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3月のライオン 前編 【感想】

2017-03-25 09:00:00 | 映画


これぞ正しい漫画原作の実写化。漫画原作モノとしては「アイアムアヒーロー」以来のヒット。まずは原作漫画の見事な再現に拍手。予告編で既に期待値が高かったが、本編ではその期待値のさらに上回った。そして、原作の世界観に囚われることなく、生きた人間を描くことに注力したのが素晴らしい。原作のコメディ要素をざっくり切ったのは英断で、シリアス路線こそ原作の魅力が活きると思っていたが、まさにその通りだった。同監督の「るろう~」の前後編もそうだったが、2部作映画はこれくらいの完成度が欲しい。島田さんは実写でもカッコよかった♪

孤独な高校生プロ棋士の少年が、多くの人たちとの出会いを経て、成長していく姿を描く。

主人公「桐山」を演じた神木隆之介をはじめ、登場するキャラクターがことごとく、原作キャラのまんま。まるで、漫画からそのまま飛び出してきたような仕上がり。原作キャラのなかで一番好きな「島田」役の佐々木蔵之介なんて、その登場シーンを見るなり「わっ!島田さんだ!!」と思わず吹いてしまった。原作イメージとの乖離を懸念していた有村架純や伊藤英明も、そのビジュアルこそ違えど、原作キャラの個性を見事に再現していて違和感がなかった。浮世離れして実写のイメージのつかなかった「宗谷」も、加瀬亮の佇まいでキマっている。人気の高い原作とあって、本作のキャスティングには妥協がなかったようだ。

漫画で描けることと、実写で描けることは違っていて、漫画で描いたことをそのまま実写で再現しようとすると大抵コケる。それぞれの限界や相違を認識するというよりは、それぞれの長所を伸ばすことが面白い作品を生み出すと思う。結果、原作を知らない人も楽しめる映画になる。そんなことを改めて感じさせる映画だった。本作は漫画の実写化ではなく、漫画原作の人間ドラマだ。

原作の魅力は、主人公を中心とした人間模様にある。主人公が出会う3姉妹家族との交流を始めとする人情劇と、底なし沼の棋士界で厳しく険しい戦いの記録。個人的には後者の物語に引かれていた。主人公が生きるために選ばざるを得なかった将棋の世界で、自身の孤独や弱さと対峙し、個性豊かなキャラクターたちと触れ合い揉まれ、成長を遂げていく。そんな主人公の個性を語る上で必要な描写は、本作で過不足なくピックアップされている。親友「二階堂」との出会いのシーンが漏れていなくて良かった。

原作で受けた感動が、映画ではより近くに感じられる。描かれるのは、漫画のキャラではなく、血の通ったリアルな人間だからだ。時間を惜しまない丁寧な人物描写がとても印象的。「るろう~」を始め、最近はアクション映画のイメージが強い大友監督であるが、もともとNHKドラマでキャリアを積んだ人だ。実写でそのまま描いたら寒くなる部分も巧くアレンジしていて、エモーショナルなシーンも空回りすることなく胸に響いてくる。原作では笑いを狙ったシーンも多いけれど、本作ではほとんどスルーされており、ここは原作ファンによっては賛否が分かれそうだが、自分は本作のシリアス路線を大いに支持する。人物描写にじっくり時間をかける一方で、実際は長時間に及ぶ対局シーンを短縮して編集するなど、映画への集中力を切らさない工夫も効いている。原作漫画において愛されキャラであった「ふくふく猫」は、もっと劇中で映してもらってもよかった。

キャスト陣の繊細なパフォーマンスに引きつけられっぱなしだ。主人公の桐山を演じられるのは、外見を含め神木君しかいなかっただろう。クールな表情のなかに微細な感情の揺らぎと、孤独を背負う暗部が見える。彼の子ども時代を演じた子役の男の子もそっくりで桐山の雰囲気を崩さない。桐山の親友「二階堂」演じた染谷将太は、本作キャラの中で最もアクションの大きい演技を要求されたが、特殊メイクのハンデをモノともせず、ナチュラルに個性派キャラを体現する。そして、原作キャラのなかで一番好きな「島田」役は、佐々木蔵之介でドンピシャだった。原作者は佐々木蔵之介をイメージして「島田」を描いたと思えるほど。枯れて憂いある眼差しの奥に秘めた強さ、山形の希望の星として受けるプレッシャーと滲む哀愁。桐山との初対極シーンで、島田がカッコよくて堪らない。

エンディング後では、来月に公開される後編の予告編が流れた。それを見た限り後編では、原作から大きな脚色がありそうだ。次回作が待たれる注目監督、渡部亮平が脚本を担当していることもあり、どんな物語が展開するのか期待して待つ。

【70点】

コメント
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