若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

子連れ市議は無能な一匹狼

2017年12月01日 | 地方議会・地方政治
今回のお題は、全国的なニュースとなった熊本市の「子連れ市議」。
インタビュー記事があったので、これを俎上にのせてみよう。

○ルールを作るのは市議


“子連れ市議”緒方夕佳さん激白「あの日の行動はまったく後悔していません」
======【引用ここから】======
―― 市議会の事務局側とは、赤ちゃんを連れて行くことも含めて、事前にやりとりはあったのでしょうか?

 緒方 第2子の妊娠がわかってから、去年の11月28日にアポイントを取って、議会の事務局長、次長、課長が同席している場で「出産してからは議員活動と子育ての両立が難しい点もあるので、これからの活動のサポートをよろしくお願いします」とお伝えしています。
 具体的には、議会に赤ちゃんを連れていけるようにすること、議会場内に託児所を設けて傍聴者や来訪者、または議員が利用できるような託児スペースを確保すること、もしくは託児所の設置がすぐに難しければスタッフの確保だけでもお願いしたい、といった内容です。もっと子育て世代が議員になれる環境作りをしたいとの一念で活動してきましたので、確か2時間ぐらいでしょうか、じっくりと話をしました。でも、事務局からのお答えは、「個人でシッターを雇って、控室で見てもらうことでしょうね」という感じでした。

======【引用ここまで】======

もし、事務局長が
「どうぞどうぞ、赤ちゃんを議場に連れてお入りください。」
なんて回答していたら、議長や他の議員達が
「何の権限があって事務局長は許可をしたんだ!」
と大騒ぎになっていたことだろう。事務局長の進退問題にもなりかねない。

地方自治法にも会議規則にも(おそらく内部の取決め等にも)
「議員は、議場に子どもを連れて入ることができる」
と書いていない。議員の子どもの位置づけに関する明文規定が無い以上は、事務局長からの回答が
「個人でシッターを雇って控室で見てもらうことでしょうね」
になって当然だ。
地方自治法や条例・規則に則って議会運営をサポートし、議員にアドバイスするのが議会事務局の役割であり、限界でもある。

市議には条例案をはじめとする議案の提出権や会議での発言権、表決権が与えられている。
ルールを作るのは市議であって、議会事務局ではない。
会議規則をはじめ、議場におけるルールは市議が決めるものだ。
議員間で議論をし、条例等のルールを定めるのが市議の本務である。

ただ要望するだけでなく、市議としてルール化するのであれば、論じるべき点は山ほどある。

・子どもが泣き叫んだ場合の対処について。単独で退場させるのか?親である市議も退場させるのか?
・入場を認める範囲について。精神障害があって目を離せない15歳の子どもも良いのか?認知症状のある75歳の親も良いのか?
・子連れ市議本人が併せて主張している「書面での議決権行使」等の方法が整備されれば、議場に連れてくる必要はないのではないか?
・とりあえず子連れ入場は認めて、不都合が生じたら議長の議事整理権に当面は委ねるという運用が一番簡易だろうが、これに他の市議が了承するか?

様々な論点をすっ飛ばして議場に子連れでやってくるというのは、市議としての責務を放棄したものとしか映らない。

「議員活動と子育てのサポートをお願いします」
というフワッとした投げかけだけでなく、
「こういった形で会議規則改正案を提出しようと思うので、賛同してほしい」
と他の市議・会派の間を駆け回ることが必要なのだ。

○ルール化する以前の読み込み不足


======【引用ここから】======
―― 熊本市議会の会議規則には「本会議中はいかなる理由があっても議員以外は議場に入ることができない」と定められていると報じられています。ルールを作る側である議員が、決められた規則に従わないのはおかしいという批判もありました。

 緒方 これは報道に不正確な部分があって、実は「破ったルール」なるものは存在しないんです。もちろん、私もこういう行動をするからに会議規則はしっかり読み込んでいます。会議規則には、ご指摘のような点は一切書かれていません。議場には記者さんや市役所の職員のように議員以外の人間もおりますから。
 後から事務局が主張したのは、熊本市議会の 傍聴規則 の中に「傍聴人は、会議中いかなる事由があっても議場に入ることはできない」との規定があって、事務局の解釈としては「赤ちゃんは傍聴人である」と。個人的には賛同しかねる解釈です。

======【引用ここまで】======

「会議規則はしっかり読み込んでいます」(キリッ)
「議場には記者さんや市役所の職員のように議員以外の人間もおりますから」(だから子連れもOKなはずだ!)
と主張する子連れ市議。
これについては「読み込みが全く足りていない」の一言に尽きる。

市役所の職員については、議長の出席要請を受けた者は審議の説明のために出席しなければならない。根拠は地方自治法第121条。
記者については、報道関係者席が設けられている。根拠は熊本市議会傍聴規則第7条。
この子連れ市議は、ルール化の前提となる条例や規則を読み込む能力を欠いている。

記者や市役所の職員については根拠条文があるが、市議の子どもについての条文はどこにも無い。
なので、
「市議の子どもは、議員でも説明員でも公述人でも参考人でも報道関係者でもない。傍聴人の規定しか該当するものがない」
という解釈は、現行のルールに照らして仕方ないとしか言いようが無い。
もし議会事務局に別の解釈を採用させたいのであれば、それこそ、他の市議を説得して回る必要がある。

○その費用、税金ですよ?


今回の子連れ市議は、子どもを議場に連れて入るだけでなく、

「託児スペースの確保をしてほしい」
「スタッフの確保をしてほしい」

といった要望も併せて行っている。
こうした要望は、単に子どもを議場に連れて入るのとは異なり、予算措置が必要になる。
これに幾らかかるのか、財源はどうするか、費用対効果はどうか、この子連れ市議は検討したのだろうか。

そんな新規予算を宙から宙に付けられるほど、自治体の財政は甘くない。市議のための託児所やスタッフを確保する余裕があるなら、震災復興のシンボルたる熊本城再建の費用をもっと手厚くしてほしいという市民もきっといるだろう。

議員報酬+政務活動費 おまけに託児費用まで?


そもそも、市町村のレベルで首長と議会という二元代表制は必要だろうか?
首長の提案に対し時にはノーを言うことが、地方議会には求められている。常に首長提案議案を無修正可決している議会の場合、二元代表制が機能しているかどうかは疑わしい。二元代表制が機能しないならば地方議会は必要なく、首長だけで良いのではないかということになる。

仮に地方議会の必要性の点はクリアできたとしても、欧米では地方議員はボランティアでほぼ無報酬というところもあるのだから、その水準での見直しは必要ではなかろうか。「欧米では会議に子連れOKの所がたくさんある」と海外の例を挙げるなら、報酬の面でも大いに参考にすべきである。

熊本市議会を見てみると、市議には任期中の生活費としては十分すぎる議員報酬(月額67万4千円×12月+ボーナス)が支給され、さらには広範な使途を認められた『政務活動費』という補助金(月額20万円×12月)も支給されている。
こうした状況の中、市議用の託児所設置やスタッフ確保という金のかかりそうな事柄を要望する子連れ市議。子連れ市議は、自身に対し現時点でどれだけ税金からの支出がなされているかをよく考えた方が良い。
「子育てと社会活動が両立できる社会づくり」と言いながら、「市議の特権拡張運動」のためにメディアを動員しているようにしか見えないのは、私だけではないはず。

市議としての適格性は


======【引用ここから】======
他にも、傍聴者用の託児施設設置について調査をしてもらったり、その設置を他会派に呼びかけたりもしましたが、どうも否定的な意見が多かったのです。「子育て世代が議会を傍聴したいと思ってるのかな? そうでもないんじゃないか」とか、すでにインターネットでの議会中継は行われていますが「インターネット環境を整えるほうが先じゃないか」といった意見が出て、なかなか理解が得られなかった。
======【引用ここまで】======

熊本市議会には、様々な有権者を背景にした49人の市議がいる。この人達の理解を得られなければ、新たなルールを作ることはできない。これが議会民主制である。
子連れ市議は他の48人を説得する能力を欠いており、強行突破しようとしたが止められた。それだけのこと。

主張内容は特権意識丸出し。主張方法は稚拙。
私は、この子連れ市議の主張には賛同できない。
よく見かける税金依存の「クレクレ」「シテシテ」の典型であり、この手合いを放っておくと税金の支出が増えるだけだ。
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