そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「橋」 橋本 治

2010-12-12 20:43:22 | Books
「巡礼」「リア家の人々」を繋ぐ、橋本治・戦後三部作の二作目…なんですが、自分は「リア家の人々」を先に読んでしまいました(この作品知らなかった…)。

実在の殺人事件をモチーフに、加害者となった女性二人が斯様な凶行に至ることになるまでの半生を、昭和から平成にかけての社会状況の変遷を背景にしながら詳らかに冷静な視点で語っていく形式は、「巡礼」と共通するものがあります。
時代的には、高度経済成長が終焉を迎えて「日本列島改造」を訴える総理大臣が登場した70年代から、束の間の「地方の時代」を経てバブル崩壊とともに地方が疲弊していく90年代までが中心。
中学の同級生である二人の母、田村正子と大川直子は団塊世代、そして彼女たちの娘である田村雅美と大川ちひろは自分と同じ団塊ジュニア世代。
田村雅美は、ピンクレディが解散した1980年に小学三年生ということで自分と同学年の設定なので、彼女たちが辿った時代感はリアルな感覚で捉えることができました。
地理的な設定は、日本海側の架空の地方都市を舞台にしていますが、いくつかの描写から、「角津」は長岡、「豊岡」は新潟をモデルにしてるのかな、と感じました。

三部作に通底するニュートラルな筆致で、二人の少女の父母が如何にして出会い、家庭を築き、少女たちの子育てにいかなる姿勢で臨んだのか、そして、その結果二人の少女がいかにして些かコミュニケーションに弱点のあるパーソナリティを育むこととなったのかが丹念に綴られていきます。
そこに上述したような日本社会の変遷という背景が重ねられていくわけですが、やはり著者は田村正子や大川直子の世代の人だけあって、彼女たちやその夫たちが時代の流れに合わせて彼女たちなりに懸命に生きていく様に生々しいリアリティが感じられる一方、田村雅美や大川ちひろ、娘たちの世代の”育ち”と社会状況の関わり合いについてはイマイチ上手に表現しきれていないような印象を受けました(自分が同世代だけにそう感じるのかもしれません)。
特に大川ちひろについては???です。
著者も結局消化しきれていないような。

個人的に三部作を評価するなら、「リア家の人々」>「巡礼」>「橋」でしょうか。

橋本 治
文藝春秋

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする