私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』

2013-12-08 20:16:45 | NF・エッセイ・詩歌等

「生まれて初めて触ったお金には、魚のウロコや血がついていたのを覚えている」―お金の無い地獄を味わった子どもの頃。お金を稼げば「自由」を手に入れられることを知った駆け出し時代。やがて待ち受ける「ギャンブル」という名の地獄。「お金」という存在と闘い続けて、やがて見えてきたものとは…。「お金」と「働く事」の真実が分かる珠玉の人生論。TVドラマ化もされた感動のベストセラー、遂に文庫化。
出版社:角川書店(角川文庫)




お金をメインテーマに据えた自伝といった作品だろうか。
西原理恵子の作品はいろいろ読んでいるので、知っているエピソードは多いのだが、あらためて読むと、この作家はすごい人生を送ってきたものだな、と思う。

その人生とお金に苦労した経験がかなりハードなためか、彼女のお金に対する思いと執着はかなり強い。
そしてそれゆえに、ぐいと心に踏み込んでくるものがあった。



作者の実家は貧困家庭である。
実父は呑んだくれで、義父はギャンブル狂。典型的なろくでもない家庭だ。
母親も貧しいために心に余裕がなく、怒ってばかり。
周囲の同級生もお金がなくて、親からの暴力を受けたりし、非行に走っている。
子供が生きるにはかなりきつい環境だ。

そして貧困は連鎖しやすく、そういう家庭に生まれた子供はまた貧困に陥ってしまう。
その状況をかなり克明に描いているので、強い説得力がある。
貧困家庭から逃れたいと思っても、逃れられない子がいるという事実は、想像以上に重い。

こういう話を読むと、自分がどれほど恵まれていたかということを知らされる。


作者はそんな状況から逃れようと、上京し、そこで雑誌の絵の仕事を始める。
西原理恵子は確かに決して絵が上手とは言えない。
その事実を上京して目の前に突きつけられることとなる。彼女としてもかなりつらかったことだろう。

しかし彼女はそこから最下位には最下位の戦いがあると開き直って、勝負していく。それがすごい。
こういう状況に置かれたら、つぶれていく人も多いと思うが、西原理恵子はさすがに違う。

そんなマイナスの状況から戦えるのは、やはり貧困の連鎖に入りたくないという恐怖心が強かったのかもな、などと思ってしまう。

もちろん編集の要求を組み取り、がむしゃらに取り組んでいくアグレッシブさと、人に受けるものを判断し表現する才能もあったればこそ、彼女も今の位置まで来られたのだろうが。



貧しさから抜け出してからの、アジアの子供たちに関する話も興味深く読んだ。
ここにもまた貧困の連鎖があり、読んでいてもかなりつらい。
しかしそこにあるものも現実なのだろう。

西原も自分の過去と重ねているためか、それらのエピソードには力がこもっている。
貧しさというものは、考えることを放棄することにもつながっていくというのはかなりリアリティがあった。
こういう現実もこの世界にはあるらしい。世の中にはいろいろな世界がある。

そしてそれらの話を読んでいると貧困を避けることの意味を強く考えさせられる。


本書はルビの多さや、語りかけるような口調からして、子供向けに書かれたものだろう。
実際子供が読めばきっと何かを思うはずだ。そして大人が読んでも、胸に迫るものがある。
作者の実感と強い思いと、この世界に確実に存在する現実を強く見せつける作品だった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


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