ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

How are you?

2011-07-04 | アメリカ

たかがスーパーで売っているTシャツの画像をこんなに馬鹿でかくしおって、と思われたでしょうか。
今いるボストンの「T・J・MAXX」でこっそり激写してきました。
大きくしたのはプリントされている謎の日本語を読んでいただくためです。
これ、何でしょうね。
Enrich your luck(それも変だけど)かなんかの直訳かしら。

昔、ロスアンジェルスのホテルの売店で胸元にハスの花と一緒に
「冷静」
と書かれているシャツを見てTOと大笑いしていたら、お店の人に
「あんたら笑いすぎ」とあきれられました。
(きっとcalmかなんかを直訳したのかと)
何故そんなにおかしいのか説明してくれ、と言われたけど、難しかったです。
「いやあの、普通こういうのは怒っている人に向かって言うような言葉で」
お兄さんはそれでも何がおかしいのかさっぱり、って顔をしていました。


外国人に「毎日が地獄です」シャツを贈呈したことのあるエリス中尉が言うのもなんですが、
外国語の書かれたTシャツだけは一生着ない方がいいかもしれませんね。

おされな日本のモデルさんがdiarrheaとプリントされたTシャツを素敵に着こなしていたり、
金髪碧眼の青年が「痔」と書いたのを得意になって着ているのは問題外としても、
直訳で「間違ってはいない」という文でも「それをわざわざTシャツにして着るか?」
というものはあまりに多いです。


「人は何故こんな危険を冒してまで、異国の文字の
(しかも意味の良くわからない原語の)入った衣服を着ずにはいられないのか」

とあらためて考えずにはいられません。

よく思うのですが、取りあえず外国語を知っていても、それを自国語と全く同じ感覚で判ずることは、
おそらくバイリンガルであっても不可能なのではないでしょうか。

言葉で説明できない部分、翻訳しきれない部分が、言葉にはまつわるものだからです。
翻訳というものはあくまでも便宜上の作業であり、
たとえば「犬」「鉛筆」などの意味のはっきりした名詞以外の対訳が果たして正確なのかというと、
そこには非常にあいまいな部分もある。
文化の違いというものを考慮すると、必ずしも完全に同じ意味とは限らないからです。
「勿体ない」「まったり」のように日本語にあっても外国語に無い言葉、
(逆に日本語に無いのはニュアンス、アイデンティティ、プライバシーとかですね)
だってあるわけですし。

故ナンシー関画伯がデーブ・スペクターのギャグが全く面白くないことについて、
エッセイの最後でこのように揶揄したことがあります。
「住めば都はるみ、という言葉の本当の面白さがわかるのかー?」
デーブは画伯の「芸能人いじり」(彼女の芸風ですが)に我慢できなかったらしく
さんざんむきになって反論したあげく、件の決め台詞(質問じゃないのに・・・)には
「僕、わかってるよ。これでいい?」と答えました。

・・・・・いや、これに反論するってことは、やっぱりわかってないかもなあ、と
おそらくこれを読んだ日本人の大半は思ったのではないかと思います。
画伯が指摘したのは異国人であるデーブが決して理解しえないネイティブな笑いであり、
デーブの取っている笑いがあくまでも
「日本語を完璧に理解していないガイジンが言うからこそおかしい」というものであることを指摘したのであって、
「住めば都はるみを理解できること」そのものが問題ではないってことでしょう。


ネタなんだか実話なんだか知りませんが、以前アメリカに住んでいたときに聞いた話で、
サミーという名前のアメリカ人が自分の名前を漢字で書いてくれ、と言ってきたので

「寒」

と書き、「どういう意味だ」と聞かれたので

「COOLって意味だよ」

と答えたらサミーはとても喜んでいた、というのがあります。
確かに間違ってはいない。「寒い」の英訳は「COOL」でもある。
しかし「さみ~!」と人が言うときそれはあくまでcoldです。
おそらく今後誰もかっこいいという意味だと喜んでいるサミーに教えてあげないのが
サミーにとっての不幸でしょう。
そして、サミーは何故日本人がこれを見ると爆笑するのか、永遠に分からないままでしょう。


さてところで、エリス中尉は今アメリカ合衆国に滞在しています。
アメリカにいて一番よく聞く言葉はおそらくThank youとならんで本日タイトルの
How are you?

ではないかと思われます。
中学校で教科書の最初に「I have a book.」と載っていたので、
人生でおそらく実質的には一度使うかどうかというこの
「わたしは一冊の本を持っています」
という英文を最初に鮮やかにインプットしてしまった「クラウン教科書使用校」出身のわたしですが、
その他の大抵の教科書はこの
How are you?
から始まっていたのではないでしょうか。
え?うちはThis is a pen.だったよ、って?まあいいです。

問題はこれに対する返事ですが、あなたの教科書はどうなっておりました?
I'm fine. Thank you.
ではありませんでしたか?

そう、このI'm fine. Thank you.が現在のわたしのちょっとしたストレスになっているのです。

お店のレジに立つ。ホテルのフロントに立つ。
まずそこでHow are you?と聞かれないことはないでしょう。
日本のお店では「いらっしゃいませ」ですから当然こちらの返事を期待されていないわけですが、
ここアメリカでは客からもコミニュケーションに参加させることから「取引」が始まるのです。
アメリカ人であれば生まれたときからこういう文化の中にいるわけですから、
何の問題もなくそのコミニュケーションをすることができます。
観察によると、しかしfineは少数派で、どちらかというとgood派が主流。
しかし、その人の年齢や、性格、バックグラウンドなども
もしかしたらこのときの返事でうかがい知れるのではと思うほど、言い方は様々。

ところが教科書でI'm fine, thank you.とインプリンティングされている日本人としては、
これ以外の応用ができない。
少なくともこのわたしにはとっさにこれしか出てこないカラダになってしまっているのです。

そして住んでいた時期も含めて10年間の観察によると、こういうときの彼らを見ていると、
必ずGood.とか何とかのあと、これもほとんど(年輩の人は必ず)
How are you?と聞き返しています。
このやりとりはもしかしたら教科書通りかもしれません。

しかし、この聞き返しもまた、日本人であるわたしにはどうしても自然にできない。
心の準備をして「よし言うぞ」みたいな覚悟が必要です。
そしてたまにはFine.以外の別のことも言ってみたいのですが、
そして相手にもごく自然にHow are you?と尋ねてみたいのですが・・・。

アメリカ人のこのフレンドリーな態度は、全く儀礼上の表層的なもので、
何と答えようと相手はみな全く意に介していないとはいえ、
このへんは異邦人にはいつもハードルが高いのです。

さらに、取引が終わり、日本だと「ありがとうございました」の代わりに
Have a nice day.あるいは
Have a nice weekend(あるいはholiday,afternoon)
なんてくるのでそれに対して
Thank you. You too!
と答えるわけですが、ここで問題が。お店の人で

Have a good one!

と言うひとがたまーにおりまして、これがここ数年わたしが悩まされている謎の言葉。
one
とは?買ったものに対する「good one」なのかしら、
だとしたら返事にyou tooはへんよね、などと当初悩んでおりましたが、
息子の学校のカウンセラーがある日別れ際にこの
good one」を使っていたのを聞いて以来、さらに謎は深まるばかり。


英語が理解できて、意味が分かっても、
おそらく全くその本質的なところまで感覚的に分かることは一生ないんだろうなあ、
とアメリカに来るたびに思うのです。