ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

2時間の上陸~日向灘・掃海隊訓練

2015-12-10 | 自衛隊

食堂を通り抜け、副長に説明を受けながら歩いていて、ふと
明日の訓練のためにわたしたちは何時に掃海艇に乗るのだろう、という話になりました。
すると、副長はすぐさま「ちょっと待っていてください」といって
そういう予定がわかる部屋に入っていき、(これがなんの部屋だったかは不明)
「7時半出航だそうです」と聞いてきてくれました。

ちなみに当掃海母艦は、総員起こしマルゴーサンマルだそうです。
確か、自衛艦での起床時間は普通なら6時のはず。
いつもより早く起きなければいけないってことですか。

わたしたちはそれを聞いて、

「それではわれわれは、明日のホテルのロビーでの集合時間は朝6時ですね」

と互いに暗い目を合わせたわけですが、
彼らは朝5時半に起きなくてはいけないのに、夜の10時から上陸とは、
さすが若いって素晴らしい。あ、艦長も行ってらっしゃいましたっけ。

ちょうどその頃、消灯時間の10時が近づきました。
わたしの後ろで、副長にだれかが「消灯どうしますか」と聞きに来ています。
わたしたち一般人が見学しているので消してしまっていいものかどうか、
副長にお伺いを立てにきたというわけ。

そのときにはツァーも終わりに近づいていたので、副長は
いつも通りに消灯して大丈夫、と答えていました(と思う)。
そして、今から上陸隊員の服装点検がある、と言いました。

「上陸をする隊員は皆、点検を受けてから外に出ます」

おお、それは、防衛大学校のノンフィクションでやっていた、

「ネクタイがゆがんでいる!やり直し!」「ボタンが曲がっている!(略)」

というあの嫌がらせのような服装チェックですかい。

「点検で”上陸ダメ”なんて言われることもあるんですか」

副長、笑いながら

「いや、簡単なチェックですので・・」

さんざん入港作業が遅れて、たった2時間になってしまった上陸だというのに、
「シャツの裾が出ている!やりなおし」
なんてやったら、部下から恨まれてしまいますよね。




ここに出るために、副長は「X」のついたドアのラッチを全部外しました。

「ここから地上へのはしごをかけることもあります」

また、ドアがあるだけで隔離されている(海上では特に)スペースなので、
勤務の合間に出てきて煙草を吸ったりするのに絶好の場所だとか。

わたしたちがちょうどここに立った時、下を上陸する隊員が通りかかりながら挨拶しました。
数人の女の子ばかりのグループで、今日は「女子会」を行うようです。

「あの中には補給長がいます」

補給長というのは、5つの分隊のうちの一つである補給科衛生科のうち、
補給科の長で、もちろん防大卒の幹部の役職です。
経理、補給、給食、文書交換などを担当する部門で、先だって話題になった
給養員も、この部門に含まれます。


それにしても、今日の「ぶんご」は1日掃海艇・艦への補給を行っていたわけですが、
つまり補給長である彼女はこの作業を統括していたということでいいのでしょうか。

 何度か説明していますが、この日の補給作業は波のうねりのために何度も中断されたらしく、
午前中に終了する予定が夜の8時半に入港ということになってしまいました。
補給長という任務の幹部は、そんなこんなでさぞかし大変だったのではないかと思われます。

「ジパング」では、「みらい」の艦内で医官の桃井1尉に出逢った海軍軍人津田大尉が、

「軍艦に女を乗せているのか!」

とそこに驚いていたわけですが、現代のわたしたちにとっても
「護衛艦勤務の女性」はまだまだ刮目して見る対象にとどまっています。

眼下を歩いて行く「海軍士官とその部下」である女性たちも、
言われなければ、全く普通の若い女の子とその友人にしか見えません。

やっぱり自衛隊とは外の人間にはある意味「別世界」だと思うのでした。




というわけで、艦内ツァーは終了しました。
副長に舷門まで送られて出てきてみれば、そこには赤白の腕章をつけた
何人かの作業着でない制服を着た自衛官が敬礼してお見送りしてくれる態勢。

お疲れのところ隅から隅までツァーをしてくださった副長、そして
作業を途中で止めさせてしまったり、お風呂上りの超リラックスした格好を
外部の客に見られたり、救命ベストを鞄から出して見せてくれたりした隊員の皆さん、
本当にお邪魔しました。

「明日また海面でお会いしましょう」「訓練頑張ってください~!」

わたしたちはそう言ってラッタルを降りました。
さきほど掃海具Mk-15を見て、後甲板を案内してくださったとき、副長は

「この後ろ側のハッチをよく見て帰るといいですよ。
ここから今日ご覧になったように水中処分員のボートを降ろしたり、
掃海具を引き出したりします」

とおっしゃっていましたっけ。
この説明のときに、メインハッチの脇の4つの小さなハッチの役割を
聞いたような気がするのですが、どうしても思い出せません。



わたしたちは写真を撮りながら車を止めていた岸壁の外に向かいました。
途中に繋留してある掃海艇の掃海具S-10(冒頭写真)にご挨拶をして、
ふと明かりが漏れる内部を見るともなく見ると、そこは洗面所らしく、
鏡に向かってお風呂上りの隊員がドライヤーを使っていました。

どう見てもドライヤーで乾かすまでもないほとんど坊主頭に近いヘアでしたが、
さすがは自衛官、寝癖がつかないように?完璧に乾かしてから寝るんですね。


わたしたちが車を止めていた柵の外に出ると、そこにはタクシーが1台停まっていました。
上陸する自衛官が電話で読んだものか、それとも上陸を知っていて客待ちしているのか。

タクシーの横に止まっていた車に乗り込もうとしたら、若い海士らしい自衛官が
二人、ミカさんに声をかけてきました。

「この近くにコンビニってありますか?」

どうも当てなく上陸して、コンビニで何か買い物でもしようとしていたようです。
ミカさんは近くにAEONタウンがあることを教えてあげていましたが、

「でも、今の時間空いてるかなー」

そこでわたしが、

「駅前まで乗っていかれますか?」

彼らに声をかけました。
後からミカさんは、

「あのとき乗せるって言ってくれてよかったと思いました」

とわたしに言っていましたが、彼女はわたしが借りた車なので、
自分から乗せてあげる、とは言えずにいたのだそうです。


基本どこでも歩いて行く自衛官ですが、さすがに夜10時過ぎて

2時間しか上陸時間がないのに、てくてく最寄りの(というか近くない)
コンビニまでいって帰ってくるだけで終わり、では辛いものがあったでしょう。

彼らはわたしの誘いに全く遠慮せず、とても嬉しそうに車に乗り込んできました。
走り出してすぐ、窓ガラスが急に曇ったので断って窓を開けたら

「風呂入ってきたばかりなんで、体温が高めなんです」

清潔で礼儀正しいだけでなく、いうことがいちいち可愛い。
そのうち、さきほど停まっていたタクシーを追い抜かしました。
お互いに車の中を瞬時に確認しあい、

「前に誰々、後ろに何とか1曹が乗ってる」

さすがは船乗り、こんな暗がりで走る車の中の人物を特定するとはいい目をしておる。

「なんであの車に乗ってたんだって言われたら、無理に引っ張り込まれたっていうのよ」

ミカさんが彼らに変なご指導をしています。
後から、わたしが乗せた隊員のうち一人は、東日本大震災のときに
出動した掃海母艦に乗り込んであの現場を見た子だ、と彼女から聞きました。

百戦錬磨の大の男がその光景に精神の不調をきたすこともあったという、
あの未曾有の災害現場の中にあって、掃海隊は物資の補給、被災者の収容と支援、
そして彼の掃海母艦は、水中処分員が遭難者のご遺体を収容する作業にも当たっています。




駅前にあるおそらく船員向けに24時間空いている大型スーパーマーケットの前、
この何処かで見たようなキャラクターのイルミネーションの前で彼らを降ろしたとき、
車の外に立つなりピシッと直立して、

「ありがとうございました!」

と声を合わせていうあたりはやっぱり自衛官だなあと感心しましたが、
車の中で、

「(乗せてもらって)本当によかったー」

などとニコニコしている様子は、普通の若者どころか日本人には知るべくもない
壮絶な現場を知り、あの救難活動に危険を顧みず身を投じて日本中から感謝された
「つわもの」というには、あまりにも「普通の男の子」に見えました。

わたしがその話を聞かせてくれたミカさんに

「そんな子たちだったんですか。
それを聞くとなおさら、あのとき乗せてあげられて良かったです」


というと、彼女は

「向こうもきっと乗せてもらったことをずっと忘れないと思いますよ」

 と言いました。


さあ、いよいよ明日は掃海隊訓練です。



続く。