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「てつのくじら館」あきしお

2011-11-09 | 自衛隊

呉の自衛隊資料館で自衛隊の歴史に続き前回の掃海活動についての展示を観終わると、
建物の3階から潜水艦あきしおの入り口に入ることができます。

良く考えたら、いや良く考えるまでもなく潜水艦の中に入るのは初めての経験。
感想。

狭い。以上。

  
何度か潜水艦についてこのブログで語ってきて、その狭さについては十分理解してきたつもりだったけど、
それでも人のすれ違えない通路、士官室用と言いながら電話ボックス並みに細長いシャワー室、
まるでアメリカの犯罪ものにでてくる死体を収納するモルグの棚のようなベッド。
(寝てみましたが、ベッドの上に身体を起こすことができません。
慣れないうちは寝ぼけて飛び起き脳天強打する者がでるのは必至)


そう、何を取っても究極の狭さです。
撮った写真を観てあらためて思うのですが、写真ってこういうときどうして狭く写らないんでしょうね。
体感的には息苦しいほどの狭さだった気がするのですが。
天井が低いというのが画像に写らないせいでしょうか。

北極回りのUボート(実際はこの航路は存在しない。南洋航路が選ばれた)のフナ底で、
その狭さに精神をやられ、見えないはずのものが見えてしまった
アドルフ・カウフマンの気持ちがよおおっくわかる気がしました。




このあきしお(JS Akishio, SS-579)は、1985年進水式を行い、2004年まで就役しています。
最新とは言いませんがそこそこ最近まで現役であったフネ。
その技術においてもこの狭さは全く改善されなかったということです。
そしてこう言う居住スペースが基本となっていればこそ、海軍の
「整理整頓」「清潔」「清掃」の3Sが重要になってくるわけです。


ところで軍隊と言えば今も昔も階級社会。
ビーコンで食べたカレーにさえ「士官用」「兵用」の違いがあったくらいです。
牢名主が座敷牢のたたみを占領できるように(?)
ここでは一番偉い艦長が、貴重なスペースを一番たくさん確保できるのですが、



その最も広いはずの個室でさえこれ。
居住用個室と言うものはこれだけ。これが精いっぱいってことです。
むしろ逆にこの中に閉じこもって扉を閉めることの方が閉所恐怖症にはたまらん苦痛、
と言うレベル。

さらに階級社会ならでは。
キッチンの食器置き場ですら、この狭い艦内に「士官用」があります。
 

冒頭写真のシャワーとトイレはいずれも士官用で、士官室士官以上しか使えません。
士官用でこれなら、兵用はいったいどのようなものなのでしょうか。
海軍的階級ヒエラルキーを後世に伝える意味でも、
兵用シャワー、トイレの即時公開を強く望みます。

キッチンにある冷蔵庫には、ピントが合っていないのでもはや撮った本人にも読めませんが、
「冷蔵庫内の個人の食べ物には名前の記入を忘れずに」とあります。

そう、狭い艦内では食べ物についてトラブルが起こりやすいのです。
「おい、貴様俺のプリン食っただろう」
「あのプッチンプリンには名前がありませんでした。
一尉は先日わたしのヨーグルトを黙って食べたではありませんか。
ですからおあいこです」
「なあにい~!貴様口答えするか三尉の分際で」

などという些細な争いから戦艦ポチョムキンみたいにならないとも限りません。
(ならないかな)
なので、プリンには名前を記入しましょう。ということです。
これも大事なことですね。

そんな皆さんの艦内でのご飯。
あまり地上食と変わらないですね。
昔は、過酷な任務の潜水艦の食事は航空搭乗員と並んで配慮されていました。
しかし、生鮮食品はすぐに食べつくし、あとは保存食の繰り返しになってしまいます。
映画「真夏のオリオン」でも見られましたが、ビタミンのサプリメントが欠かせませんでした。
この日は金曜、カツカレー。
特に潜水艦の中は曜日の感覚がなくなるので、カレーによってそれを知るわけです。

曜日の感覚はカレー。
それでは夜も昼も真っ暗な潜水艦内での時間の感覚は何で知るのでしょうか。
旧兵学校訪問のときに解説の方がおっしゃっていたのですが、
潜水艦では夜と昼で電灯の色を変えるのだそうです。
時計を見て3時、天井の明りが赤なら夜中の3時、と認識するのだとか。

 

隊員のミーティング室。
ここで食事もしたようで、この反対側にはビデオスロット付きのテレビがありました。


究極の狭さ活用空間。
レーダー室のようですが、いまだに机に置いてあるウェットティッシュとクリーナーに、
3Sへの情熱が窺い知れます。
 

コントロールパネルは見られますが、魚雷発射室は写真のみ。
ぎょ、ぎょ~ぎょらい?(byさかなクン)
そうか。潜水艦って、兵器なんだ。当たり前のことですが。
魚雷がここから訓練以外で一度も発射されなかったことを、
わたしたちはありがたく思うべきなのでしょう。
(憲法9条にじゃねーぞ。言っとくけど)



もし潜水艦が海底に沈んでしまったら。
事故のとき救助に使用するために導入された「大気圧潜水器システム」という潜水具です。
この黄色いミシュラン坊やみたいな潜水スーツは、内部が1気圧に保たれているので、
地上と同じ条件で海底の作業をすることができるのです。
最高300メートルの海底深度まで達することが可能です。
・・・・可能ですが、きっとこの中に入る人は怖いでしょうね。
重量275キロ。
というか、これどうやって手足をうごかすんでしょうか?
その前に、いつ着用し、どうやって海底まで持っていくのでしょうか?

さて皆さま。
こうやって当たり前のようにここにある潜水艦ですが、どうやってここに設置したのか、
興味が湧きませんか?
吊り上げられた潜水艦 

塗装を済ませたあきしお(右)が二本のクレーンに抱きあげられる姿。
このあと、海水をきれいに洗ってこの姿で待機。
下にやってきて、あきしおを受け取るのが「ドーリー」という輸送台車。
 これを潜水艦用に17台連結させました。
ドーリーの上に降ろされるあきしおのおなか。
この後、移動する部分の縁石、信号を前もって撤去。
作業は深夜12時から、交通を遮断して行われました。
このドーリーは50センチ上にあげることができます。
あきしおを持ちあげて設置基礎台下に侵入し、そっとあきしおを台に乗せて、
下からドーリーだけ退出。
翌朝には設置完了。
信号も朝には元通りになっていたそうです。



潜水艦の「帽振れ」。
これは・・・うんりゅう・・・かな?(ちょっと自信なし)
 
いつも思うのですが、潜水艦上の帽振れとか答舷礼式で海に落ちる人っていないのかしら。
 
あきしお退役の自衛艦旗返納式で軍艦旗(自衛艦旗)を捧げ持っているのは先任伍長。
受け取るのが艦長で、これを式執行者である地方総監に渡して終了です。

自衛隊の潜水艦の寿命は短いと言われます。
これは毎年潜水艦を建造することによって技術を保持するのが目的だそうです。
そして、保有隻数に制限があるので押し出される形で毎年退役する艦が出るためだそうです。


その最後の日。
乗組員たちは艦の機材やバルブをいとおしげに磨きあげるのだそうです。
退役が決まれば、普通の潜水艦は同型の現役艦に部品を抜き取られ、
さらに退役後はスクラップにされてしまうのですが、あきしおはこうやって
「てつのくじら」として第二の人生を歩むことになりました。

一番うれしかったのはあきしおの「どん亀乗り」たちだったのではないでしょうか。