そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「9条どうでしょう」 内田 樹、小田嶋隆、平川克美、町山智浩

2007-03-12 23:35:14 | Books
9条どうでしょう

毎日新聞社

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最初に書いちゃうけど、自分は憲法論議、特に9条改正に関わる論議に基本的に興味が無い。
護憲派の言うように、9条を変えてしまうことで、ただちに日本が「かつて来た道」を再び辿り、戦争をいきなりおっぱじめるとも思えないし、逆に、改憲派の言うように、9条を変えれば戦後日本か抱えてきたあらゆる問題点が一気に払拭されるというのも俄かには信じられない。
平和なときは平和だし、戦争は常にやるべきではない。
それは9条があるかないかとは、本質的に関係のない話ではないかと思う。
9条を変えることが問題なのではなく、戦争を起したい人間が増えることが問題なのではないか。
9条は抽象的なシンボルでしかない。
抽象的なものには力を感じないのだ。

そんな自分に、これまでにある無数の憲法論議と異なり「護憲・改憲の二種類の『原理主義』のいずれにも回収されないような憲法論」を目指したというこの本が、まったく新たな視座を与えてくれるのではないかと、期待を持って読んだのだが・・・
正直、期待はずれだった。

なんだか、新しいこと、初めて触れるような画期的な知見が現れてこない。
何より、四人の論客が分筆する形式をとっていながら、四者の結論がまったく同じなのが、読み物としてまず面白くない(もちろん文章のトーンやロジックの展開は異なるけど)。
「9条の条文と自衛隊の存在は確かに矛盾してるけど、矛盾してるからこそ良いのだ。」
「9条の思想は確かに理想主義だが、理想主義で何がいけないのか。」
「9条があったからこそ戦後60年間、日本人は戦争で誰も殺さなかったのだ。」
どこかで聞いたようなスローガンばかりだ。
特に、改憲派が唱える「普通の国」概念への批判にいたっては、四人が四人とも同じように行なっている。
こんなんだったら分筆する必要無かったんじゃないの?

内田氏の文章の妙味はさすがだし、9条と自衛隊の矛盾はアメリカにとっての当然の戦略だとする解説のあたりはちょっと面白かった。
1984年を戦後パラダイムが転換していく潮目と位置づける平川氏の主張も興味深い。
が、それくらいだ。
町山氏と小田嶋氏の文章については、申し訳ないが何一つ惹かれるものがなかった。

皮肉な話だが、この本でいちばん面白かったのは、内田氏による「まえがきにかえて」。
「護憲・改憲の二種類の『原理主義』のいずれにも回収されないような憲法論」の書き手たる資格をユーモアたっぷりに論じている。
ここはかなり面白かったのだが、前書きの内容に値するだけの本論が展開されることは無かった。

先日、このブログで紹介した、呉智英氏の「ホントの話 誰も語らなかった現代社会学全十八講」
その中にも9条に触れた部分がある。
こっちのほうがよっぽど自分の感覚には合っているので、引用してみたい。

戦後の日本の豊かさが、軍備に金をかけなかったことによるものであるのは、誰の目にも明らかです。国民は豊かさを享受したいにきまってますから、軍備は最小でいい。別に、平和を愛するという崇高な精神から軍備は小さくていいというんじゃない。ただ楽をしたいからなんですね(笑)。実際の政治というものは、そんなものです。

冷めてる、と言わば言え。
冷めてて何が悪いのか。
皆が冷めてりゃ、戦争も起こりゃしないんじゃない?
コメント
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