」
「いえ、いいんです。でもビックリしましたよ」

 ふっと小さく笑って樋は暖かいお茶を入れてくれた。まだ中嶋の服は湿っていて体が冷えただろうと気遣ってくれたのだ。

「さっきの話って・・・?」
「手ですか?実はここに来る前に仕入れてた話です」

 中嶋の話は噓ではない。海藤から送られたメールの内容がこれだった。

「同僚から聞いたんですけど、向こうの港町にいろいろ風習とか言い伝えとかあるようで。その中に悪い子は手を狩り落とすぞ、っていうのがあるんです」

 海藤からのメールをかなり省略して伝える。正確にはこうだ。港町周辺には悪い子を叱る時やいい子になりなさいという時に言う常套句があった。
 海の神様は子供が大好きで、悪戯好きな悪い子が特に好きだと言う。そんな子が海に近づくと両手を引っ張られてつれて行こうとする。一度捕まれたら絶対に離れない、どうするかと言うと腕を切り落とすしかないというのだ。港町に住んでる以上海に近づかずに生きるのは難しい。引っ張り込まれたり、腕を切られたくなかったら大人しい良い子になりなさいという事だ。
 そのメールを見た時はなかなかエグイな、と思ったのだが島に着いたら大量の腕がお出迎えだ。ならば必ず過去手を切り落とされた者達の事実が存在している。しかも幽霊なのだから、当然手を切り落とされた人は死んでいる。水木に心当たりがあるかどうかは賭けだったが、他にもキナ臭い話は仕入れていたので総当りでいこうとは思っていた。そうしたら腕だけでヒットだ、上々と言うよりも十分すぎる成果だった。

「ああ、そういえばなんか聞いたことがあるようなないような・・・子供の頃の事で忘れてました」
「伝説を信じちゃいませんが、軽く嫌がらせしてかっこよく立ち去ろうとしたらこのザマです。樋さんには本当、ご迷惑おかけしました」
「いえ、いいんです」

 その言葉通り樋は特に気にしていないようだ。先ほどの従兄弟とのやりとりなどからも、あまり家族や親族と仲がいいというわけではないようだ。
 適当に世間話をしていると一華が戻ってきた。その表情は硬い。丁度樋が食器の片付けと、船の迎えの状況を確認してくれると言ってその場を立った。すかさず一華が憑依をして中嶋に報告する。

『まず檜さんだけど・・・』

言いながら自分の記憶を中嶋に見せる。樋の父の記憶には、この島に檜氏が訪ねてきた映像、そして崖の上から突き落とされる光景が見えた。その光景に中嶋はわずかに目を細める。

『それで、さっき手の話したとき表情変わったでしょ?あの時見えたのがどうもこのおっさんの子供の頃の記憶みたいでね。何か儀式みたいのをやってるところを、こっそり影から覗いてたみたい。そこで・・・』

言いながら一華の記憶を見せてもらうと。

 泣き叫ぶ一人の女性を男二人がかりで押さえつけ、腕を地面に固定している。そこに斧を持った人物が近づき、思い切り斧を振り下ろした。腕が切断され、女性は絶叫する。そして切り落とされた腕は供物台に乗せられ、何か儀式めいた事を続けると台ごと海へと放り投げられた。

(・・・このおっさんのガキの頃っつーと40年くらい前か。場所は檜さんが突き落とされた場所と同じだな)

 崖にある大きな石の形、崖の光景が一致する。子供の頃実際見た事があるものを思い出し顔色を変えたのだ。一体何故そんな事が行われ、何故港町には形を変えて言い伝えで残っているのかは知らない。しかしあの大量の腕を考えれば、一刻も早くこの島を出た方が良さそうだ。しかし天気は勿論、あの腕の中無事に戻れるだろうか。

『それで、檜さん突き落とした時はもう一人のおっさんもいてね。上の部屋で嗅ぎつけられたんじゃないか、とかたまたまだろうとか相談してたよ』
(いずれにしてもこのままいれば俺も二の舞になりかねないか。しかし下手に手を出せば俺の会社の連中が不審に思って間違いなく警察を呼ぶ。警察の介入は絶対に避けたいだろうからここはなんとしても時間稼ぎか、怪しい部分を隠したいはずだ)

 そうなれば水木の連中がやる事と言えば一つだ。そう思っていると上から樋の父と叔父が降りてきた。中嶋を見ると努めて普通に声をかけてくる。

「いやすごい雨だな。これじゃしばらく海には出られん」
「アンタも大変だな。泊まる事にならなければいいが」
『いきなりフレンドリーすぎんでしょ!?さっきの勢いどこいったの!?』
 
 思わず一華が全力で突っ込むほど、先ほどまでのアウェーな空気はどこへやら。中嶋をゴキブリでも見るかのような目で見ていたのに今度は当たり障りない言葉を投げかけ近づいてくる。

『信用させたいのはわかるけど、怪しすぎ!大根役者だってもうちょっとマシな演技するよ!?』

 聞こえないとわかっていても言わずにはいられない。それほど不自然、というより正直に言えば気持ち悪い。これだけコロっと態度を変えられれば、一般常識のある人間なら間違いなく警戒する。電話を終えて戻ってきた樋でさえ不審そうに父達を見ているほどだ。
 テンションが上がり騒ぐ一華とは対照的に中嶋は冷静だ。普段なら一華と同じように突っ込むのだが。勿論中嶋も変わり身の早さと演技の下手くそさに呆れてはいるが、今重要なのはそこではない。今後彼らとどう向き合うか、だ。さっさと帰れるなら無視するなりおちょくるなり何でもいいのだが、いつ帰れるかわからない状態なら細心の注意を払わなければならない。
 手を切り落とす行為が実際あったとなると、先ほどの言い伝えの件はこれ以上出すのはやめた方が良さそうだ。余計なスイッチを押すことになりかねない。当然檜氏の突き落としに関わる話も引き出すわけにはいかない。かといってこの状況で世間話しかしないのも不自然だ。

「アンタ霊能力者なんだろう?いきなりだぞ、さっきまで晴れてたのにこんな雨になった。この雨もなんかおかしな影響なのか」
「さあどうなんでしょうね。霊能者は天気予報士じゃないんでわかりません」

 小さく鼻で笑って答えれば再び水木の表情が険しくなる。叔父の方はあからさまに不愉快そうな表情を浮かべて舌打ちをした。

「心配せずとも雨が弱くなったらとっとと出て行きますよ。他に雨宿りできそうなところがあるならそっちに行きますけど?」
「この島にはここしか建物はない。止むまではいてもいいが、勝手に家の中をうろつかないでくれよ」
「さすがにそんな非常識じゃないです」

 白々しい会話を済ませ、水木たちはその場を後にする。一華が後をつけて会話を聞くと、懐柔作戦失敗じゃないか、といった内容だった。あの不審すぎる態度で一体何をどう懐柔しようと思ったのか、と一華も呆れてしまう。そんな事なら下手な事をせずにずっと邪険に扱っている方がまだ怪しくないと思う。
中嶋は樋から迎えの船についての説明を受けていた。雨があがれば多少波が荒くても迎えに行けるのだが、今の状況ではいけないとの事だった。
 その説明を受けながら中嶋は窓の外を見る。雨雲は厚く空は夜のように暗い。ひたすら轟音が響き、雨というよりも嵐と言っていい。先ほどの水木の言葉、てきとうにあしらったが実はとぼけたと言うわけでもない。先ほどからこの雨に嫌なものを感じるのだ。今島にいる人間を帰さない為に天気が変わったというのも十分考えられる。

(天気まで変えるほどの強い意志はなんつったかな・・・惆悵-ちゅうちょう-、だったかな)

 以前清愁から聞いた言葉だ。強い意志にもいくつか種類があり、外の要因さえ自分の都合に合わせて捻じ曲げてしまうものがある。長年石に封印された悪霊が怒りと憎しみから天気を操り、落雷させて石を割って封印を解いたことがある、という話を聞いたときだったと思う。その時はすげーな、としか思わなかったがこうして見ると恐ろしい。あの外にいる無数の手がこの天気の元ならば、時間が経っても雨が止むとは思えない。

「ねーねー、霊能者さん」

 考え事の最中に話しかけてきたのはいつの間に来たのか、樋の従兄弟の男だった。いかにも軽そうな馬鹿っぽい印象だ。話すのが面倒だとは思ったがそんな雰囲気は出さずに顔を向ける。

「あのさ、マジで霊能者なの?万が一にもホンモノ?」
「ええまあ」
「じゃあさ~、ちょっと調べてよ。この島昔からいろいろイワク付きでさ。友達と肝試ししようと思ってるから、なんかそれらしい設定とかあると面白いじゃん」
「霊能業務は別料金です。高いですよ」

 にっこりと笑顔でいれば「えー」とブーイングをする。そして初回は無料サービスにしてよ、と言ってきた。

「じゃあ貴方を霊視しましょうか。そうですねー・・・むむむ、貴方、悪霊ついてますよ。最近肩こりません?」
「いやー全然?」
「そうですか、気づかないのは幸せな事だ。でもそのまま年月が重なれば必ずよくない事がおきます。お
祓いが必要ですね、放っておくと貴方だけではなく家族、恋人、いずれ結婚したら生まれてくる子供にまで影響が出ますよ。御祓いは一回13万です。たった13万で自分の人生と周りの人を救えますからすぐにお金の準備を」
「は?何で13万もいるの、バカじゃねーの?」

はっ、と鼻で嗤う男に中嶋も笑顔のまま答える。

「・・・と、いうのがまあ世の中のパターンです。変な占い師にひっかからないよう気をつけて」

うん?と首を傾げる従兄弟の男と違い、樋はなるほどと頷いた。

「最初の悪霊がついてる、肩がこらないかと言う問いに対してyesでもnoでも都合のいいように会話が進むんですね。最終的にはどちらを選んでも金を巻き上げられると言う事ですか」
「霊能者、占い師、宗教団体、まあ何でもいいですけど。自分に見えない、わからないものを掲げて商売をする人間っていうのは皆共通してこういう手法を取ります。貴方のように頭から否定する人ほどよく引っかかるそうですよ」
「あはは、俺そういうの全然信じてねーから」

 いやーやっぱ面白いわアンタと上機嫌で従兄弟の男は立ち上がるとまた自分の部屋に戻っていった。それを見送る中嶋の目は笑っていない。

「どうかしました?」
「いや、結構嫌いなタイプだなあと思って」
「すみません、アイツ・・・泉は上から目線で話す事多くて。礼儀があまり・・・」
「いえいえ、そういうのじゃないです。お気になさらず」

 樋は不思議そうな顔をしたが、あまり深くは突っ込まず再び席を外した。誰もいなくなったところで一華が中嶋に憑依する。

『サトちゃんこれからどうするの?』
(そうだな、ちょっと時間早いけど一度小杉のところに行って進展ないか確認頼む。腕切りの儀式についてとそれに関わりそうな言い伝えとかな。あの腕が何で今ハッスルしてんのか知らんが、どうにもおさまらないしなんとかせんと俺もこの島から出られないかもしれない。この嵐だ、悪いが檜さんを助けるのは無理だろう。海に落ちたならもう生きてない。ここからの脱出最優先にする)
『そっか・・・じゃあ一回戻ります』

 檜の事を一瞬考えたのだろう、少し言いよどんだは一華はそう言うと姿を消す。樋の従兄弟は泉と言った。別に知りたくもないし覚える気もないが、中嶋は嫌いなタイプだ。彼は自分で言っていて気づかなかったのだろうか?思い切り矛盾した事を発言したという事に。
 それよりも今はあの腕の情報が欲しい。先ほど一華に見せてもらった映像は過去実際にあったとみて間違いない、水木(父)が動揺したほどだ。彼もトラウマになっているのかもしれない。それはそうだろう、純真無垢だった少年時代に腕切り光景など見てしまっては。女の悲鳴だけが聞こえていたのはそれだけ悲鳴が凄まじく耳に残ってしまったに違いない。見てはいけないものを見てしまった、誰にも言えない悩みと言うのは辛いものだ。

(小杉の情報に期待しよう。この儀式めいた事と大量の腕は必ず解決の糸口があるはずだ。・・・どうせ昔やってた猟奇的な儀式があって、供養を忘れたとか封印してた核を蹴っ飛ばして壊したとか、なんかそんな感じなんだろうけどな)

 ふと御壬家を思い出し、今回は踏んずけるくらいじゃ直らないだろうなと思う。今回は規模が違う。

バン!

 突然大きな音が響いた。不審に思い辺りを見るが、何かが落ちた様子はない。しかし間をおかずすぐに

バン!バンバン!

何かがぶつかるような音だ。家の中というよりも外、家の壁に何かがぶつかっているように思える。

(叩いてる音?)

 ふとあの大量の腕が頭をよぎるが、外を見ても手が彷徨っている様子はない。どうやらあの腕たちは海からは出られないらしい。音自体はそれほど大きくなく、外にあった物が風で飛ばされてきているというわけでもなさそうだ。

バンバンバン、バンバンバン

「・・・あ?」

 先ほどと違い規則的な、リズム感ある音に変わる。すると上にいた水木の人間達が降りてきた。何の音だ、と真っ先に中嶋を見る。どうやら中嶋がおかしな事をしているんじゃないかと疑っていたようだが、再びあの音が聞こえてきて皆家の中を見回した。

「何?外から聞こえるの?」

 もう片方の従兄弟の女が窓に向っていき外を眺める。その瞬間。
ビタン!という音と共にガラスに人の顔が張り付いた。目をカッと大きく見開き、青白い顔で家の中を凝視している。

「ひゃあああああああ!?」

 悲鳴を上げて後ろに飛びのき、勢いあまってしりもちをついてしまう。それを見た樋の母も悲鳴をあげ、他の者もぎょっとした様子で固まる。
 張り付いた顔はすぐに消え、再び雨のだけが聞こえるだけとなる。誰もが固まって動けない中、中嶋は窓を開けてすぐに外の様子を見る。大量の雨が地面に当たりしぶきとなって飛び散っているのだろう。霧がかかったかのように白いもやのようなものが出ていて視界が悪い。見渡してみても人の姿はなかった。

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