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あるマーケティング研究者の思考と行動

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利益誘導政治のゲーム理論

2010-11-26 13:25:19 | Weblog
卒論指導とゼミと授業でびっちり埋まった一日だったが,帰宅途上に,斉藤淳「戦後日本政治と説明責任」と題する VCASI セミナーを聴講した。講師は現在「イェール大学」で教える気鋭の政治学者だが,民主党に属する国会議員であった経験も持つ。最近『自民党長期政権の政治経済学―利益誘導政治の自己矛盾』という本格的な研究書を上梓された。

自民党長期政権の政治経済学
―利益誘導政治の自己矛盾
斉藤 淳
勁草書房

斉藤氏は,かつての自民党長期政権を囚人ジレンマゲームで分析する。与党が有権者に利益を与え,彼らが投票するなら「協調」が成り立つが,両者ともそれを裏切る誘因がある。有権者が必ず投票するなら,与党は利益供与をする必要はないし,与党が必ず利益を与えるなら,有権者は投票する必要はないからだ。では,なぜ自民党長期政権は持続し得たのか?

1つには,政権交代が事実上ない状況では,無限の繰り返しゲームが行われているとみなし得る。第2に,裏切りへの罰が存在すること。斉藤氏は日本の投票所が「国際基準」から見ると秘密投票を保証していないと指摘する。さらには,与党を支持する業界団体や企業が果たす監視・強制機能が存在する。こうした仕組みが,入れ子状となって日本の隅々まで覆う。

その結果,利益供与を期待する有権者が,与党に対してどれだけ集票に貢献したかの「逆説明責任」を負うことになる。民主主義の建前からすると本末転倒だが,それが現実だと。では,一見盤石に見える自民党体制がなぜ崩壊したのか。1つの要因として,斉藤氏は市町村合併を挙げる。人口に比して地方議員数が多い市町村こそ重要な基盤になっていたからだ。

自民党政治の本質は,投票した有権者への選択的な利益供与である。公共財自体は非選択的に提供されるが,その工事の発注は選択的である。これに対して民主党の政策は,一定のルールに基づき有権者に一様に利益供与する点で異なる(それを「ばらまき」と呼ぶなら,自民党は「えこひいき」になるという)。そこが昨年の政権交代の本質的意味かもしれない。

では,現在の民主党政権をどう見るのかという質問に対して,斉藤氏は,民主党議員の側に政策立案に十分なインフラがないまま霞ヶ関に対峙したことの限界,そしてこの政権が持続しないことを見越した官僚たちのサボタージュを指摘する。つまり,政治家と官僚のゲームという,自民党長期政権の時代とは異なるゲームを分析する必要がある,とのこと。

自民党は地域に密着してサービスのカスタマイズを行うフランチャイズチェーンであるのに対して,民主党は全国一律のサービスを提供するチェーンストアだという比喩も面白い。自民党長期政権を支えた体制はもはや過去のものとなったのかという問いに,斉藤氏は,自民党が再び政権に返り咲き,中選挙区制に戻すことをした場合,復活するかもしれないと答える。

現下の政治状況を具体的な個人が繰り広げる「政局」として見るのでなく,俯瞰した視点から,いったん抽象化して眺めることで,その深い意味が見えてくる。それは一定の仮定の上に築かれている。しかし,そこから導かれた結果が,いくつかの集計レベルのデータをうまく説明するのであれば,有力な説明原理になる。本研究はまさにそうした例の1つといえよう。

研究という面では,モデルの仮定,抽象化することで捨象されたものをつねに問い直していくことが必要だ。たとえば,政治的に配分される経済的利益と勝ち馬に乗ることで得られる心理的効用を,相互に補償可能だとして加算することをどう考えるか。情動という要因が加味されたときの振る舞いはどうなるのか。個人的にはそういった超ミクロなことも気になる。

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