臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

一首を切り裂く(093:全部)

2011年01月27日 | 題詠blog短歌
(髭彦)
○  寅さんの「全部持ってけ!ドロボー!」のせりふ浮かびぬバナナ安きに

 あの方は何もかも捨てて彼岸の人となられました。
  〔返〕 代官山駅で出逢ひし寅さんは此岸の人にありにき確か   鳥羽省三 


(リンダ)
○  小出しこそ愛が冷めない秘訣だと全部さらけてわかる結末

 いやいや、リンダさんは未だにその実力の一割程度も「さらけ」出してはいません。
 新しい年こそは、実力を「小出し」などせずに十分に発揮した作品をお詠みになって下さい。
  〔返〕 小出しする癖を付ければ冷めもするねちねちせずに大胆に出せ   鳥羽省三


(行方祐美)
○  けふの雨の降りつづけゐてわたくしの全部の窓をぬかりなく濡らす

 「わたくしの全部の窓を」という表現の意味深さよ。
 その意味深い「わたくしの全部の窓をぬかりなく濡らす」ほどに、「けふの雨」は小止み無く「降りつづけ」ていたのである。
 しからば、「けふの雨」とは、小止み無く降り注がれる“癒やし”の比喩なのかも知れません。
  〔返〕 小止み無く降り注ぎゐし雨も止み山門脇の閻魔あらたし   鳥羽省三


(眞露)
○  九品仏山門脇の閻魔堂怒りも欲も全部剥ぎ取り

 そう、その通りでございます。
 閻魔様の前では「怒りも欲」も捨て、一切、嘘を付く気もございません。
 ただただ怖れひれ伏すばかりでございます。
  〔返〕 九品仏山門脇の閻魔様どうぞ我が子をお守り下さい   鳥羽省三


(鮎美)
○  かなしみはコントラバスのおほきなる胴の全部も震はせてゆく

 オーケストラの最低音域を担当するのが「コントラバス」の役割りである。
 格別な音楽ファンでも無い私のような者が、この巨大な楽器の活躍場面を耳目にするのは、サン・サーンス 作曲の『動物の謝肉祭』の「象」であるが、あの巨大で緩慢な象の動作や鳴き声を表わすのに、独特のなで肩でくびれがあり、湾曲の表板をもったこの楽器の「おほきなる胴」の全てが震えているような感じである。
  〔返〕 鳴きながらのっしのっしと象が往くコントラバスの胴が震える   鳥羽省三


(青野ことり)
○  いまならば全部ひらいて見せましょう底なし沼のにおい手触り

 「底なし沼のにおい」も「手触り」も「全部ひらいて見せましょう」と言う「いま」とは、何時のことですか?
 そんな危なっかしいことを平気で仰る、青野ことりさんという女性の真実は、「底なし沼」のような底知れぬ深みの果ての泥濘なのかも知れません。
 いや、その泥濘に根を張って咲く美しい蓮の華なのかも知れません。
  〔返〕 泥濘の匂ひを嗅ぐも恐ろしく触れてみるのは更に怖ろし   鳥羽省三


(ウクレレ)
○  スリッパが全部廊下に集まってババ抜きをする和室のこたつ

 普段は、それぞれ個室に引き篭もっている大家族でありましょうか?
 おや、「ババ抜きをする」と言うにの「ババ」も居ますね!!
 「ババ」が「廊下」の「スリッパ」を揃えている!!!
 「和室のこたつ」は、テーブルを兼ねた超大型の長方形の「こたつ」に違いありません。
  〔返〕 ウクレレが床の間の隅に置かれてる冬の間は使わぬらしい   鳥羽省三


(南野耕平)
○  まさかとは思うけれどもこれ全部君がやったのかって訊いてよ

 一首全体が、恋人同士の男性が女性に語り掛けた会話なのである。
 「これ」とは何か?
 「これ」とは、男性の部屋全体に転がっているインスタント麺類の殻なのである。
  〔返〕 まさかなど言ってられない。わたしこれ一人で全部片付けるわね。   鳥羽省三


(鳥羽省三)
○  保全部は緑の網で囲われて木地師マタギら立ち入り禁止

 国土地理院から発行されている、東北地方の『環境保全地図』を見て詠んだのである。
  〔返〕 地図を見ただけでは知れぬ実情はカモシカや熊うようよしてる   鳥羽省三


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