何かにオマージュを捧げた映画って非難しにくい。
だけど、この映画に関しては別だ。
映画を愛するものとして非難したい。
「イン・ザ・ヒーロー」を観る。
傑作になり得たのに、なり損ねた映画。。。
長年、いつか顔出しで主役を張ることを夢見て、スーツアクターを
演じてきた男が、ハリウッド映画への出演を果たすという話だ。
日本映画にありがちなツッコミどころ満載の乏しい脚本だ。
若手の俳優が1人で、スーツアクターの人たちの輪に飛び込んで、
あそこまで懇意になることはあり得ないだろう。
そこは、ドラマの設定上、目を瞑ったとしても、
「アクション映画をきっかけにアカデミー賞を狙う」と言った、
ハリウッドを舐めたお話や、「実は幼い妹と弟がいるんだ」、
「アカデミー賞のスピーチをしてお母さんを見つける」と言った、
無理くり同情心を煽ろうとする安い背景描写とか、今どきやめてほしい。
これらの福士蒼汰演じる若手俳優にスポットを当てたクダリは脂肪率が高い。
いっそ、俳優志望ではなく、スーツアクター志望の青年として描いた方は良かった。
「映画はいろんな役割を担うプロフェッショナルたちの努力の結晶」という、
映画愛に満ちたメッセージも、その中で十分に訴求できたはずだ。
その一方で、主人公のベテランスーツアクターの生き様はとても見応えがある。
自らを「子どもがそのまま大人になった人間」という永遠のドリーマーだ。
顔の出ることのない裏方の仕事に誇りを持って臨むとともに、
いつか映画の主役を張り「誰かのヒーロー」になれる日を信じている。
「イン・ザ・ヒーロー」(内なる英雄)が彼の生き様に重なって見えてくる。
演じる唐沢寿明が素晴らしい好演を見せる。51歳であの体のキレよ!
命を懸けてスタントに挑む彼らなくして、アクション映画は成立しないということ。
この映画を観た後に「るうろに剣心~」を観ていたら、味わいも変わっていたかも。
しかしながら、この映画に対して許せなかったのは、
主人公がハリウッド映画に出演するきっかけとなる、
アジア系監督のデフォルメを超えた大馬鹿ぶりである。
この映画における映画監督の描き方は失敗であり、映画を侮辱するものだ。
監督の子どもじみたワガママによって作られるほど、映画製作は愚かじゃないはず。
スタッフの命の危険を顧みない映画製作なんて、あり得ないし、観たくもない。
主人公にドラマを与えるための脚色であることはわかるが、発想が貧困過ぎる。
主人公が夢見た向こう側は「馬鹿な監督の独りよがり」って悲惨過ぎるし。
スタッフ同士の信頼、絆の上に映画製作がある、その中心に監督がいるはず。
それがキレイ事であっても、その前提の元に本作を描いてほしかった。
本作を観て、ダーレン・アロノフスキーの「レスラー」に似ているな、と思った。
「レスラー」のような傑作は、現在の日本人監督には作れないのだろうか。
映画製作を裏で支える人たちにスポットを当てたことには意義がある。
但し、映画自体はダメダメ。。。あー勿体ない。
【60点】
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