日常のぼやき

引きこもりレベル上昇中。そろそろ必殺技でも覚えそうです。

カミカツギの夜T-7

2014-01-13 | 自作小説
辺りに太鼓の音が鳴り響いた。それは七回続き、辺りはいよいよ熱狂に包まれる。しゃべってはいけないのは人間の方の祭りだけなので、こちらは大盛り上がりだ。
篝の優雅な仕草のもと、何かが号令され祇緒がゆっくりと姿を現すと、大騒ぎしていた声がピタリと止んだ。祇緒の神々しい姿に皆見入り、息をするのも忘れているようだ。
篝が何かを読み上げ、祭りというよりは儀式のような催しが着々と進む。何を言われているのかあまり興味がなく右から左に聞き流していると、目の前に何かが運ばれてきた。
それは、美しく飾り付けられた一人の女性だった。祇緒より少し年上に見える彼女は放心状態で何も反応を示さない。これが供物とやらだろう。
しかし、確かに感じる芳醇な香り。そして温かな血の流れ。自分と、「同じ存在のもの」。
後ろにいた柊がわずかに息を呑むのを感じる。そして、声に出していないはずなのにはっきりと柊の声を感じた。

(・・・みのり・・・?)

みのり、母の名だ。母本人ではなく似ているのだろう。母と過ごした時間は自分のほうが長いはずだが、もう母の顔もはっきりと思い出せない。母に似た女性、自分と同じもの。そう思った時、直感のようなものが働き理解する。
・・・おそらくそうだ。この女性はおそらく、自分の「姉」だ。ふと篝の言葉が蘇る。彼女はあらゆる手段と策を講じて準備を進めてきた、と。
彼女もまた自分に捧げる生贄として、それだけのために生まれ育ってきたのだ。なんて哀れな存在なのか。

彼女の前へと歩き、目の前で屈む。そしてそのまま彼女と自分の唇を重ねると、激流のような激しい衝撃が沸き起こった。それは周りにも影響があり、ざぁっと音をたてて木が揺れ突風が巻き起こる。
これが一体何なのかはわからない。しかし一言でいうなら、おそらく「力」だ。人ではないモノの持つ力、彼女の中に収められていたものが最後。これを受け取って、自分は元に戻る。
神の使い達はその場に膝をつき、必死にその衝撃に耐えていた。目の前で起きている事を見守ってはいるが、自分の持つ力とは比べ物にならないほどの強大な力。それが今あの女性から解き放たれたらこの場など消し飛ばされてしまうかもしれないほどの凄まじさだ。
重ね合わせた唇を通して、すべてが祇緒へと納まっていく。もともとすべて祇緒のもの、それがあるべき場所へ帰って行くだけだ。その余波がまわりに影響しているようだが、祇緒は構わず力を吸い続けた。

やがて、すっと衝撃が消える。皆呆然としながらもはっと祇緒の方を見れば、供物となった女性はすでにいなかった。女性のいたところに着ていた物が落ちていて、彼女の肉体のみが消えてしまった。それを見届けた祇緒はすっと立ち上がる。
その髪は銀色に染まり、瞳は金色になっていた。とても美しく、厳かで・・・そして非常に恐ろしい。しばし、その姿に皆見入っていた。

「さあ、カミカツギの始まりだ」

篝の声に神輿が運ばれてきた。祇緒を神輿に乗せると8人の男が担ぎ、その前後を神の使い達が2列に並ぶ。太鼓の音と共に歩き出し、本殿から拝殿へと続いた。
一般客は驚いたようだった。神輿が担がれるというからてっきり普通の神輿かと思ったが、そこには一人の少女が正座しており煌びやかな集団が列を組んで歩いてきたのだ。もっと良く見ようと面を外す者、凄い凄いと手を叩いて喜ぶもの、携帯をかざし写真に収めるもの。予想以上の艶やかな催しに、誰もが当たり前のように規則を破っていく。いつもなら地元住民から注意されたりするのだが、その日は誰も何も言わない。それがどんどんエスカレートし、大盛り上がりとなった。

そして、拝殿と鳥居の丁度中央に当たる敷地内の真ん中に来たあたりで祇緒が右手を斜め下に下げて止まれの合図をする。死角で見えていないはずの者まで、ピタリと止まった。そばにいた柊に小声で何かを伝えると、柊は提灯のあたりで大きく手を振る。すると、すべての灯りが一斉に消えた。電気ではなく一つ一つ火がついていたはずなのに、すべてが同時に消えたのだ。その様子に一般客はどういう仕掛けなのかとざわつく。
少しの間暗闇が辺りを支配したが、小さな明かりが目の前を不規則に灯し始める。

「あ、蛍・・・」

誰かが呟いた。神社の敷地内に次々と蛍が飛び交い、数え切れないほどの蛍が一斉に辺りを包み込む。わぁっと歓声が上がり、幻想的なその光景に酔いしれた。
それを神輿の上から見ていた祇緒は、一匹の蛍が近寄ってきた事に気づく。手を差し伸べれば、それはふわりと手に止まりチカチカと光った。

(・・・お姉ちゃん・・・)

心の中でそっと呟いた。生まれた時から強大すぎる力をそのうちに封じられ、気が狂いそうになりながら必死に耐えて生きてきた、今日初めて会った姉。もはや限界を通り越し、最後は人形のようになりながらもずっと今まで生きてきたのだ。この力を、あるべき場所へ返す為に。
蛍は何も語らない。しかし、しばらく手に止まっていたかと思うと再び夜空へと旅立っていった。
見れば、神の使い達には必ず数匹の蛍が止まっているようだった。以前親しかった者なのかもしれない。柊にも何匹かふわふわと舞っている。柊も含め、どこか使い達から切ない雰囲気が伝わってくる。
きっといろいろあったに違いない。長すぎる時を生きている中で、納得して分かれたものや不慮で消えてしまったもの。毎年虫売りの男が集めていると言っても、これだけの数が一斉に解き放たれたのは祇緒の力が影響している。力を受け取った事により今晩限り、もう一度戻ってきたのだ。
ある程度思い思いに舞った後、蛍は皆上空に向かって飛んでいく。

「皆戻った?」

祇緒のつぶやきに柊が頷く。

「じゃあ、やっと終わるね。・・・始まるのかな?まあいいか」

祇緒が右手を軽く上げた。そして宣言する。

「面を捨てろ」

それを聞いた神の使い達は一斉に歓喜の雄叫びを上げる。突然の事に一般客は何がなんだかわからないといった様子だ。
そして暗い中、面を付けていた者達が一斉に面を取り空へと放り投げた。たくさんの面は宙を舞い、わずかな月明かりに照らされ不思議な光景が辺りに広がる。
これがカミカツギ?と疑問に思う客達はまだ気づいていない。面を取った者達の瞳が、人間のそれではない事を。その口元が三日月のような笑みを浮かべている事を。
辺りに急に寒い風が駆け巡る。その衝撃に皆辺りを見回すが、明かりが落ちている今、周りは見えない。皆携帯を操作し画面が灯され、わずかに手元が照らされた時。

その場にいた、全ての人間は姿を消した。

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