日常のぼやき

引きこもりレベル上昇中。そろそろ必殺技でも覚えそうです。

カミカツギの夜T-6

2014-01-12 | 自作小説
太鼓の音が鳴り響き、拝殿の方では白装束による奉納が始まっていた。一方本殿にも神の使い達が集まり始め、今か今かと待ち続ける。言芭ともう一人の青年、柊は本殿の中からその様子を見つめていた。
柊は獅子のような面を付け白地で鮮やかな刺繍が施された着物を着ているが、言芭は簡素な浴衣を着ている。

「言芭、そろそろ着替えれば」

柊が声をかける。カミカツギは正装しなければならず、祭りの格好のままはあまりにも礼儀知らずだ。事実本殿前に集まっている使い達も皆艶やかな着物を身にまとっていた。

「俺は祭りに出ないからいい」
「何でだよ。不参加って認められるのか」
「言芭はいいんだよ」

二人の会話に別の声が割って入った。その声に柊は黙り、言芭はそちらを見る。
開いていた地下からの階段を上がり、やってきたのは篝だ。彼も鮮やかな着物を身にまとい、普段と違う迫力がある。面は付けておらず、彼の美しい顔がますますその存在感を増していた。
そして篝の後ろに祇緒が続いてきた。
祇緒は先ほどの浴衣姿とは比べ物にならないほど美しく彩られていた。煌びやかな着物は着ているが、顔に施された化粧は派手過ぎず祇緒の顔を引き立たせる。祇緒自身は気づいていなかったが、彼女は整った顔立ちをしている。その魅力が最大限に引き出されるシンプルな施しは良く似合っていた。美しさの中に厳かさがあり、その姿を見た若い使い達はひれ伏してしまうだろう。

「まーったく、ここの男どもときたら・・・何かこう、掛けるべき言葉があるでしょう!」

祇緒の後ろに続いて来たのは丹弧だった。彼女も装いを整えてはいるが他の者に比べて控えめだ。自信満々で祇緒を飾り付けただけに、何も反応がない二人に噛み付いてくる。

「まったくだ。言芭、柊、なんかないの」

篝もわざとらしくため息をついて問いかけた。そんな態度に柊はふん、と小さく息をつく。

「お前が邪魔でよく見えない」
「それは失礼。いいよ、じっくり見て。さて、どんな賛辞が出るのか楽しみだ」

くく、と楽しそうに笑うと大きく横にずれる。祇緒の姿を少し見つめ、柊はぽつりと呟いた。

「良く似合ってる」

その言葉に篝と丹弧がはぁあ、と大きく息を吐いた。丹弧は首を振り、篝は小馬鹿にしたように柊を見る。そんな二人の態度に柊は特に反応はない。あまり気にしていないようだった。しかし、次の篝の言葉に雰囲気が一変する。

「お前そんなだから女にもてないんだよ」

その言葉に柊が殺気立った。辺りに冷たい空気が流れ、近くにあった装飾品がバキっと音を立てて割れる。丹弧がやや緊張した様子で祇緒の前に出て庇ったが、柊はすぐに落ち着いた。一応祇緒の前だからというのと、ここで篝に喧嘩を売っても無駄だと言うのがわかっているので抑えたのだ。
もてない事を気にしているから怒った、という感じではなかった。本当に柊は一瞬殺意に満ちたのだ。このまま殺し合いでも始まるのだろうかと思うほどだった。
どうやら女云々は柊の前では禁句らしい。いや、もしかしたら篝が言うのが禁句なのかもしれないが。

「いい加減にしろ。お前らもっと大人しくできないのか」

黙っていた言芭が言うと、柊はそっぽを向いてしまった。篝は気にした様子もなく、続いて言芭に問いかける。

「言芭は?何か感想」
「後で言う」

それだけ呟くとその場を離れどこかに行ってしまった。声をかけようかと思ったが、なんとなく気が引けて結局そのまま黙って見送る。その様子を見ていた篝が苦笑しながら祇緒の頭を撫でる。髪も整えているので、崩れないようにそっと。

「言芭は祭りに強制参加じゃないんだけど、せっかくの晴れ舞台だ。見に来るよう言っておくから」

だからそんな顔しない、と言い微笑む。

「・・・ううん、いい。疲れてるだろうから、休ませてあげて」

そう言い外の様子を眺める。外には多くの神の使い達が集まっていた。浴衣ではない、きちんとした着物を着る彼らは浮き足立っているように見える。彼らは本当に長い間このときを待っていたのだろう。

「さて、僕は先に行って祭りを進めているから、祇緒はここにいてね。太鼓が7回鳴ったら降りておいで。柊は祇緒の後ろに続いて来るんだ。丹弧はこっちを手伝って」

篝はそう言うと祭り会場へと降りて行く。丹弧もそれに続いた。篝の登場に集まっていた者たちからは歓声のようなざわつきが生まれる。しばらくその様子を見つめていたが、柊が近づいてきた。

「何だか順番がめちゃくちゃで悪いな。俺は柊」
「・・・うん」

知っている。暗闇で目覚めた時篝に見せられた光景の、あの青年だ。柊もそれに気づいているのだろうが、お互いそれについては触れない。

「うるさいのもいないし、今しか聞けないから聞いてもいいか」
「何?」
「これが終われば、もう元の生活に戻ることはできない。その事に、後悔はないのか」

真剣な声だった。祇緒がどう生まれ育ち、これからどうなるのか知っているからこそ問わずにはいられない。
生まれた時からこうなる事を運命付けられ、こうなる為だけに育てられた。苦しいことがたくさんあり、そしてこれからは楽しいことなどないのかもしれない。普通の生活とやらを送れば、多少なりとも幸せを掴んだのかもしれないが・・・

「そんなもの、いちいち気にする方がどうかしてるよ」

およそ15歳の少女とは思えない物言いに、柊はわずかに俯いたが小さく「そうか」と呟いた。しかし祇緒はその言葉に、微かに笑った。

「ありがとう、心配してくれたんでしょ」
「・・・別に」
「柊は、優しい」

そういって微笑む祇緒にわずかに釘付けになる。その笑顔は儚く、消えてしまいそうなほど透明感のあるものだった。喜怒哀楽の嬉のはずなのに、どこか切なくなってくる不思議な感覚。どこか懐かしいその感覚に、何も言葉が返せない。

「あとね、さっきの似合ってるっていう言葉も嬉しかった。ごちゃごちゃ言われるよりもわかりやすい」
「ああ・・・」

面と向かって礼を言われどう返していいかわからず、思わず顔をそらしてしまう。面を付けているから表情などわからないはずなのに、どうにも落ち着かなかった。

「私は誰にもなれなかった」

年頃の娘にも、仲の良い親子にも、人間にも。

「だったら、残されたモノになるしかない」

それは神なのかバケモノなのかわからない。人間からも身内と思われる者達からも、尊敬より畏怖される。
どんな存在になっても、気の許せる仲間などいない。だったら何になっても同じだ。

「腹を括った、どころじゃないか。もういいんだな」
「括るも何も、何も変わらないよ。学校行ってた頃も、これからも。『全部』似たようなもんだよ」

全部、か・・・と柊は内心で呟いた。きっと誰もが同じ状況になったらそんなセリフはいえない。今まで自分が見てきた世界と180度変わってしまうのだ。そこには法も、倫理も、節度もない。
そんな事を言ってしまえるこの少女は、間違いなく自分達の主なのだと確信する。みのりが手を尽くして産んで育てただけの事はある。

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