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令和三年度 年忘れお絵かきギャラリー その1

2021-12-29 | 映画


早いもので、令和三年も残すところ後数日となりました。
というわけで年末恒例のお絵かきギャラリーをやります。

今年は何と言ってもコロナ禍でイベント等参加の機会が無くなったため、
(そして今後もおそらく無いだろうという)ブログのコンテンツが
軍事博物館の解説と戦争映画の二本立てになってしまいました。

そして記事のボリュームが大き過ぎて(内容が濃いとは誰も言っていない)
一日一本の記事制作が負担になってきたこともあり、
いつの間にか二日に一本のアップが限度になってしまいました。

特に映画記事となると、記事のための画面キャプチャと
その中からタイトルがを選んで描いてレイアウトして効果をかけ、と、
決してそうは見えないけど本人的には大変な作業なので、
1日分の記事を2日で仕上げるのもやっとという有り様です。

しかし、今後もできるだけこのペースを死守しつつ続けていきたいと思いますので、
来年もどうかよろしくお付き合い願います。

危険な道 In Harm Way
ドロドロ人間模様系戦争映画



2020年の12月掲載です。
最近、ジョン・ウェインの戦争映画ばかり紹介している気がするのですが、
それだけ彼が多くの戦争映画に出演しているということでしょう。

タイトルの「In Harm's Way」は、アメリカ海軍の英雄、
ジョン・ポール・ジョーンズの、
「私は危険を承知で行くのだから」という言葉からとられています。

映画の舞台は第二次世界大戦の真珠湾海軍部隊。
主人公のウェインが演ずるのは重巡の艦長です。

最後の白黒映画となった当作品における彼は、
体調の悪さが画面を通じてもわかるほど老いが目立ちます。

映画は真珠湾事件に始まり、大和撃沈で幕を閉じますが、
その間登場人物はどちらかというと妻に浮気されたり、
生き別れの息子と再会したり、嫌いな男の息子の婚約者を寝取ったり、
その婚約者が自殺したり、それを苦にして自殺的攻撃をしたりと、
なかなか波乱バンジョーでドロドロした人間模様を繰り広げます。


ウェインの相手役、看護師のマギーを演じたパトリシア・ニールとは
すでに映画「太平洋機動作戦」で共演済みです。

わたしはこのパトリシア・ニールという女優、全く魅力を感じないのですが、
ウェインとの共演を2回もしているということは、
アメリカではそれなりの評価をされていたようですね。

軍人として出ている映画なのでウェインは無理やり?
ラブシーンを演じさせられていますが、この時58歳で、
海軍大将を演じるべき年齢の彼のそれは、
見てはいけないものを見せられた気になること請け合いです。
あんまり登場人物同士の人間関係がゴチャゴチャしているので、
三日目にはついに人物相関図を書かざるを得なくなりました。

「田舎出の純朴な娘」と言われていたはずの息子の婚約者、
ドーン少尉はなかなかの小悪魔ビッチで、それがアダとなり、
自分の嫁が浮気相手と事故死してしまってすっかり拗らせた
カーク・ダグラス演じるエディントン中佐に乱暴され、
子供ができてしまったので自殺するというショッキング展開。

わたしが最近作業をしながら初めてアマプラで観たドラマ「高校教師」は、
ゴールデンタイム放映作品でありながら衝撃的な性のタブーを描いており、
当時の日本社会を騒然とさせたそうですが、それより20年も前、
アメリカではこんな衝撃的な内容をしかも戦争映画に盛り込んでいたのです。

ウェインの息子を演じた俳優は映画「シェーン」の子役でした。
この後若くして事故死してしまいました。

カーク・ダグラスが演じたエディントン大佐は、自分が手篭めにした女が
自殺してしまったので、自責の念に駆られて単機出撃し(おい)
その途中に偶然大和艦隊を発見しますが、直後に撃墜されて戦死を遂げます。

なお、このときカーク・ダグラスがどうしてこんな役を引き受けたかというと、
「スパルタカス」など、その頃の一連の仕事の評判が悪く、
意に染まない役でも大作、しかもウェインと共演ということでOKしたようです。
この際「寄らば大樹の陰」という感じだったんでしょうか。

戦争映画としては骨組みがしっかりしており、機動部隊、
空挺部隊、PTボート、航空と現場が登場する意欲作で、
模型による海戦だけが残念だったという評価もあるようです。

登場人物たちのドロドロ愛憎劇を楽しむ余裕のある方ならおすすめです。


「大東亜戦争と国際裁判」
東京裁判史観に敢然と立ち向かった反骨映画

令和三年度最初に選んだ映画は、極東国際軍事裁判、通称東京裁判を
記録に残された裁判の様子をできるだけ忠実に再現しようとした意欲作です。
タイトル画は、裁判の「登場人物」の中から、
主役と言っても差し支えないであろう四人を独断で選びました。

まず初日は嵐寛寿郎演じる東條英機陸軍大将&元総理。

映画を4日に分けましたが、初日では日本が国内不況に困窮し、
満州に新天地を求めて進出したのに対し、ここに権益を持つ欧米が
ABCDラインを引いて日本を追い詰めるところから、ハル四原則、
日米交渉決裂という厳しい状況に置かれた政府の舵取りを
東條が引き受けるという過程が描かれます。

ついでに、朝日新聞がこの映画の内容に大騒ぎして火付けし、
その煙をアメリカが嗅ぎつけてGHQが問題にした、という
制作の裏で起こったいつもの騒動についてもご紹介しました。



二日目はA級戦犯として処刑された文官の広田弘毅元外相です。

この俳優は本物の広田弘毅にはあまり似ていないのですが、
広田が絞首刑の判決を受け、イヤフォンを外してから
傍聴席の娘に微笑んだという出来事が取り上げられていたので描きました。


二日目は、開戦後、勝った勝った、また勝ったったでイケイケだった日本が、
ドーリットル空襲、ミッドウェイ海戦を経て、転換点を迎え、
海軍甲事件で山本五十六大将を失い、特攻という最悪の手段を選択し、
(大西瀧治郎が丹波哲郎という無茶苦茶な配役ですが)
回天、大和特攻、(大和副長役に天知茂)サイパングアム陥落、
そして原子爆弾投下がサクサクと紙芝居調に経過説明されます。

本作のメインはどちらかというと東京裁判なので、
ここからが本題というところになります。


三日目はサー・ウィリアム・ウェッブKBE裁判長の俳優を描きました。

この俳優は本物よりスマートであまり似ていないのですが、
似てさえいれば描きたかった清瀬弁護人とブレイクニー少佐が
どちらも絶望的に似ていないので断念し、代わりに選んだ次第です。

ここからは罪状認否と裁判の経緯が実に忠実に述べられます。
わたしはブログで、映画で語られたことへの補足と、
改変されたところがあれば、その理由などについて語りましたが、
その際資料としたのは児島譲の「東京裁判」、清瀬一郎の著書などです。

3日目は、インド代表判事、ラダビノッド・パール博士を描きました。
パール判事は東京裁判の裁判官の中でたった一人の国際法の専門家です。
(というのも何だか不思議な話ですよね。国際裁判なのに)

今でこそ、東京裁判が戦勝国による敗戦国への報復であり、
法律的にはなんの正当性もないということが人々に知れ渡りましたが、
例えば小林正樹監督の「東京裁判」などでは、ドキュメンタリーと言いながら
監督本人が「東京裁判史観」に見事に染まっていたりしたものです。

その点本作品は、朝日新聞の火付けとGHQとの戦いを経て、
妥協を余儀なくされながらも、東京裁判史観の矛盾と問題点を、
なぜ日本が大東亜戦争に突入していったかを丹念に描くことで
世に問おうとした、実に勇気あるものだったとわたしは思っています。

もっと評価されても良い映画ではないでしょうか。
(決して面白くはないですが)


「シュタイナー・鉄十字賞」(戦争のはらわた)
タイトル暴走結果よければ全てよし映画

ドイツ万歳



この映画が戦争映画として有名な理由は、「戦争のはらわた」という邦題にある、
と決めつけた上で、解説を行いました。

原題は「Steiner - Das Eiserne Kreuz」シュタイナー・アイアンクロス
「戦争のはらわた」とは何の関係もありませんが、
この耳目を集めるタイトルのせいで人の記憶には残る作品になったのです。

本作は英独による合同作品ですが、主人公のシュタイナーは
どうみてもドイツ人ぽくないジェームズ・コバーンです。

舞台は1943年、ロシア戦線。
できる男ロルフ・シュタイナーは、再度任務を成功させ軍曹に昇進し、
鉄十字も授与されていますが、彼はそんな栄達に無関心です。

彼の宿敵として登場するのは、指揮官として赴任してきた
上流階級の傲慢なプロイセン人大尉シュトランスキー。

シュタイナー隊がロシア軍と血みどろの戦いでこれを制圧した後、
シュトランスキーはそれを自分の功績だと主張し、
戦闘中逃げ隠れしていたくせに鉄十字賞を欲しがります。

そして、同性愛者であるトライビヒ中尉を脅迫して、
功績の証人にさせることに成功しますが、シュタイナーの方は
昇進をちらつかされても全くそれに食いつこうとしません。

シュトランスキーは、報復として、ブラント大佐の前線撤退の命令を
シュタイナー隊に伝達しなかったため、彼らは取り残され、
敵に囲まれ生存のための戦いを余儀なくされるのでした。

シュトランスキーに弱みを握られて味方を攻撃させられ殺されたトリービヒ中尉、
ドイツ軍に拾われて「羽を休めた」ものの、戦死するロシア軍の少年兵、
最後の最後まで男前だったブラント大佐、屈折した複雑なキャラキーゼル大尉。

そういった脇役の一人一人の描き方が際立っていて、個人的には
ペキンパー監督の画期的なスローモーションによる戦闘シーンの衝撃よりも、
映画を支えるストーリーラインに深みを与えていると感じます。

戦争映画ファンならずとも鑑賞しごたえのある佳作です。
ただ、もう少し主人公はドイツ人らしい人にして欲しかったかな。



「アイアンクロス ヒトラー親衛隊《SS》装甲師団」
パッケージに偽りありのネイチャーポエム系ナチス映画



昨今は誰でも簡単に写真が加工できるため、
SNSの自撮りは絶対に信用してはいけないというのがネットの世界の常識です。

一生SNSの中だけで生きていくつもりならともかく、マッチングアプリなどで
SNOW加工しまくった写真を挙げる人は一体何を考えているのでしょうか。

加工写真で期待値を上げられまくった相手が、実物を見てドン引きするとか、
そもそも本人だと思ってもらえないことを問題だと思わないのでしょうか。

なぜこんなことを書いているかというと、この映画のタイトルとパッケージが
明らかにそれを期待して購入する人を裏切っており、
パッケージと全然中身が違うじゃないかー!と堪え性のない人なら怒り心頭、
という加工詐欺に通じるものがあると思うからです。

タイトル「アイアンクロス ヒトラー親衛隊《SS》装甲師団」
パッケージには大きな鉄十字をバックに疾走する戦車、
「ナチス最強の部隊 最後の戦い」
「”悪魔”と恐れられたナチス親衛隊の視点から
戦場の恐怖と真実を暴く衝撃の戦争大作!!」

こんな「加工」に興味を持って映画を見た人のほとんどは、
自然をバックに朗読されるネイチャー系ポエムや、兵士たちのつぶやきに
がっかりし、ついでイライラしてくること請け合いです。

繰り返しますが、原題は、アイアンクロスとも悪魔ともあまり関係なさそうな、

My Honor Was Loyalty「我が誇りは忠誠心」
LEIBSTANDORTE「ライプシュタンダルテ」

であり、ライプシュタンダルテは、

「第1SS装甲師団 ライプシュタンダルテ・SSアドルフ・ヒトラー
1. SS-Panzer-Division"Leibstandarte SS Adolf Hitler"


という師団名のことです。
さらに原題は、

My Honor Was Loyalty「我が誇りは忠誠心」

これは、ライプシュタンダルテのモットーであるドイツ語の

Meine Ehre heißt Treue「忠誠こそ我が名誉」

を、過去形にしたものとなります。
そしてその内容はというと。

主人公のルードヴィッヒ・ヘルケル軍曹は、エリート第1SS装甲師団
LeibstandarteSS AdolfHitlerの献身的で愛国的な兵士。

彼はそのほかのほとんどの兵士と同じく、国に愛する妻がいて、
ナチスのドグマに共鳴し、国のために入隊を決めました。

行動が始まると、彼とその小隊はソビエト軍との戦闘で、
経験豊富な歩兵の小グループと交戦しますが、爆発に巻き込まれたヘルケルが
ぼんやりと森をさまよううち、たまたま同じ故郷出身の別の兵士に出会います。

休暇で帰郷した時、彼は兵士の妻がユダヤ人であるということで
虐殺されるのを目の当たりにし、自分の信奉する教義への疑問が芽生えます。

西部戦線に戻った彼は、疲弊していく自軍の力、戦友や尊敬していた上官の喪失、
敵味方両軍における捕虜への戦争犯罪行為を目撃するのでした。


この後当ブログはあのネイチャー系ポエム戦争映画の嚆矢となった
「シン・レッド・ライン」を手掛けるわけですが、今にして思えば、
このイタリア映画(!)は、それをロシア戦線でやろうとしたのです。

わたしがこの映画で評価したのは、ドイツ人によるドイツの映画でないため、
親衛隊の兵士を他の国の、あの戦争に参加した全ての兵士と同じく
「顔のある」普通の人間として登場させたという点に尽きるでしょう。

戦後、ナチスを絶対悪としてしか描くことを許されない世界観の中で、
これを試みたことは、ある意味大変挑戦的だったということができます。

パッケージにつられて買った人はおそらく失望したと思いますが、
わたしはこの点から高評価を与えたいと思います。


続く。