Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

行動経済学に倣うべきこと

2008-05-07 12:03:01 | Weblog

5/5の日経「経済教室」で,阪大の大竹文雄氏が 「なぜ残る男女間格差」という一文を寄せている。そこでは,男女間の賃金格差を説明する要因として,昇進に対する選好に男女差があるという最近の研究が紹介されている。日米で行われた実験から,男性ほど競争的な報酬制度を好む傾向があることが示されたという。

同じく阪大の池田新介氏が,4/8の「経済教室」に書いた「肥満と負債,強い相関」も興味深い。全国約3,000人を対象とした調査で,肥満度を表すBMIと債務の有無(住宅ローンは除く)の間に強い相関が見出された。池田氏は,肥満と負債に共通する要因として,将来価値を低く見る時間選好をあげる。つまり,粗っぽくいえば,先憂後楽という考えが薄い人ほど肥満し,かつ借金する,ということだ。

こうした「行動経済学」研究は,さまざまな社会現象を人間の選好に帰着させるという点で,伝統的な経済学のパラダイムに沿っている。しかし,選好を抽象的な形式にとどめずに,より具体的に特定している点で,脳科学,心理学,社会学,生物学といった,人間に関わる様々な科学に対して開かれている。つまり,学際的研究の触媒となり得るところが新しい。

競争への好みに性差があるとして,では,なぜそうなるのか,という問が次に来る。アフリカでの実験によると,母系制社会では父系制社会に比べて女性のほうが競争への選好が強くなる。つまり,こうした性差は生物学的要因よりも,社会学的要因によってうまく説明される。となると,なぜ社会は母系制あるいは父系制に分かれるのかが新たな問題になる。こうして探求のリンクが広がっていく。

マーケティング・サイエンスもまた,より具体的な選好のあり方を把握しようとする。個人差も重視する。しかし,なぜそのような選好が形成されたかを問うことは稀である。確かに,日々のマーケティングの意思決定で,顧客の選好の成り立ちまで知る必要はない。しかし,それでは「面白くない」というのがぼくの「選好」だ。なので行動経済学からは,「開かれた姿勢」を学びたいと思う。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ny)
2008-05-07 19:15:36
個人の選好が形成される原因は何があると考えますか?

私は、
経験やそれに伴う記憶、また印象などが重要と考えますが。
返信する
確かに (mizuno)
2008-05-07 23:59:39
経験の役割は重要ですが,難しいのは経験がどう選好に影響するかですね。経験から学習で選好を形成するには,メタレベルの選好が必要となります。それがどこから来たのかを考えると,話が堂々巡りになってしまいます。

私自身,メタ選好を仮定して,経験から選好を形成するようなモデルを考えてきました。それはそれで現段階では仕方ないのですが,どう乗り越えるかも大きな課題です。はっきりしない説明で申し訳ありません。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。