馬車の中で
私はすやすやと眠つてしまつた。
きれいな婦人よ
私をゆり起してくださるな
明るい街燈の巷をはしり
すずしい緑陰の田舎をすぎ
いつしか海の匂ひも行手にちかくそよいでゐる。
ああ蹄ヒヅメの音もかつかつとして
私はうつつにうつつを追ふ
きれいな婦人よ
旅館の花ざかりなる軒にくるまで
私をゆり起してくださるな。
萩原朔太郎 馬車の中で
-☆-
昼さがり 知らない町を歩いてみたら とつぜん空き地にでた
初夏の風吹くなかを 馬車は夢うつつのように走っていた…
起してくださるな… 野の草は揺らめく
クローバー 赤詰草(紫うまごやし 苜蓿モクシュク)
オニタビラコ スカンポ チガヤ……
赤花夕化粧? 昼なのに