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映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』感想拾遺

2008-04-30 21:23:08 | 映画・DVDレビュー

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』昨日の感想で書きそびれた幾つかのこと。

プレインビュー(ダニエル・デイ=ルイス)の宿敵、ポール・ダノ演じる(彼の名前の表記も正しくは「デイノ」らしい)イーライも面白かったです。
キリスト教の伝道師と言うより、どう見てもインチキカルトの教祖様。まあアメリカという国は、宗教的メンタリティに於いてはヨーロッパ中世並みだし、昔の特に田舎では、ちゃんと公理を学んだことがないどころか、聖書自体ろくに読んだこともない人間が、牧師や教会の指導者として振る舞うということもあったようなので、ああいう若造でもその土地でプチ権力を発揮できたりするんでしょう。
彼とプレインビューの軋轢は、宗教と世俗、神と悪魔、信仰と不信仰の対立などではなくて、早い話がどっちもどっち。どちらも欲にかられていることに変わりはありません。一つの土地に二人の権力者、二人のカリスマはいらない。そういうことです。
彼らの見苦しいどつきあい、特にプレインビューが洗礼を受けるシーンなんて、笑いをこらえるのに必死で、周囲の人たちが真面目に観ているのが意外でした。あそこは(彼が洗礼を受けるに到った理由等も考えると、かなりブラックながら)笑いを意図したシーンだと思いますよ。

プログラムに掲載のポールのインタビューによると、最後のボーリング場のシーンでは、ダニエルが本当に怖かったそうです。
アメリカでは一世を風靡、流行語大賞ものの「貴様のミルクセーキ(milk shake)を飲み干してやる!」も、そのシーンの台詞でした。

実は、ポール・ダノが本来キャスティングされていたのは石油の話をプレインビューに持ち込む「ポール」役の方で、イーライには他の俳優さんが選ばれていたのに、撮影が始まってからその人が降板したため、急遽イーライとポールを双子設定にして、どちらもポールが演じることとなった、という事情があったそうです。
準備期間が殆どない状態で、しかも「あの」ダニエル・デイ=ルイスと相対する役を演じるのは(それ以前にも共演経験があったとは言え)勇気を要することだったでしょう。それだけでも評価に値すると思います。

で、これは昨年末NYプレミアの時のお二人さんです。
ちなみにこちらは監督と主演俳優。
ダニエル先生……自分はあなたを俳優として尊敬していますが、あなたのファションセンスにはどうしてもついて行けません……ベルリンでのプレカンの時は特にスゴかった……

気を取り直して(?)、この映画にケヴィン・J・オコナーが出ていたことにもびっくりしました。
ソマーズからP・T・アンダーソン……すごい出世かも。でも、彼の演じたヘンリーも、或る意味「モンスター」に遭遇してしまった人ですね。
彼とダニエルが海水浴を楽しむエピソードは(その後のことも考えると)束の間の解放感を与えてくれるシーンでした。
また、プレインビューが海に向けてパイプラインを引くことにこだわったのは、輸送上の効率やコストの問題もありますが、実は彼自身が海へ行きたかったのかも知れない、と何となく思いました。
荒涼たる風景の果てに突如現れる大海。彼がその向こうへと行くことは出来なかったけれど。

音楽について触れると、ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、カラヤン指揮ベルリンフィルとアンネ=ゾフィー・ムターの演奏によるものだそうです。(IMDb情報)
彼女がカラヤンと初共演して「天才少女」と呼ばれた時のものか、その後の録音かはよく判りませんでした。
全体としてはリゲティ風な、不安感を増幅するような音楽(ジョニー・グリーンウッド)を付けて、中盤の重要なシーンとエンディングをいわゆるクラシックの名曲で締めるとは、『2001年宇宙の旅』の引用か?と思ったら、IMDbの掲示板でも既に多くの人が指摘していました。
そう言えばオープニングの演出も、ラスト近くのプレインビューの「あの行為」も『2001年』そっくりでしたね。でも、もしかしたら「あれ」もイーライとの再会自体も、彼の夢だったかも知れないという気もして来ました。
監督が監督なので、その他にも何か仕掛けがありそうですが、もう一度映画館に行く時間はないので、DVDが出たら確かめたいと思います。

あと書いておくべきことは──
ダニエル先生、背も高いけど、あの脚の長さは驚異的!ということかな。やっぱり(笑)。

メインの感想は下記で。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)

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