そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「きみ去りしのち」 重松 清

2010-09-20 22:44:00 | Books
重松清は、やはり良くも悪くも日本人的だな、と改めて感じました。

肉親を亡くすということについて、遺された者たちの心情を極めて繊細に描き出しているなと思う一方、その踏み込みの甘さにどうしても物足りなさを憶えてしまう。
阿蘇の草原で「美恵子」と「洋子」が初めて顔を合わせる場面、二人が会うことによって何が起きるのか。
自分はその期待に胸を高揚させたのですが、重松清はそこをいつも通り避けて通ってしまう。
それを優しさと受け取るか、厳格さの欠如と感じるか。
自分のような人間には、どうしても後者の印象が勝ってしまう。

加えて、この小説は、章ごとに一つの小さな「旅」が収められる構成となっている。
そして旅先での主人公と初対面の人々との出会いが描かれる。
ちょうど、テレビの連続ドラマで、各回ごとに有名俳優がゲスト出演するかのような。
これがまた、小説全体をスケールダウンさせているように感じられる。
長編小説ならではの、大河的な情感が生まれてこない。
肝になるはずの風景描写も今一歩真に迫ってこない感あり。
流氷の場面など、読んでいるこっちに、それこそ「ドーン」とくるほどの筆致が欲しかった。

…と文句ばかりですが、悪くはないです。

きみ去りしのち
重松 清
文藝春秋

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