Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

80:20 ではなく 80:8 の法則

2009-10-04 18:06:43 | Weblog
80:20 の法則とは,たとえば,ある企業の売り上げの 80% は 20% の顧客によってもたらされている(あるいは,20% の従業員によってもたらされている)といった話で,ベキ乗則のわかりやすい表現となっている。「インターネット広告のひみつ」によれば,しかし,

85%のクリックは、8%のオーディエンスから

だそうで,80:20 どころではないようだ。

米国での調査によると「2009年3月にディスプレイ広告をクリックしたのは、インターネット利用者の16%。84%のインターネット利用者は1回も広告をクリックしなかった。発生したクリックの85%は、8%のインターネット利用者によるものだった」という。

ちなみに,ディスプレイ広告とは何かというと「Web広告の形式の一種で、Webページの一部として埋め込まれて表示される、画像やFlash、動画などによる広告。画面上部などに表示される横長の画像広告を特にバナー広告という」(e-Words

そこで,「80:8 の法則」というのを新たに提案してはどうか・・・。それだと,足して 100 にならないじゃないかと,一瞬でも思うことがないようご注意を。むしろ,8で揃えるほうが,語呂がいい。

テレビ広告費をネットが抜く日?

2009-10-03 13:02:00 | Weblog
英国でインターネット広告費がテレビ広告費を抜いたというニュースに対して,慶応大学の岸博幸氏が重要なコメントをされている。

テレビを抜いた?英国の“ネット広告躍進”報道に潜む二つの誤解

最初に指摘されるのが,英国ではテレビ広告より印刷メディアの広告市場のほうが大きいということ。ちなみに,昨年スウェーデンでもネット広告費がテレビ広告費を追い抜くという現象が起きているが,そもそも欧州では,テレビ広告市場が日米に比べてさほど大きくない,という事情がある。

では,これは対岸の火事なのだろうか。電通が発表した最新の「日本の広告費」によれば,ネット広告費は現在,テレビ広告費の3分の1を少し越す程度である。ただし,その伸び率は著しく,それがこのまま続けば,10年も経たないうちに,テレビ広告費を追い抜いてしまうだろう。

もちろん,それは単なる線形の予測でしかない。岸氏が2番目に指摘するのが,英国でニュースサイトの有料化が進行中だということだ。英国ではネット広告の60%が検索連動型広告で,一部の検索サイトが儲けているだけだという。そこで,コンテンツ供給側の反撃が功を奏するか・・・。

新聞がうまくネットに移行してしまえば,新聞広告とネット広告という分類は意味を失うだろう。いずれ,すべてのメディアがインターネットに飲み込まれることを視野に入れて,世界のメディア企業は戦っているのかもしれない。そうなると「インターネット広告」という括りはなくなってしまう。

それというのは,メディアプランナーがあらゆるメディアを同一平面上に並べて,最適なメディアミックスを企画できる時代の到来を意味する。そのこと自体は,わくわくする経験であるに違いない。

日本のメディアの耐えられない古さ

2009-10-02 23:45:20 | Weblog
今朝のワイドショーで,テレビ局の記者とおぼしき人物が,鳩山政権が官僚の記者会見を禁止したことを非難していた。そのおかげで官僚が自分の取材を断ってくる,これでは「国民の知る権利」が侵されるというのが彼の主張だが,コメンテータの山口一臣氏(週刊朝日編集長)が「記者クラブ開放」の話題を振ると,「私は記者会見には出ないので・・・」とかわす。

司会者や他の出演者も,何事もなかったように話題を先に進める。大手新聞出身のベテラン・ジャーナリストも同様だ。こういう「適応性」がないと,テレビには出演できない・・・かどうかはともかく,この話題が「この場で」いかにタブーであるかがうかがえる。こうした状況は,欧米から見ると奇妙に感じられるだろう。 The Economist の記事がそれを示している。

日本のメディアと政治:出ずる日の光を取り込め

この問題を,日本の新聞はどう伝えているのだろう。asahi.com の検索ページで「記者クラブ開放」と入れてみると,サイト内の検索結果で出てくるのは「インターネット新聞攻勢に揺れる韓国新聞界」という 2003 年の記事1つだけだ。ところが,その横に同時に出てくる web 検索結果を見ると,

「2009年を記者クラブ開放の年に」
「YouTube - 4-6民主党 記者クラブ開放の公約を反故に」
「鳩山新政権は記者クラブ開放という歴史的な一歩を踏み出せるか」

などと出てくる。さらに,今日 twitter などで話題になっていた事件を知るべく「記者クラブ 亀井金融相」で検索すると,サイト内にヒットする記事はないが,web 検索の結果には,

記者クラブは封建的...亀井静香金融・郵政担当相の会見発言をピックアップ

が現れる。そこで今日,亀井金融相が記者会見で「・・・結構、封建的なことをやっているのだね、あなたたちは。もう、全部オープンにいかないとだめだよ」と記者クラブ開放を擁護する発言をしたことがわかる(これは金融庁のサイトで公開されている)。ネットでは容易に拾える話題を新聞が完全無視すると,その奇妙さが際立つ時代になったのだ。

新聞社や TV 局がそのことに気づけば,生き残りのため自己変革が不可避なのに,なぜそれを拒むのだろう。政治家には選挙という淘汰の手段が用意され,それが官僚組織にも何がしかの淘汰をもたらしているのに,市場で競争している自分たちが淘汰を逃れられると信じているのだろうか。だとしたら,そのこと自体が真っ先に報道すべき重大ニュースだろう。

二軍力

2009-10-01 22:58:12 | Weblog
今日のゼミで,卒論でテレビの視聴率を研究対象にしたいというS君が発表した。その流れで,プロ野球,とりわけ巨人戦の視聴率の低さを話題にしたところ,熱烈な巨人ファンのI君から,地上波テレビの代わりに BS やインターネットでの視聴が増えているのでは,という指摘があった。なるほど・・・ しかし,そうはいっても地上波のベースはきわめて大きい。そこでの「プロ野球離れ」は,否定できないとぼくは答えた。

その一因として,そもそもテレビ中継の中心にあった巨人が強すぎて,コアな巨人ファン以外はペナントレースに興味を失ったといわれることがある。スポーツの経済学的研究によれば,チームの力が均衡し,緊迫した展開になるほど,観客の効用は高いという。現在巨人と2位とのゲーム差は10ゲーム以上,3位との差は 20ゲームを超える。もしクライマックスシリーズで巨人が優勝を逃すことになったら,この勝差は何なのか,ということになる。

巨人がここまで強いのは,他チームから主力投手や4番バッターを次々と奪ってきたためだとよくいわれる。それは否定できない事実だが,それだけではないと,スポーツライターの相沢光一氏は指摘する。DIAMOND online に掲載されたコラムによれば,一昨年発足した育成選手制度などを活用し,二軍を底上げしたことが大きいという。その典型が,育成選手出身で一軍で活躍している松本哲也外野手や山口鉄也,オビスポなどの投手である。

強すぎる巨人の陰で、セ・リーグの戦力格差が拡大していく悪循環

育成選手制度とは,二軍を含めた支配下登録選手70名という枠を超え,育成目的のため選手と契約を認める制度である。それを最も活用しているのが巨人で,10名を越す育成選手を抱える。2番目がロッテだが,この両チームの二軍は,今年のイースタン・リーグの1位,2位になっている点が注目される。ちなみに,わが広島カープには,いまのところ4名の育成選手しかいない。そして広島の二軍は,今年ウェスタンリーグの最下位であった。

育成選手の存在は二軍の選手にとって刺激となり,二軍が強くなれば選手層が厚くなり,一軍も強くなる。他球団からとったベテラン選手たちは,休養をとりながら活躍できる。育成選手の給料は低いといっても,諸経費を入れると年間1千万ぐらいのコストがかかるとのこと。つまり,人気があって財力のある球団しか十分活用できない。したがって,セの球団間の格差はいっそう広がるだろうと相沢氏は主張する。そして,次のように結ぶ:
巨人が強化の好循環に乗っている裏で、セ・リーグ全体はつまらなくなるという悪循環が始りつつあるのだ。前述したように巨人はアンフェアなことをしているわけではない。現行のルールのもと、どこにも増して強化の努力をしているということだ。それに対して無残な試合しかできない球団は、大改革の必要があるということである。
広島カープのように財力のないチームにとって,どういう「大改革」があり得るのだろうか? MLB のようにドラフトにウェーバー制を導入したり,選手に高給を支払う金満球団から貧乏球団に「贅沢税」によって資金を移転させるのは,おそらく日本では難しいだろう。自助努力でどこまでやれるか,なかなか厳しそうだが,ぜめて二軍は何とかしたいものだ。数千万円出して外人を1人雇うか,同じカネで育成選手を何人も育てるか,どちらがいいか考える必要がある。

追記)もっとも,巨人はそれらを選択する必要はなく,両方やることができる。ということは,選択と集中だけでは,強くなれない・・・?