そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「さらば財務省!」 高橋洋一

2008-06-05 22:37:19 | Books
さらば財務省!―官僚すべてを敵にした男の告白
高橋 洋一
講談社

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池田信夫ブログなどで取り上げられることも多い高橋洋一氏の著作。
高橋氏は元・財務官僚ですが、小泉政権時代、竹中平蔵大臣の懐刀として郵政民営化、道路公団民営化、政府系金融機関改革などの「構造改革」路線のシナリオを書き、竹中氏が政界を去った後も安倍政権において内閣審議官として公務員制度改革などに取り組み、昨今話題の国の特別会計における「埋蔵金」を暴露した人物としても知られています。

この本のサブタイトルは「官僚すべてを敵にした男の告白」となっていますが、既存の官僚秩序の頂点にあった大蔵省・財務省に身を置きながら、その秩序をぶっ壊す改革の「コンテンツ・クリエーター」として暗躍したわけですから、総スカンを食うのも当然。
小泉-竹中の構造改革路線といえば、弱肉強食の格差社会をもたらした、といった主旨で非難されることも多いわけですが、この本を読むとそのような新自由主義的なイデオロギーがまずあったわけではなく、このまま国を官僚に任せていたら日本が本当に沈没してしまうという深刻な危機感がプリミティブな動機として存在していたことがよくわかります(結果的にはそれが「小さな政府」を目指すことにつながっていくわけですが)。
実際、この本の中で紹介されている、官僚が省益・官益を守るために繰り出す数々の手段の姑息なことと云ったら、唖然とするのを通り越して感心してしまうほど。

高橋氏は、もともと理系で、東大理学部数学科を出た後就職に失敗して、東大経済学部に学士入学・卒業した後大蔵省に入省したという異色の経歴の持ち主。
大蔵省には話題作りのために二年に一人くらいの割合で変わった経歴の人物を採用する「変人枠」というものがあり、自分はそれで採用されたのではないかと振り返っています。
大学の数学科では年金数理を学び、会計や金融工学にも明るく、理財局時代には財投にALM(資産・負債の総合管理)システムを自ら開発して導入、プリンストン大学留学時にはバーナンキ現FRB議長をはじめとする一流経済学者と親交を深めるなど、幅広い分野への博識を有する人物。
もしこういう人が役人の世界に存在していなかったら、日本の公制度改革はずっと遅れたのは間違いないでしょう。
財務省にとってみれば、「変人枠」で採った飼い犬に手を噛まれたようなもので皮肉な感じがしますが、逆にいえばそういった異分子を自ら取り込む懐の深さがあったとも言えるのかもしれません。

この本は「暴露」的な要素も含めて一般向けの内容になっていますが、著者には「財投改革の経済学」という専門的な著作もあり、自分の手に負えるレベルのものかどうかはわかりませんが、機会があればぜひそちらも読んでみたいと思っています。

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