『スイーツマン・メモリー』(第17話) / ノート20090228
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蘭丸に続くシルフィーの死で、王様(トリスタン)はとうとう独りぼっちです。年齢もいつのまにやら7歳、文鳥の寿命が尽きるころ。二羽が死んでから王様には鏡を与えてやり、ストレスの発散をさせてやっていました。鏡にむかって王様は、例のタップダンスで求愛とも宣戦布告ともつかない態度を繰り返しています。
(君も老いたねえ、ブラッド・ピットの『ジョー・ブラックをよろしく』を一緒に見たろ。ダンディーな大富豪のパパが現実派の娘に繰り返しいうじゃないか、「一生に一度くらい身を焦がすような恋をしてみろ」ってね)
私は、若いシルバー文鳥の女の子を新しい同居者に迎え、そのこの名前を徳姫とし、通称を姫姫としました。徳姫の名の由来は、私の故郷の伝説的なヒロインで奥州藤原氏の姫君、その人がいるだけでみんなが幸せになったといいます。また通称の姫姫は英語に直せば〈プリンセス・プリンセス〉となります。
しかし姫姫は飛び方が変です。気になって獣医さんに看ていただいたところ、白内障とのこと。これでは王様とペアになって二世を育てるのは無理な話。私は弱すぎる姫姫の巣かごに王様が侵入しないように、天井の蓋を外しません。それでも姫姫は王様が大好きです。王様が飛んでくると、喜んで地鳴きしたり羽ばたいたりします。
相変わらず乱暴者の王様は姫姫を威嚇して、〈戦いの踊り〉をしているのですが若い姫姫は意味が判らず、女の子だというのに男の子のようなステップダンスをしています。もちろんさえずりが出来ずに〈地鳴き〉で、ちゅんちゅん、やってます。
ある日、試しに王様と姫姫を捕らえて、姫姫に王様の背中を蹴らせてみました。ぐるるるるっ、と王様はお怒り。私は怪我をさせる前に、姫姫を王様から引き離しました。
先日、休暇で出張先から帰ってみると家内が、
「すごいよ。王様と姫姫がキスしてた、かごの格子を挟んでだけど……」
といいますので、再び私は王様と姫姫を捕らえ、姫姫に王様の背中を蹴らせてみました。王様はもう怒りません。生涯の最後になって、ついに他者を愛することを知ったようです。
(よかったね、王様!)/(文鳥王トリスタン稿了)
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