スノーマン見聞録

ジャンルも内容も気の向くまま~“素浪人”スノーマンの見聞録

読書三昧 (10)『愛と憎しみの豚』

2013年05月06日 | 雑感


まず、面白いタイトル。 その着眼点にも驚く。

なぜ豚は世界中で好かれ、同時に激しく嫌われるのか。

豚の謎を追って、灼熱のアラブからイスラエル・東欧・極寒のシベリア他世界の村々へ、安希流冒険の旅が始まる。(ドバイ・チュニジア・イスラエル・日本・リトニア・バルト三国・ルーマニア・モルバド・ウクライナ・シベリア他)


中村安希著『インパラの朝』(開高健ノンフィクション賞受賞作)『Beフラット』『食べる』に続く四作目の作品。

○イスラム教アラブ地域では遊牧生活の中、雑食で腐りやすい豚肉禁止の合理性、、コーランへの書き写し。
○ユダヤ教での豚肉の扱い、、イスラエルでの統治の歴史過程での豚肉に対する扱いの変化。
○豚も食べていた欧州での農耕文明時代、キリスト教(新約聖書)布教の邪魔になる為豚肉禁止をしなかった。

等々濃い内容となっている。
(また参考文献に新旧聖書・コーランとあるように、いたる処に聖書やコーランも散りばめられていた)

チュニジア旅で知り合った女性ジャーナリストの話が記されていた。

”イスラム主義者が求めること、簡単に言うと四つ。物事を疑わず、考えず、議論せず、想像せず。以上。”
”宗教のメッセージは分かりやすい。神を信じれば救われる、信仰を深めれば立派になれる。終わり。”
  など厳しい事も載せておりました。

以前コーラン(食卓の章メディナ啓示)を読んだ時、こんな言葉があるのを思い出した。

”信ずる人々よ、いろいろなことを尋ねてはならない。はっきりわかれば、かえってためにならないものだ。
しかし、コーランが下されているときにものを尋ねるなら、おまえたちにはっきりさせてくださるであろう”、、と。

断片的にだけみて全てを判断することは危険ではあるが、宗教とは、、学ぶきっかけにもなる著書であった。

また、豚を通しての歴史にも及ぶ。

リトニアが当時ソビエトに編入された頃、モスクワから豚肉生産を指令、拡大したがその豚肉のほとんどがソビエトにもっていかれ、リトニアには耳しか残らなかった~リトニア名物料理(豚の耳料理)はその名残り、、大国のエゴ(国欲)がこんなところにも。 

旅でのいろんな人との繋がり、フェイスブックで初対面からのアプローチ等にも積極的。更に情報が深まるらしい。

政治・文化・歴史・宗教・人種など、今を知るには、、、やはり旅なのか。


マイナス46度・極寒シベリア・プリアルグンスクでの最後のくだりは圧巻です。
軍事施設内(国境地帯)に無許可侵入。知らなかったとはいえ軍人に聴取されたが、豚関係について逆聴取する始末。

現在34歳にして命がけ、女性一人旅を続けるノンフィクション作家・中村安希の進化、いや度胸には恐れ入る。

読み終えると夜中の3時を超えていた。その後いろいろ考えてしまい、一睡もできずに朝を迎えたほどである。  これは歳のせいか(苦笑)

筆力も向上。初版本『インパラの朝』(開高健ノンフィクション賞受賞作)を凌ぐとも思える名著であった。