Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

JIMS@電通ホール(2017年冬)

2017-12-04 08:43:55 | Weblog
2017年冬のJIMS研究大会は、校務のせいで初日はほとんど聴講できなかった。したがって限られた見聞でしかないが、深夜アニメの視聴率を力学系モデルで分析した研究(大阪府立大・荒木先生)やYouTube上でのアーティストネットワーク分析(明星大学・片野先生)など、消費者のコンテンツ消費や発信を扱った発表が印象に残った。

モデルの精緻さを競いがちな当学会にあって、研究上の革新はデータの開発にあると考える慶應の清水聴さんの発表も面白かった。サンプリングがネット上のクチコミを伴いつつ購買にどのような効果を持つかをフィールド実験で検証している。これは、シーディング戦略の効果を研究している自分にとっては、注目せざるを得ない研究だ。

今回私が発表したのは、青山秀明さん(京都大学)、藤原義久さん(兵庫県立大学)と行った複素ヒルベルト主成分分析(CHPCA)の応用研究である。マクロ経済領域で応用されてきたこの手法を、ビールに関するスキャナーパネルデータ(i-SSPデータ)に適用し、カスタマージャーニーの類型とブランド間の競争反応(同期関係)を分析した



CHPCAとは多数の時系列の複素相関行列を固有値分解する手法で、複数の時系列間のタイムラグを伴う相関を計算できる。それによって、多数の変数の時間的動きからノイズを除去し、いくつかの次元でのシステマティックな co-movement を抽出できる。多変数の動きについて明確な知識が事前にない場合、非常に有用な分析手法だと思う。

今回の分析では、主要なブランドでウェブ/モバイルでの検索やサイト閲覧→テレビ広告接触→価格と数量の共変、という時間的展開が見出された。また、いくつかのブランド間にはテレビ広告やサイト閲覧が同期する現象も見られた。これは従来の意味での適応的な競争反応というより、競争するがゆえに行動が同期する現象かもしれない。

マーケティング研究者からは、集計データの分析はカスタマージャーニーの個人差が埋もれてしまう、という懸念が表明された。また、大会に先立って行われた部会では、タイムラグを実時間で表現してほしい、という要望が実務家からあった。これらは、少なくともマーケティングでの利用を考える限り、重要な研究課題であるといえよう。

Macro-Econophysics: New Studies on Economic Networks and Synchronization (Physics of Society: Econophysics and Sociophysics)
H. Aoyama, et al.
Cambridge University Press


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。