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映画「聯合艦隊司令長官 山本五十六」

2011-12-29 | 映画

    

封切して2日目、TOと息子はミッションインポッシブル3、わたしは同じ映画館で、
「連合艦隊司令長官 山本五十六」を鑑賞してきました。
このブログの読者の皆さんには全く不思議ではないと思われるこの行動、
客観的に見ると、変です。
パパと息子MI3、ママは一人で「セックス&シティ」(やってませんが)ならわかるけど。
日曜だというのに客席はまばら、年齢層は圧倒的に中高年層の男性が多く、
付き合わされている同伴の女性がちらほらいる程度。
女性一人で観ている客は、ざっとみたところわたしだけでした。



呉で予告編を見たときに「きっとろくな映画にはならないと予測する」
などと大言壮語したエリス中尉ですが、そのときに懸念された
「より反戦的に、より自虐的に」ストーリーを運ぶのではないか、ということについては、
心配したほどではありませんでした。
むしろ、そういう方向からできるだけ「個人としての五十六を描く」という方にシフトすることで、
よく言えば視点を変えて、悪く言えば戦争に対する考え方そのものの焦点をぼかして、
そっちの問題についてはうまいことはぐらかすことに成功していると思われました。

で、結論から言うと、面白かったです。
小賢しい平和礼賛への扇動も無く、見た限り逸脱するような捏造も無く、そのあたりは、
監修に当たった半藤一利氏のお目付けが効いているのかな、と。
ただ、これを良いと言っていいのか悪いと言っていいのか、面白かったからいいんですが、
良くも悪くも山本五十六が好きで好きでたまらない人が作った、という映画なんですね。

どうも、原作を手掛けた半藤一利氏は、山本五十六のファンのようだ。
そう思って後で調べたら、ご本人、堂々とそう言っておられます。
新潟県長岡中学校の先輩なんだそうで、「それでは冷静な歴史観など持てないではないか」
とどんなに権威ある識者に言われても半世紀というもの説を曲げることなかった
「筋金入りの山本びいき」であると。

ならばよし。

って、なにが良しなんだかわかりませんが、つまりこれは
「五十六好きによる、五十六好きのための」 
映画である、と位置づけるならば、全てが得心のいく映画となっています。

読者の中には、エリス中尉がこの手の映画に箸の上げ下ろしに文句を言う姑の如く、
あるいは重箱の隅をつつくが如く、揚げ足を取るために眼を皿のようにして画面を観たのでは、
と思われた方もおられるかもしれませんが、

違います。

なんかもう、思いっきりこう言う映画、好きなんですよね。
冒頭に挙げた「これはいくらなんでも酷過ぎる」美化キャスティングも含めて、
我々の知る限りの情報が、今の映画界でどのように具現化され得るか、ということ自体が、
たまらなく面白く、心の中で突っ込みまくりながら心行くまで楽しんでしまいました。

戦争ものに限らず、実在した人物の映画化については、
この役をやるのならだれ、と誰しも心に描くキャスティングがあると思うのですが、
それにしても阿部寛の山口多聞とは・・・・。
何でしょうね、この配役。

阿部ちゃんをどこかに出したいのだが、誰に割り振っても「そりゃー男前すぎるやろ」
と言われることは必至なので、せめて共通点が「長髪であった」というだけで決まったとか。
おまけに、沈みゆく飛龍と運命を共にするのが、山口少将一人っきりと言うことになってる。
観ていて「私もお供します」って、艦長が出て来ないのでまだかまだかとやきもきしていたら、
遂に一人で艦に残っちゃいましたよ。山口多聞。
加来止夫艦長の立場はっ?!
配役の関係とか、時間の関係とかあったんでしょうけど、この節約はいただけなかったわ。
だって、こういうのがちゃんと描かれているのが見たいでしょう?観客としては。

椎名桔平は「誰の役でもいいから出たい」と自分で名乗りを上げてこの役が決まったそうです。
椎名さんは個人的には好きですが、黒島参謀にしては何となく小奇麗すぎる気がしますね。
もっと変人っぽい役が上手い人、佐野史郎みたいな感じの役者がよかったな。

吉田栄作の三宅義勇参謀は、三宅参謀の写真が出て来ないにもかかわらず、
男前すぎると決めてかかって、三宅参謀には失礼なことになってしまいましたが、それはともかく、
最近、俳優としての吉田栄作に非常に興味があります。
今回、山本長官の変人ぶりに付き合わされても文句ひとつ言わず仕える役なのですが、
なかなか、この「こらえっぷり」が、いい演技だなあ、と。
この俳優さん、変なトレンディドラマできゃあきゃあ言われて人気が出ましたが、
そこで天狗にならず、一旦日本を離れ、じっくり演技派に転向していったのが、
最近実を結びつつあるようですね。

あと、どうしても納得いかなかったのが、柄本明の米内光政
出てきたとき、状況とセリフでほとんど誰なのかわかったのですが、この米内大臣だけは
あまりにも予想と反対で、全く分かりませんでした。
しばらく、永野修身と思っていたくらいです。
永野修身は伊武雅刀。この永野はぴったり)
米内光政は・・・そうだなあ、長塚京三なんかがいいのでは?
ついでに言えば、わたし的には井上成美はやはり中井喜一一択。
柳葉敏郎は、表情でもあの渋い井上局長を演技してそれなりでしたが・・・
山本長官より背が低い井上成美というのは、いかがなものか。

この映画は、軍部の外の代表として「東京日報の編集部」と「町の飲み屋」をセレクト。
飲み屋のおかみやそこの常連、ダンサーのおねえちゃんに「一般の日本人」を語らせています。

そして、今回はどんな役をしてくれるのかといつも注目の香川照之は、東京日報の主幹、
世論をあおり戦争をあおり、マスコミの意見こそが国民の総意である、と、
選民意識まみれの傲慢な「マスゴミ」っぷりを、分かりやすく演じてくれています。
なるほど、マスコミが煽ったゆえ世論は戦争に傾いていった、という説は、いまやこのように
映画になる程度には既成事実として認識されているってことですね。

おそらくほとんどのマスコミ人種がそれを判ってやっているというとも、
そして、たった一人の力ではその大きな流れを変えられないというところも、
今と一緒、ということなんでしょうね。
今のマスコミ人種がどの程度過去の反省から危機感を持っているかは全く別問題ですが。

ちなみにここでその流れに疑問を感じる代表が、若い記者の真藤利一なのですが、
名前からお分かりのようにこれは半藤利一さんの分身として登場します。
半藤氏は終戦時15歳ですので、モデルでも何でもありません。
男前すぎるだろの4傑に入れてしまったのは、まだご健在の半藤さんにも大変失礼ですね。
因みに半藤氏は編集者であった若かりし日、なかなかのハンサムでいらしゃいます。
ただ、まあ阿部寛玉木宏はイケメンすぎて誰を演じても大抵こう言われてしまうかなと。

さて、五十六好きの作った映画ですから、
五十六を魅力的に描くことに力を入れている様子がそこここに伺えるわけですが、
過去、五十六のお茶目部分をどう表現するか、については
例えば三船敏郎バージョンでは船の上で逆立ちさせるエピソードなどがありましたが、今回は
「山本五十六の食いしん坊バンザイ!」路線できました。

この役所五十六、やたらものを喰うんだ。
軍令部の長門(だったかな)の食事のときに、故郷から送らせた水餅に砂糖をたっぷりかけて、
気味悪がる皆さんにすすめながらパクパク。
同期の失脚した堀悌吉元中将の家で西瓜をシャクシャク。
真珠湾成功のパーティーの次室で干し柿ムシャムシャ。
どう見ても甘党ではない三宅参謀を無理やり汁粉屋に連れ込んで汁粉ずーずー。
一家のよき父五十六、「味噌汁から食え」などと子供を躾けつつ、
小さなちゃぶ台を四人で囲んでつつましいご飯ほそぼそ。
そして極めつけは、ミッドウェーで失敗し責任感で消え入りそうになっている南雲忠一中将
「まあ食え」とお茶漬けさらさら。

なんでこんな喰ってばかりなの?

いちいち、何か、五十六のキャラクターとか、心情とか、そういうものがこめられていて、
あまりにもこの「もの食いシーン」に、いろんなメッセージを込めすぎてないかい?
一つの映画にせいぜいこう言うシーンは一つ二つで良いんでないかい?
とついつい思ってしまいました。

なぜなら、超余談ですが、エリス中尉、昔相手の食事の時の咀嚼する音が酷過ぎて、
最初のデートでふったことがあるというくらい、ものを食べる音が生理的に嫌いなの。
なのに、なのに、この映画では
「ずるずるー」
「くちゃくちゃ」
「ぞぞぞぞー」
が、やたら「いい音」で次々と出てくるんですもの。
背中のさぶいぼが消える暇がなかったわ。

お茶漬けすするシーンは、南雲中将役の中原丈雄さん、非常に思い入れがあり、
プレッシャーでもあったので「本番で涙が出て来なくて困り果て」、
監督の「結構です」と言う言葉に、終わってから涙がでたという、
まあいわば渾身のシーンだったそうなのですが、
中原さんには初めてのことでも、観ているこちらは「うわ、またかよ」みたいな、
そう、五十六がお茶漬けを勧めたとたんにその展開が読めてしまってうんざり、みたいな。

お約束が多すぎる(少女の髪留めのシーンとか)のが、監督の力量の限界、
なんて言ってしまったら少し厳しすぎるでしょうか。
でも、あまりにも流れが読めてしまうって、映像作家として明らかに創造力不足じゃないですか?


でも、これ、このお正月にすることが無ければ、是非映画館で観ることをお勧めします。
メインではありませんが、艦隊のシーンや、航空戦のシーンの特撮、CGが、
「おお、時代はここまで来たのだ」と感慨深く大画面で観られるからです。

大和や、空母の甲板から発進する零戦、
そして何より山本長官機がジャングルの中に消えて行き爆発する瞬間。
リアリズムを超えるのが特撮、といいますが、これだけでも観る価値があると思います。
(お好きな方には、ですが)
CG協力はあの栃林秀氏。

その「山本長官機墜落の瞬間」ですが、いきなり美しいアコースティックの音楽が・・・・。
そして、「連合艦隊」の「群青」、「大日本帝国」の「契り」のノリだと思うのですが、
小椋佳「眦(まなじり)」というそれらしい、実にそれらしい歌がエンドロールで流れます。
(小椋佳、もしかして歌唱力落ちた?)
これは少し時代に逆行してるかも、と思いながら観ていて、ふと気付くと、
前の席の上品な老夫婦(すごく仲良しそうな)の、奥様のほうが、
眼をハンカチで拭っておられました。


この辺の歴史にそこそこ詳しくて、出てくる人名すべて「初耳」とかではない方であれば
いろんな意味で楽しめる映画だと思います。
DVDで観るのではなく、ぜひ映画館に観に行くことをお勧めしておきます。

 

 

聯合艦隊司令長官 山本五十六 ―太平洋戦争70年目の真実― - goo 映画



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