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「地球と一緒に頭も冷やせ!」 ビョルン・ロンボルグ

2009-04-17 23:33:06 | Books
地球と一緒に頭も冷やせ! 温暖化問題を問い直す
ビョルン・ロンボルグ
ソフトバンククリエイティブ

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「温暖化問題を問い直す」との副題がついていますが、著者は地球が温暖化していること自体を否定しているわけではありません。

確かに温暖化はしているし、温暖化に人為的な要因が影響しているのもおそらく間違いないし、CO2を削減すれば温暖化が緩和されるのも事実だろう。
だけど、物凄いコストをかけてCO2削減に取り組むことが、本当に賢明な策なのか、立ち止まって冷静に考えてみようよ、という本です。

著者の主張点は大きく2点。

地球温暖化が進んだとしても、アル・ゴアやメディアが喧伝するような暗黒の未来―氷河融解による海面上昇、ハリケーンの強大化による被害の甚大化、メキシコ湾流が止まることによる欧州の寒冷化、伝染病の蔓延-が到来する恐れはないということが1つ。
冷静なデータ分析と、専門家の学説を紐解きながら、その根拠が説明されます。
温暖化がこのまま進めば、暑さで死ぬ人は確かに増えるかもしれないが、寒さで凍え死ぬ人がそれ以上に減る。
ハリケーンの被害額や海面上昇により危険にさらされる人々が増えているのは事実だけど、それは温暖化のせいというよりも、危険な地域に住む人口が増えていることの影響の方がずっと大きい。

そしてもう1つは、温暖化による悪影響を減らすための方策として、CO2削減はきわめて費用対効果が低い対策である、ということ。
京都議定書を実現したところで温暖化は止まらず、効果が出るのはずっと先の話だし、しかも数年先延ばしをするだけ。
その程度の効果しか生まない京都議定書ですら、各国は削減義務を守れないでいる。
なぜなら、京都議定書を守るには莫大な社会的コストが発生するから。
そんな大した効果を生まないCO2削減なんかにコストをかけるよりも、もっと別な方法―社会政策や世界の貧困層の所得を上げる経済成長―を優先したほうがずっとよい結果を得られるだろう、ということ。

この本に書かれていることと、温暖化の危機に警鐘を鳴らす世間の論調の、どちらが正しいのかを判断することは自分にはできません。
が、著者の説明が冷静で客観的であることはこの本を読めば伝わってくるし、何よりCO2という「手段」が「目的」化しているようにしか思えない今の風潮の異常さが際立って感じられるようになります。

著者の主張で、もっとも共感するのは、すべては「トレード・オフ」だと考えている点です。
温暖化を防ぐことも、CO2を削減することも「よいこと」であるのは確か。
「よいこと」ならやればいいじゃないか、というのは正しい。
だけどそれには莫大なコストがかかる。
限りあるコストを投下するには、「何が優先するか」をよく考えるべき。
CO2削減のためにコストを使い切ってしまったら、もっと費用対効果の高い他の対策に手をかけることができなくなってしまう。
優先度や公平性を考えずに、「やらないよりやった方がいいんだから」という考え方が盲目的にまかり通ってしまうのは、今の「景気対策」なんかを見ても同じですね…

というわけで、なかなかの良著だと思いますが、データ分析や解説が丁寧に行われる分、同じような話が繰り返し出てきて、「読み物」としてはやや冗長な気もしました。

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