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炎輪(えんりん)〜令和元年度 自衛隊音楽まつり

2019-12-16 | 自衛隊

防大儀仗隊の演奏が終わると、音楽まつり名物、自衛太鼓です。
ところでこのとき、アナウンスで英語の「自衛太鼓」のことを

「Japan Self-Defense Force Japanese ナントカ」

と言っていたのですが、「ナントカ」」は「ドラム」ではありませんでした。
聞き取れなかったので気になって仕方がないのですが、
どなたかここが聞き取れた方、ご教示いただければ幸いです。

参加はこれまでの音楽まつり史上最高となる15チーム、総勢250名。

去年の音楽まつりで、開場を待つ列の前に自衛太鼓のOBだったという方がいて、
その方から自衛太鼓の選抜方法や練習について色々とお聞きしたものですが、
そのときに一番驚いたのは、陸自の場合多くの駐屯地がチームを持っていて、
音楽まつりに出られるのは選抜された一部だけだということです。

しかし今年はフロア面積がほぼ二倍?くらいの代々木体育館になり、
出演できるチーム数が増えたので、毎年当落の知らせに一喜一憂する
「ボーダライン」のチームにとっては
朗報となったことでしょう。

今年の自衛太鼓のテーマは「炎輪」(えんりん)。
文字通り炎のように激しく燃え上がる太鼓の輪を意味します。

自衛隊には実に多岐にわたる職業がありますが、このテーマを考える人と、
艦艇の名前(特に潜水艦)を考える人は大変だろうなといつも思います。

自分の考えた言葉が大々的に広報されることになるので、
どちらも大変やりがいがあるでしょうけれど。

早速最初の「炎輪」が中央に形成され、演舞が始まりました。

予行演習でわたしのとなりにいた女性たちは、初めてらしく、
大音響と振動ににびっくりしていましたが、わたしは、武道館での、
あの建物全体が震え上がるような、地鳴りのなかに体を埋めているような
異世界的体験を思うと、明らかに別物に感じられました。

ただ、こちらの会場での自衛太鼓が良くなかったというわけではありません。
広い会場を得て出演チームを増やした今回の自衛太鼓は、
もし今後こちらでの公演が継続されれば、さらなる進化を遂げるだろうという
予感を感じさせるに十分なものでした。

真ん中にできた一つの輪の周りに、両側に見えるように太鼓が並んで
「どどんど ・どどんど・ どんどんどん」
という連打から始まります。

出演各チームが工夫を凝らしたユニフォームで登場しますが、
これらの活動は自衛隊の任務とは全く関係がないので、
ユニフォームや太鼓などを調達する資金も自分たちで補っているはず。
(たまに地元の篤志家の寄付という例もあるかもしれませんが)

全体で叩いていると、観客席からはほとんど見えませんが、
写真を撮ってみると、こんなことしてたんだとわかることがあります。

連打の合間にバチをくるっと宙で回転させています。

演舞にはときどき全員による「やあー!」という掛け声が入ります。
自衛官というのは日頃から大きな声で話す訓練を受けているのに、
その声の大きなひとりひとりが腹の底から声を上げるのです。

現在女性自衛官は自衛官全体の10%だそうですが、自衛太鼓においても
ほぼ同じ割合で
女性奏者の姿を見ることができます。

平常の勤務では後ろで小さくお団子にしている髪を、ステージでは
和風のまとめ髪にして櫛をあしらっているのが艶やかです。

こちらの女性自衛官も、ユニフォームに合わせて”くのいち”風ヘアで。

去年伺った話によると、チームが音楽まつりに選ばれても、万が一
一人の隊員が不祥事を起こしたら、即出場停止だそうです。
音楽まつりは「自衛太鼓の甲子園」である所以です。

最初のパートが終了すると、小太鼓の連打が続く中、
配置転換が行われます。

最初の輪の周りにあっという間に小太鼓で二つの輪が形成され、
三つの輪が並びました。

今年のテーマの「輪」という文字はここから生まれたのでしょう。

大太鼓はその両側に文字通り「ドラムライン」を形成します。

5つのチームごとに一つの輪が形成されている状態。
炎がたぎるような演舞を続けている三つの輪の中に
各チーム名を記したのぼりが立てられました。

「やあー!」

という全員の一声をもってこのパートが終了すると、
次からは
恒例の各チームごとの演舞になります。

最初は熊本西特連太鼓

熊本市にある西部方面特科連隊(野戦特科部隊)に所属するチームです。
西部方面隊唯一のFH-70を装備する部隊だとか。

同部隊は2018年の再編まで第8特科連隊といい、太鼓チームは
「熊本八特太鼓」という名称だったそうですが、部隊新編のため
「熊本西特連太鼓」と改称しました。

「八戸陣太鼓」

は陸上自衛隊八戸駐屯地に所属するチームで、音楽まつり常連の一つです。

八戸駐屯地は第4地対艦ミサイル連隊、対戦車ヘリ隊などが所属する
陸上自衛隊の駐屯地です。
海上自衛隊八戸基地とは滑走路を挟んで向かい合っています。

ここも常連チーム、朝霞振武太鼓
練馬、朝霞市、和光市、新座市の全てにまたがる朝霞駐屯地の所属です。
陸自の観閲式はいつもここの訓練場で行われるのでご存知の方も多いでしょう。

観閲式のあとは必ず朝霞振武太鼓の演舞が披露されます。

千歳機甲太鼓は、千歳にある第11普通科連隊所属でです。
この駐屯地に太鼓が誕生したのは昭和62(1987)年のことで、
当時の師団長の発案だったということです。

HPを是非見ていただきたいのですが、さすが北海道のチーム、
雪と氷に囲まれてノースリーブで演奏という無茶をしまくっています。
(しかも夜まで・・)

わたしの記憶ではここ何年かで初めての出場だった気が。
山口維新太鼓は第17普通連隊に所属するチームです。

かつては陸軍の駐屯地だった同駐屯地の歴史を見ると
「日露戦争出兵」から始まっていてなかなか感慨深いです。

ところでこの維新太鼓を調べていて知ったのですが、
山口には航空自衛隊の「防府天陣太鼓」そしてなんと、海自の
「関門太鼓」なる海空太鼓チームが事実上存在していて、
この維新太鼓と三隊
合同で演奏することもあるらしいのです。

海自に太鼓がない理由は「陸にいないから」だと思っていましたが、
考えたら陸上勤務のメンバーだっているわけだし、あってもおかしくないですね。

調べていたら、この海自関門太鼓は下関基地隊所属で、

オリジナル太鼓衣装「ドドーン」

という会社で衣装をおあつらえしていたことが判明しました。
「山口維新太鼓様」もここのお客様のようです。

太鼓着の背中には「雲海」と書かれています。

滝ヶ原雲海太鼓は富士総合火力演習、通称総火演でお馴染み
静岡県御殿場の駐屯地で、ここには防衛大臣直下の部隊、富士学校、
そして航空学校などと、東部方面隊隷下の東部方面航空隊などがあります。

駐屯地としての規模が大変大きいため、太鼓に参加する人数も多く、
それが常連チームであり続ける理由でしょう。

そういえば、音楽まつり出場全チームは、御殿場で本番前の総練習をする、
と去年のOB氏が言っていた記憶がありなす。

駐屯地が大規模なので、全部隊を収容する入れ物にも事欠かないのかもしれません。

「さつまかわうちえんじだいこ」と読んでしまいましたが、「川内」は
じつは「せんだい」だったことを調べて初めて知りました。
薩摩川内焔児太鼓の所属は陸上自衛隊川内駐屯地(鹿児島県薩摩川内)。

ところで画面の右上をご覧ください。
出番を待つ奏者たちは、皆四つん這いでじっと顔を伏せています。

陸自川内駐屯地は陸自第8施設大隊の根拠地なので、主要装備が
地雷原爆破装置だったりドーザだったりします。
おっと、あの機動支援橋もありまっせ。

船岡さくら太鼓が所属する宮城県柴田郡の船岡駐屯地も、
主要部隊は第二施設隊と後方支援の部隊だそうです。

グリーンとオレンジのユニフォームも毎年お馴染みの、
北富士天王太鼓

北富士駐屯地は山梨県にあって、第1特科隊などが駐屯する部隊です。

背中に描かれた五重塔ははもちろんその名の通り善通寺のはず。
善通寺十五連太鼓
香川県の善通寺駐屯地に駐屯する第15普通科連隊なので「十五連」です。

善通寺駐屯地は陸自の呉地方総監部みたいな感じで、
陸軍時代の建物が保存されており、一部は史料館として公開されています。

同駐屯地は陸軍時代から四国地方における最大・最重要駐屯地とされ、
さらには近い将来発生が予想される南海トラフ大地震の際の最重要地域でもあるので、
近い将来に施設の近代化や、拠点としての機能拡大を行う予定だそうです。

滝川しぶき太鼓は陸自滝川駐屯地の所属チームです。
ちなみにこれも「たきがわ」(それはクリステル)ではなく、
「たきかわ」と読まなくてはいけないそうです。

北海道の滝川という、よそ者にはどこにあるのか見当もつかないところから、
一年に一度の音楽まつりに選抜されて参加してきました。

滝川駐屯地には第10即応機動連隊が駐屯します。
即応機動連隊とはなんぞや?ということからしてよくわかりませんが、
多分、いろいろ装備を取り揃えていて、一つの駐屯地で全てが完結する
パッケージ的駐屯地なんだと思います。(違っていたらすみません)

長野県松本駐屯地の松本アルプス太鼓
松本駐屯地は長野県に唯一存在する自衛隊です。
第13普通科連隊などが駐屯していて、広い範囲をここだけでカバーするため、
山岳の活動に強い精強部隊として知られているということです。

陸自ばかりの自衛太鼓の中で数少ない空自部隊太鼓、
航空自衛隊入間基地の入間修武太鼓、今年も出場です。

いつも小さい鐘や篳篥、踊りを加え軽妙な単独演舞を行うチーム。
必ずこんな女性が混じっているのも空自らしさとでも言いましょうか。

一昨年の航空祭の見学にいったので、今ならどこにあるかわかる。
(関西の人間には芦屋と言うと兵庫県芦屋しか思いつかない)
そう、福岡は遠賀郡芦屋基地の「太鼓隊」(こう呼ぶらしい)
芦屋祇園太鼓

おっと、最後に空自の太鼓チームがふたつも続きましたね。

ここも女性が目立ち、さらに単独演舞に軽妙さと楽しさが感じられます。
太鼓にも一般人でもわかる「陸自らしさ」「空自らしさ」があるものです。

さて、単独演奏のトリを取るのは北海自衛太鼓と決まっています。
その理由は、北海自衛太鼓が自衛太鼓の「祖」だからです。

自衛太鼓発祥の歴史については去年詳しく書きましたので、
ご興味がおありの方はこちらをご覧ください。

自衛太鼓 彼らは如何にしてここまで来たか

良く見ると三人一組でまるで千手観音みたいなことをやっていました。

北海自衛太鼓は 陸自幌別駐屯地に所属する太鼓隊です。
幌別駐屯地は室蘭港にも近く、海自との関係もある陸自駐屯地で、
所在地は登別。

前にも書きましたが、自衛太鼓の出演チームは、ここに指導を受けるため
代表を一人送り込んで演技を体に叩き込み、原隊にそれを指導します。

1チームごとの単独演舞が終わったら、いよいよフィナーレです。
全太鼓チームが一体となって叩く太鼓の音は、今回
代々木体育館の遥か外で待っている者の耳にも届いてきました。

広いフロアにくまなく人員を配置しての総員演舞です。

武道館のように身体全体が太鼓の響きに包まれるような臨場感こそありませんが、
過去最大の参加人数による演舞は、太鼓という楽器の持つ力によって
プリミティブな感覚が揺さぶられるような感動と興奮を誘いました。

さて、第三章の「ジェネレーション」と自衛太鼓の関係付けについてです。
これだけたくさんの自衛官が出場するとなると、出演している年齢層は広く、

下は18歳、上は53歳。

今回の出演者の中には父子で参加している例もあるのだとか。
そう、これぞまさに「ジェネレーション」を超越して奏でる一つの音です。

太鼓指導は北海自衛太鼓のリーダー、高橋直保陸曹長。

高橋陸曹長はリーダーになって三年目となります。
自衛隊音楽まつりで自衛太鼓が演じる曲を作曲?するのは、
実はこの北海太鼓のリーダーの責務となっているのです。

そして、自分で作った曲を、音楽まつり参加チームに伝達し、
実技を指導し、音楽まつりの本番で自衛太鼓を成功させるまでが仕事です。

この責任ある北海太鼓リーダーの任務は、退官するその日まで続きます。

 

 

続く。